オペラ・エクスプレス

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【METライブビューイング・レポート】《イオランタ》《青ひげ公の城》

METライブビューイングに行ってきました。チャイコフスキーの《イオランタ》とバルトークの《青ひげ公の城》のダブルビルです。ネトレプコのイオランタ役、そしてゲルギエフの指揮が凄かったです!

チャイコフスキー最後のオペラ《イオランタ》は一幕もので内容が寓意的な作品だからでしょうか、これまでロシア以外での上演は多くありませんでした。しかしネトレプコが歌姫として世界のトップに登り詰めてからは彼女がこのオペラを各地で歌っています。今回のMETの演出は2009年にバーデンバーデンで初演されたプロダクションです。

生まれつき目が見えない王女イオランタ。王様は、愛娘に事実を知らせないように閉じられた空間で彼女を育てます。しかしある時そこに騎士ヴォデモンが現れ、イオランタは自分が盲目である事を知り、そして愛を知った事により視力を得たいと切望します。チャイコフスキーの弟モデストが台本を書いたこの話はたくさんの隠喩を含んでおり、音楽が純粋で美しい珠玉の名曲です。

(C)Baden-Baden Festival Photo: Andrea Kremper

METライブビューイング《イオランタ》
(c)Baden-Baden Festival Photo: Andrea Kremper

今回のMETでの上演はバルトークの《青ひげ公の城》とカップリングで上演されました。ゲルギエフの指揮とトレリンスキの演出は両作品に共通しています。映画監督でもあるトレリンスキは映像を多用し、二つの作品を表裏一体のものとして演出しました。父親の抑圧によって世間から隔離されていたイオランタが光を求める一方、全てを手にしていたユディットは自分から危険を求めて青ひげ公の闇に近づいていくのです。壁にかかった鹿の剥製、イオランタの父親と青ひげ公の両者が右手だけ革手袋を嵌めているなど、二つの作品の共通要素が不気味です。

ネトレプコはあの少しヴェールがかかったような美声とロシア語の歌唱が素晴らしく王女イオランタにぴったりでした。最初のアリオーゾ「悲しい涙などは知らずに過ごした日々」ではほろ苦い想いを、そしてヴォデモンと出会い愛を知る二重唱も音楽性とパワーが両立して見事でした。彼女以外のキャストも充実の布陣です。相性抜群のベチャワ、レネ王役のイリヤ・バーニク、イオランタの幼いときからの許嫁ロベルトを歌ったマルコフもアリアを熱唱、また医師のアズィゾフも美声で聴かせます。合唱によるフィナーレも迫力がありました。

一方、《青ひげ公の城》の出演者は二人。ペトレンコとミカエルは歌も実力派ですが、映画俳優のような容姿と演技でした。特にミカエルの身体で表現する能力は凄かったです。演出は《イオランタ》が回り舞台を効果的に使って分かりやすい処理をしていたのに対し、《青ひげ公》の美術や映像はサスペンス映画のよう。二人の関係を思い切って性的に捉えていたのも、この心理劇を現代的にしていたと思います。

(C) Marty Sohl/Metropolitan Opera

METライブビューイング《青ひげ公の城》
(C)Marty Sohl/Metropolitan Opera

最後に特筆すべきはゲルギエフの指揮です。チャイコフスキーの音楽はロシア音楽の中では西洋的と言われますが、その中には血潮が騒ぐ熱情があり、ゲルギエフの演奏はそこが凄い。バルトークでも今回の残酷さをむき出しにした演出に負けない迫力でした。METの意欲的なプロダクションは観客にも大いに受け入れられたようですが、それは一流の演奏あってこそだと感じ入りました。

文・井内美香/reported by Mika Inouchi

●チャイコフスキー《イオランタ》
イオランタ:アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
ヴォデモン:ピョートル・ベチャワ(テノール)
ロベルト:アレクセイ・マルコフ(バリトン)
レネ王:イリヤ・バーニク(バス)
医師エブン=ハキヤ:イルヒン・アズィゾフ(バリトン)

●バルトーク《青ひげ公の城》
青ひげ公:ミハイル・ペトレンコ(バス)
ユディット:ナディア・ミカエル(ソプラノ)

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