オペラ・エクスプレス

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下野竜也さん(指揮)・田尾下哲さん(演出)&メインキャスト11名のうち6名が大集合!神奈川県民ホール開館40周年記念 オペラ《金閣寺》制作発表会レポート

開館から40周年を迎えた神奈川県民ホールが、地元横浜市出身の作曲家・黛敏郎氏の代表作とも言われるオペラ《金閣寺》を12月に上演します。8月19日に東京都内で行なわれた制作発表会には、公演で指揮をとる下野竜也さん・演出の田尾下哲さんの他、メインキャスト11名のうち6名が大集合!神奈川芸術文化財団芸術総監督の一柳慧さんと共に、それぞれのオペラにかける意気込みを語りました。
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オペラ《金閣寺》はベルリン・ドイツ・オペラが、当時の日本を代表する作曲家だった黛敏郎氏(1929~1997)に委嘱したオペラで、同歌劇場では1976年に初演されました。日本では1991年の全幕初演以降、97・99年に上演されています。三島由紀夫の原作は一般への知名度も高く、チケットの出足も好調の様子です。
始めに、神奈川芸術文化財団芸術総監督の一柳慧さんから、今回の上演にあたってのお話がありました。

一柳慧(作曲家) 神奈川芸術文化財団芸術総監督

神奈川県民ホール開館40周年記念 オペラ《金閣寺》制作発表会レポート
黛敏郎氏は、日本の作曲家の中では最もダンディーだと言っていい方だと思います。それが彼の音楽にも反映されておりまして、彼の巧みな音さばき、あるいはアイデアマンとして楽器を操り、聞く人を惹きこむオーケストレーションの見事な現代性は、群を抜いておりました。
オペラ《金閣寺》の音楽の独自性は、ストーリーの展開を音楽が牽引し、緊張感が最後まで継続する作品というところにあります。冒頭から出現いたします仏教の声明を思い起こすような雰囲気の音楽が、明晰な響きで主役の溝口の心理描写を反映するように進行して行きます。お客さまはすぐに音楽とストーリーに惹きこまれて行くでしょう。切れ目のないところが黛音楽の本質だと思っておりますが、それがこのオペラにもよく現れています。
今回の金閣寺の公演は黛世代に代わり、演出の田尾下さん・指揮の下野さんをはじめ、出演者も若い世代の方が中心です。その新しい音楽性に対して、私は心から楽しみにし、期待して聴かせて頂こうと思っています。


続いて、指揮者の下野さん、演出家の田尾下さんがそれぞれお話されます。お二人は以前に、今回と同じ神奈川県民ホールの舞台で、ヴェルディの《運命の力》(主催:首都オペラ)に取り組みました。今回は、その後10年ぶりの共同作業ということです。お互いに同世代であり、立ち稽古の最初の段階から共同してオペラを作り上げたという経緯は、特別な思い出となっているといいます。今回の《金閣寺》という難しいテーマに、団結して取り組んで行こうという気概が強く伝わって来ます。

下野竜也(指揮)

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指揮者を目指して西洋の音楽を中心に勉強して来ましたが、やはり日本人として日本人の作曲家の曲にも興味を持ち始めました。その中で「三人の会」という存在が最初のキーワードとして自分の中にはありました。
(注:三人の会・・・芥川也寸志、團伊玖磨、黛敏郎が1953年に結成したグループ。1962年までの間に5回の演奏会を行い、自作を発表した。)
戦後の日本の音楽界を牽引して下さった、中心的なこの三人の方々の作品を極力取り上げることが出来ないかなと、自分が所属しているオーケストラなどでも挑戦して来ました。そんな中、《金閣寺》を演奏させて頂くことは、自分に取っては願ってもないチャンスです。
県民ホールは比較的大きなホールです。《金閣寺》は大変ボリュームのある音楽になっていますが、それを存分に鳴らし切ってもハレーションを起こさずに、充分にその響きをお客さまに味わって頂けるのではないかなと思います。黛サウンドと言うと、とにかく大きな音が鳴るということのイメージが強いかもしれませんが、決してそれだけではなく、非情に色気のあるサウンドだなぁと自分は感じています。この《金閣寺》も、そういう面を沢山含んでいると思いますので、ただ迫力のある演奏だけでなく、三島由紀夫作品の様々な心理描写を、音の響きによって表現することを目指したいと思います。
三島由紀夫さんがお話してる映像を見たときに一番驚いたのは、三島さんが大変に美しい日本語をお話になるということで、非情に衝撃を受けました。夏に京都に滞在する機会があり、その時に落ち着いてもう一回、「金閣寺」を読み直したんですが、こんなにも美しい日本語を書く人がいらっしゃったのか!と再発見しました。オペラはドイツ語ではありますが、そんなありさまに作り上げることが出来ればいいなあと。
また今度京都に行くので、今度はゆっくり「金閣寺」を眺めながら、色んな 思いを馳せたいと思います。マッチだけは持っていかないようにしたいです・・・(会場笑)

田尾下哲(演出)

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オペラ台本と小説の「金閣寺」との相違点である「吃音」の解釈に、大いに悩みました。
(注:三島の小説での溝口は吃音症として描かれているが、ヘンネベルクのオペラ台本では、片手が不自由という設定になっている。)
台本を読み込んでも読み込んでも、どうも腑に落ちないというか・・・。吃音を手の障害にすることによって、失われたものがあまりにもあるように思います。 例えば、友人の柏木が、溝口に尺八を渡すというエピソードがありますが、小説では溝口は、物凄くスムーズに尺八を扱うことが出来るようになる。溝口という人物は、対人関係においては吃音でも、心の中や演奏を通しては自由なのです。しかし、ヘンネベルクの台本のように、手の不自由な人に尺八を渡すということは意地の悪い行為です。その2つの意味は全く違って来てしまう。
そこで視点を変えて、「これは三島のではなく、ヘンネベルクの金閣寺だ」として読み直してみようと思いました。オペラ版ヘンネベルク版黛敏郎作曲《金閣寺》の物語を伝えられるように頑張りたいと思います。
尚、この尺八のくだりは、後の展開とつながりがなく物語が断絶してしまうので、今回はカットさせて頂く予定だということを申し上げておきます。
一方、今までの日本の上演ではカットされていた、「京都の正月」という第3幕第4景のシーンを挿入致します。こちらは、道詮和尚が愛人を連れて通り過ぎるのを溝口が見かけるという場面ですが、今回の《金閣寺》公演の中でも、最も印象的なシーンにしたいと思っています。
黛さんの音楽は、物凄く炎のイメージを喚起させる音楽です。演出において、個人的なキャラクターの解釈もそうですが、どう金閣寺を燃やすかということが、大きな見どころとなります。プロジェクションなど色々なやり方の選択肢はありますが、私たちプロダクションスタッフ(装置家・照明家・衣装家)の会議では、ある一つの答えに近付きつつあります。凄く原始的かもしれませんが、「美しく」且つ「燃える」ということを目指してやりたいと思っています。


今回のオペラ《金閣寺》の上演では、10役のソリストのうち、主役の溝口のみがWキャストで行なわれます。記者発表では、そのうちの6名が、豪華に揃い、それぞれの役どころや抱負を語りました。

小森輝彦(バリトン) 溝口/12月5日

© Naoko Nagasawa_DSC_7525僕はこの作品に深い縁を感じています。まず、僕が師事していた勝部太先生が、日本初演を歌われた役だということ。丁度初演が行なわれているときに、勝部先生に大学院で師事していました。舞台表現者としても最高に尊敬しているバリトンの勝部太先生が日本初演をされた役を歌わせて頂けるということを、大変嬉しく思ってまいす。これはドイツ語のオペラですけども、日本からオペラを発信して行く中で、勝部先生が果たされた役割を先につなげて行くという責任を感じています。
次に、オペラ《金閣寺》は、ベルリンドイツオペラの委嘱で作られた作品ということです。僕は4年間ベルリンに留学していたので、ベルリンドイツオペラには、毎日のように足を運んでいましたから。
もう一つ、三島つながりです。ドイツの劇場で専属歌手として働き始めた頃に、指揮者のロルフ・ロイターさんに可愛がって頂きました。この方は、ライプツィヒで長年オペラの総監督を務め、コ-ミッシェオーパーベルリンでも13年間音楽監督をなさった方で、大変な三島ファンでした。僕は当時三島作品を読んだことがなかったのですが「お前は日本人のくせに三島を読んだことないのか」と、凄く怒られまして。その後のことですが、オペラ歌手として三島と関わる機会が出来て、最初に「午後の曳航」、細川俊夫先生の「班女」、そしてこの「金閣寺」です。 このオファー頂いた時は本当に嬉しかったですね。
題名のない音楽会での司会を拝見していて、黛先生の作品には興味を持っていました。外国語に曲をつけるということは、大変に難度の高いことだと思います。黛先生はドイツ語のイントネーションが作曲と合っているかどうかというのを確かめるために、ドイツ語のネイティブの方に何度も連絡を取って、丁寧な仕事をされたということを後で知りました。僕はそれを知らずに作品を見ていて、なんてドイツ語に沿ったメロディーなんだろうということを感じていました。僕は以前、ライマン作曲の「リア」でも、ヘンネベルクの台本に触れていますが、読めば読むほど音楽が馴染んで来るんです。ライマンはドイツの作曲家ですが、同様に黛先生の作品も、ドイツ語が身体に入って来ないと溝口が身体に入って来ない。逆に言うとドイツ語がなじんでくると歌い易くなって来るんです。黛先生が、いかにドイツ語へのセンスが高いかとうことがわかります。黛先生が、こういう丁寧な仕事をされて、ドイツ語ではありますけれども、我々日本人が世界に発信できるものという意味で、今本当にやらなければいけない仕事の一つだと思っています。

宮本益光(バリトン) 溝口/12月6日

© Naoko Nagasawa_DSC_7530音楽家をやっていると自分が無力であるなぁと思う瞬間が多々あります。先の震災だったり、様々なところで自分が音楽と関わって行くことを志して、そこに喜びを見出していながらも、無力を感じることがあるわけです。溝口という役は、三島の言葉を借りれば、無明の闇を払うために美を焼き払うんだ・・・ということを言うわけですけれども、自らの無力と対峙するためにクーデターを起こす。かなり勇気を要する役でもあるなぁと思います。
一般に、「金閣寺」というと、どうしても三島の小説を思い浮かべてしまいます。例えば「炎上」という映画を黛さんが音楽担当されているように、黛さんの中で、この金閣寺をオペラ上演として創作することが決まったときに、様々な角度から、いかにして音楽作品として成立させるかという思いがあったに違いありません。私たちは音楽家ですので、「三島の金閣寺」を演ずるだけではなく、黛敏郎の音楽作品として、《金閣寺》を表出して行く。そういうところに重きをおいて取り組んで行きたいなと思っています。

飯田みち代(ソプラノ) 母

© Naoko Nagasawa_DSC_7540悪女担当ソプラノ歌手、今回も悪女をさせて頂くのを楽しみにしております。
オペラを演じる時は、まず台本を読み、楽譜を読み、その後原作を読んだり、参考になる文献を沢山読みます。今回は、溝口の精神鑑定書を取り寄せて読んだり致しました 。そうして、この台本と原作とオペラとは全く違うお話であるということがよくわかったので、それからは台本だけからとにかく読み込んで行こうと思っているところです。
私は心理学を専攻しましたが、大学で勉強したフロイトやユングの世界のエディプスコンプレックスのようなものをテーマにしているのかという気がいたしまして、 自分に取っては大変親しみ易いテーマだなという風に感じました 。
それに対して色々な演出の仕方や演じ方・歌い方があると思いました。本当に様々なものが思い浮かびますが、大変信頼させて頂いているマエストロや演出家の先生のご意向を伺うのがとても楽しみです。とにかく何事にも動じずに、どんな要求をされても応えられるように、準備を進めて行こうと思います。

三戸大久(バリトン) 道詮和尚

© Naoko Nagasawa_DSC_7545道詮和尚は、一番最初に登場して、溝口の父と会話をします。いってしまえば権威の象徴というか。実年齢としてはすごく離れていますが、父役の黒田さんと同級生という設定ですと、歳の差が非情にあるなぁと・・・。そこはあまり意識せずにやりたいです。もしかしたら田尾下さんが、ステレオタイプの権威の象徴というキャラクターではなく作ってくれるのではないかと期待しております。今までカットされていた、京都の夜の場面があるので、その場面がどういう風になるのかも楽しみです。
この神奈川県民ホールのプロジェクトには、一昨年の一柳先生のオペラ《ハーメルンの笛吹き男》で出演させて頂きました。実はそれ以前に、東京オペラシンガーズに所属していた時期がありまして、その時に《白墨の輪》《遠い帆》にも参加させて頂きました。今回のコーラスは東京オペラシンガーズが担当されるということで、元同僚と共演できるということも大変心強く、素晴らしい公演になると確信しております。

吉原圭子(ソプラノ) 女

© Naoko Nagasawa_DSC_7547女という役は、戦争で愛する人を失くし、身篭っていた子供さえも死産してしまいます。そんな中でも、彼女はとてもしたたかに強く生き抜いたのではないかなと感じました。この役は、女性が本来持っているたくましさやしたたかさを表現してるのではないかなと強く感じます。舞台に臨むにあたり、女性が本能的に持っている強さ・したたかさ・情念などを、歌や演技で表現できたらと思っております。

嘉目真木子(ソプラノ) 有為子

© Naoko Nagasawa_DSC_7551有為子役のオファーを頂いた時に、はずかしながらこの《金閣寺》というオペラを聴いたことがございませんでした。ですので、どういう音楽でどんな歌を歌う役なのかということをまず楽譜を見て確認させて下さいということでお願いして楽譜を預かりました。ところが、ページをめくってもめくっても出てこない・・・おかしいなと思っていたら、最後の方で2ページくらいなんですが歌う箇所がようやく出て来ました。黛先生の作品をやらせて頂くのは本当に初めてでしたので、とても不安の方が大きかったのですが、楽譜を拝見して、この音楽だったら是非挑戦させて頂きたいなということで、お受けすることに致しました。
有為子という役は、溝口の初恋の美少女ということになっていますので、その設定を裏切らないように、まずは急激な見た目の変化が起こらないように気をつけて行きたいと思います。(会場笑)
演出の田尾下さんからは、自転車に乗れるかという質問を頂きましたので、美少女らしく美しく自転車に乗る練習を早速始めたいと思います。
最後になりましたが、出演者の中でおそらく私が一番最年少なのではないかと思うのですが、素晴らしいマエストロ、田尾下さんはじめ先輩歌手の皆さまに喰らい付いて、文字通り体当たりで頑張って行きたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。

取材・写真: Naoko Nagasawa
神奈川県民ホール開館40周年記念 オペラ《金閣寺》制作発表会レポート © Naoko Nagasawa


【公演情報】
第22回神奈川国際芸術フェスティバル
神奈川県民ホール開館40周年記念 神奈川県民ホールオペラシリーズ2015

黛敏郎 作曲/三島由紀夫 原作/クラウス・H・ヘンネベルク 台本

オペラ《金閣寺》


全3幕(ドイツ語上演・日本語字幕付)
2015年12月5日(土)/6(日)15時~ 神奈川県民ホール

指揮:下野竜也
演出:田尾下哲
装置:幹子 S.マックアダムス
衣裳:半田悦子
照明:沢田祐二
音響:小野隆浩
ドラマトゥルク・字幕:長屋晃一

溝口:小森輝彦(5日)/宮本益光(6日)
父:黒田博
母:飯田みち代
若い男:高田正人
道詮和尚:三戸大久
鶴川:与那城敬
女:吉原圭子
柏木:鈴木准
娼婦:谷口睦美
有為子:嘉目真木子

合唱:東京オペラシンガーズ
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

主催:神奈川県民ホール


【関連企画】
●音楽講座 黛敏郎と「金閣寺」
11月7日(土)14時〜15時30分 神奈川県民ホール6F大会議室
●文学講座 三島由紀夫と「金閣寺」
11月29(日)13時〜14時30分 神奈川近代文学館
●日本語による朗読劇「金閣寺」
11月29(日)16時 神奈川県民ホール大ホール
●プレトーク
12月5日(土)14時30分〜田尾下哲×幹子 S.マックアダムス
12月6日(日)14時30分〜田尾下哲×片山杜秀

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