オペラ・エクスプレス

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【公演レポート】《4音オペラ》日本語版世界初演

3月25日に東京・杉並公会堂小ホールで日本語版世界初演が行われたトム・ジョンソン《4音オペラ》を聞きに行ってきました。文字通り4つの音だけで構成された1時間弱のオペラ。普段、ベルカント時代のイタリア・オペラを偏愛している筆者は、パターン化された音型の反復を基本とすると云うミニマル・ミュージックが理解できるか不安でしたが、とても楽しかったです!

《ドア》

《ドア》
(左より)加賀ひとみ/西本真子

客席数194の小ホールはほぼ満席。音響もよく、歌の細かな表現や歌手たちのコミカルな表情まで見てとれて、このような上演にぴったりだったと思います。シンプルな舞台装置に照明などで変化をつけて(ミラーボールもあり!)印象的な舞台を作り上げていました。
前半はトム・ジョンソンの小品二つと足立智美の新作《三音ぽんがく》、後半は《4音オペラ》の全四曲で二時間弱。ほぼ出ずっぱりの上、同じ旋律の繰り返しや無伴奏での歌唱などが続き、歌手にとっては気力の限界に挑むような大変さかと思いますが、その大変さを感じさせない生き生きとした演奏で、安心して身を委ねることができました。

前半で一番面白かったのは、二番目に演奏された2014年初演作品《7つまで数える》です。楽譜の指示書きには「彼ら(演奏者たち)は恐らく碁をやっているのだろう」とありましたが、それを知らずに聞いた最初の印象は、日本庭園にある「ししおどし」でした。向かい合った2人の男性が交互に7つ数えてはウッドブロックを打つ、その間の取り方が、竹にだんだん水が溜まっていってついには重みでひっくり返りカーンと鳴り響く、あの間に似ている気がするのです。それだけなのになぜこんなに面白いのか。門外漢ならではの乱暴な感想ですが、同じ旋律を繰り返し、重ねていくだけでなぜか可笑しみが膨れ上がっていくあたりはロッシーニ・クレッシェンドに通じるものがあるかと思います。
第一曲目の《ドア》ではやや大人しめだった客席からも笑いが上がり、ここから後半に向けて、どんどん会場の空気が暖まっていった感じでした。

七つまで数える

《七つまで数える》より
(左から)大山大輔/志村文彦/布施雅也

《4音オペラ》は、いわゆる「古典オペラ」のお約束事をパロディにしたような楽しい筋立てで、「自分が世界の中心であると思いこんでいるソプラノ」「ソプラノに比べてアリアが少なく、自慢のハイCも出させてもらえずに拗ねているテノール」「華やかな高音歌手たちを羨みながら縁の下の力持ちを務める、いぶし銀の低音歌手たち」「無伴奏のソロは聞かせどころだけれど、最後に入ってくる楽器と音が合わなかったらどうしようかとドキドキ」「演出家に無理な動作やポーズを強要され、顔で笑って心で泣いて」といった様々な役柄・状況を、入れ替わり立ち替わり歌い演じる4人(+1)の見事なアンサンブルとコミカルな演技に、客席は何度も爆笑の渦に。
音楽は、4つの音しか使っていないとは時に信じられないほど変化に富み、「古典オペラ」を思わせる複雑で典雅な和音・旋律も聞かせ、最後までまったく飽きませんでした。歌詞もすべて明瞭に聞き取れ、初めから日本語で作られたかのように自然でした。
テノールの布施雅也とバリトンの大山大輔は、終始安定した発声と吹っ切れた演技が素晴らしかったです。ソプラノの西本真子は、アリアで存在感を発揮していました。メゾの加賀ひとみは、役柄と被るような「少々地味だけれどきっちり見せる実力派」的な活躍。全体を通じてちょこちょこ登場し、《4音オペラ》で一曲だけ歌って颯爽と退場した特別出演のバス・バリトン志村文彦は、さすがの存在感でした(《7つまで数える》では一音も歌わなかったけれど一番受けていたと思います)。ピアノ兼コレペティトールの藤田朗子は、《ドア》では木づちでノックも担当、熟練の演奏で、公演全体をしっかりと支えていました。

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最後に、今回の公演で、作品や演奏自体の魅力もさることながら、素晴らしいと思ったのは、筆者のように『ミニマル・ミュージックって何?』というような人間にもその魅力を伝えようという主催者の心配りの数々です。無料配布されたプログラムおよびミニトークで最低限の知識を得られる上、休憩時間や終演後には四曲すべての楽譜がロビーで自由に閲覧できたので、ページをめくって「本当に4つの音しか使っていないんだ!」と確認したり感嘆したり。《ドア》についてのクイズなどもあり(1978年N.Y.での初演時と同じものだそうです)、解答用紙を提出した人の中から一名に抽選で当公演のDVDをプレゼント!という楽しい企画もありました。もちろん応募してきましたが、普通に売って下されば買えるのに…。

文・井内百合子/reported by Yuriko Inouchi  photo: Naoko Nagasawa


2015年3月25日(水)19:00開演
杉並公会堂小ホール

【プログラム】
★第1部
トム・ジョンソン 《ドア》Door(1978)
トム・ジョンソン 《七つまで数える》Counting to Seven(2012)
足立智美 《三音ぽんがく》The Three Note Pusic(2014) 委嘱初演

★第2部
トム・ジョンソン《4音オペラ》The Four Note Opera(1972) 日本語版世界初演

【出演】
ソプラノ:西本真子
メゾソプラノ:加賀ひとみ
テノール:布施雅也
バリトン:大山大輔
バス・バリトン:志村文彦

【スタッフ】
演出:恵川智美
コレペティトール:藤田朗子
照明:望月太介(A.S.G)
舞台監督:八木清市

主催:ナヤ・コレクティブ(東京公演)
愛知県芸術劇場(公益財団法人愛知県文化振興事業団)(愛知公演)

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