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びわ湖ホール《竹取物語》稽古場レポート&沼尻竜典さんインタビュー—構想~台本執筆~作曲完成まで2年超!月から来て月に帰る、プリンセスがたどる数奇な運命

びわ湖ホール芸術監督の沼尻竜典氏が台本・作曲を手がけたオペラ《竹取物語》は、昨年1月に横浜みなとみらいホールで世界初演されました。その時は演奏会形式でしたが、今年2月にベトナムのハノイで日本人キャストと現地のベトナム人キャストの混合で舞台上演されました。そして今回は日本初・舞台上演として、びわ湖ホール 中ホールでこの週末に上演されます。同じキャストで二公演、チケットはかなり前から完売となっています。

7月末の猛暑日に、東京の稽古場で繰り広げられているソリスト達の通し稽古にお邪魔しました。歌手の皆さんは浴衣や和服の稽古着を纏い、美しい白足袋を履いています。開始時間ぴったりに沼尻氏が登場。リハーサルがスタートしました。ピアノの横にはオペラ界の長老、演出家の栗山昌良氏が。まもなく九十歳になるというのが信じられない真っ直ぐに伸びた背筋で、お話の内容も明晰です。

「竹取物語」は現代に生きる我々が読んでも実に示唆に富んだ話だと思います。月から来て、月に帰って行くという姫の出自は様々な解釈が可能で、子どもの頃に読んだ時には「竹取物語」がこんなに面白いとは到底気がつきませんでした。

沼尻さんはこのオペラの台本、作曲、そして指揮を担当しています。オペラはアリア、重唱、合唱等に、レチタティーヴォではなく普通に話す台詞が入るジングシュピール様式。その台詞部分の言葉遣いが結構現代的なのも面白いです。前半は姫が5人の求婚者達を袖にするまでのやり取り。そして後半はかぐや姫と帝のロマンスが描かれます。

かぐや姫役は幸田浩子さん。安定の表現です。初演からずっと歌っているだけあり、気位が高くて清らかな姫のキャラクターを歌でも演技でも十分に表しています。そして今回の舞台は、求婚者達に今を時めく男声歌手がずらりと揃い、また帝役に与那城敬さん、翁の清水良一さん、媼の永井和子さん等、豪華なキャストも魅力です。

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栗山氏の演出は、能・狂言の所作を取り入れて舞台を大きく使っているようでした。そして音楽は、作曲者の沼尻氏自身が「昭和の歌謡曲的」と表現する、耳に楽しいメロディーの数々、加えて諧謔的な部分、そしてかぐや姫が月に帰るフィナーレまで、聴きごたえのあるオペラがほぼ仕上がっている様子でした。


稽古と稽古後のミーティングを終えた沼尻さんに《竹取物語》についてのお話を伺いました。

Q: とても楽しそうな作品です。《竹取物語》は日本最古の物語(10世紀半ばに成立と言われている)だそうですが、このお話を選んだのはなぜですか?

A: 作曲を依頼された時に、日本とベトナムでの上演が既に決定していました。国際交流になるように日本のお伽噺を、ということと、日本人にも広く知られている物語だということです。《竹取物語》なら、あらすじを読んで劇場に行かなくても誰でもストーリーを理解出来ます。

Q: 制約が無かったら現代の話を選んだかもしれませんか?

A: でも、結局はこういうものを選んだと思います。自分が観て面白いもの、自分がやって面白いものが書きたかったですから。横浜市が作曲を委嘱した時に、題材は自由にやっていいと言って下さったのは有り難かったですね。

Q: 英語の題名、《Bamboo Princess》もすっきりしていていいと思いました。かぐや姫はどのような女性だと捉えていますか?

A: かぐや姫、というから姫君なのかと思いますが、かなりお転婆な所があったり、男性を手玉に取ったり色々な面がありますね。最後には恋に落ちて女としての自分を見出すことになる。

B: オペラ後半での、帝との恋ですね?

A: でもそれは、相手と一緒にいられる恋愛ではありません。和歌を詠み合ったりする恋愛です。かぐや姫には最初は男性に対する不信感があり、そして将来は月に帰らなくてはならない運命もあるので男の人とは距離を取っていました。しかし帝と出会い、彼の存在が彼女を最後に女にする、と言うと少し大げさですが、その彼女の変化がこの物語の一番面白い所だと僕は読みました。最後のアリアは初めて女性としてのかぐや姫を描いたものです。

Q: 今回の配役では、世界初演の横浜上演の時と同じ幸田浩子さんがかぐや姫を歌われます。

A: この役は彼女を想定して書いている所もあります。幸田さんのためにキーを変えた曲もありますし。やってみて「あら低いわ」ということがあったんです。

Q: 一緒に作り上げて来た部分もあるという事ですか?

A: そうですね。彼女には試演もしてもらいました。初演と同じと言えば、5人の求婚者の中の晴雅彦さんが歌う大伴御行役は、晴さんの個性でかなり創作した部分もあります。今回はまたこの役は晴さんに歌ってもらいます。

Q: 晴さんの場面はとても面白かったです。今回新しいキャストの方には、こういうところを期待している、というようなことはありますか?

A: 一つのオペラが出来たら、色々な人に演じてもらうという事が大事だと思っています。また違う味が出ますよね。

Q: 演出は栗山昌良さんですが、どういう出会いでしたか?

A: やはりご自分の美学がしっかりある方なので。日本のものを日本の大家にまずやってもらいたいという理由でお願いしました。この先、色々な方に演出して頂けるのが理想だけれども、まず最初の形として彼にやってもらおうと。それにもう90歳になられるので、いつ「わしは引退じゃ」とおっしゃるか分からないですし。

Q: 構想から台本執筆、そして作曲完成まではどのくらいかかりましたか?

A: はっきりは分かりませんが、二年ちょっとかかっています。

Q: 一番苦労した点はどこですか?

A: 《竹取物語》の原作は物語そのものが長く、エピソードの詳細がとてもよく書き込まれています。それを出来るだけ縮める工夫をしたり、そういう〈構成〉が一番大変でした。なにしろ構成なんて何もやったことが無い訳ですから。どのあたりを膨らませて、どの辺りをどうするか、というオペラの設計ですね。

Q: いままで本当にたくさんのオペラを指揮していらっしゃるので、そこで培った劇場的なセンスが役立ったのではないですか?

A: それはあると思います。台詞を書く時も、例えば《魔笛》などからもじったフレーズが入っていたりする部分もあるんです。

Q: 作曲のコンセプトは、昭和の歌謡曲的世界を取り入れた、とおっしゃっています。

A: そうですね。ギャグとかコントとかもみんな、昭和のドリフターズとか、クレージーキャッツとか。結構好きでしたね。特に、あそこまで手間をかけてコントを作るということは今は無いでしょう?台本を書く人がいて、装置を作る人、衣裳を作る人、出演者は練習をして、カメラがいて、照明がいて、という作り方をしていた。その頃のコントなどに対するノスタルジーがオペラの中に少しあるんです。

Q: 音楽的には美しく、覚えやすいメロディーが溢れている一方、諧謔的というか、かなり弾けた音楽もありますね。職人達のアンサンブルも面白いですね。

A: オペラの前半と後半で変えています。前半はそういうおふざけが入っていて、だんだんシリアスになっていく。前半は台詞が多く、後半はそれが音楽に収斂されていきます。

Q: ベトナム、ハノイ公演の初日には現地に行かれたのでしょうか?

A: 行っていません。あちらでは本名徹次さんが指揮をしたので。現地キャストも日本語の歌を覚えてよく歌ってくれたそうです。

Q: そして今回はびわ湖ホールで上演されます。このオペラがどのように役割を果たして、どういう風に育ってほしいな、というような思いはありますか?

A: 色々なキャストでやってほしいとは思います。もうオペラは僕の手を離れていますから。この先、今は現場で譜面を直したりしているのをもう一度ちゃんとまとめて、誰でも分かるようなきちっとした形にヴォーカル・スコアを作り直さなくてはいけません。後は、歌手の方や、色々な方に育てて頂けたら嬉しいです。

Q: 公演を楽しみにしております。今日はどうもありがとうございました。
Ryusuke Numajiri's Opera Selection インタビュー・文:井内美香  / photo: Naoko Nagasawa


滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールのサイトへ

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