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【公演レポート】2015OMFオペラ《ベアトリスとベネディクト》---指揮者交替を乗り越え、ベルリオーズの「微笑み」が垣間見える大団円に!

【公演レポート】2015OMFオペラ《ベアトリスとベネディクト》---指揮者交替を乗り越え、ベルリオーズの「微笑み」が垣間見える大団円に!

今年から第1回目となるセイジ・オザワ松本フェスティバルのオペラ公演《ベアトリスとべネディクト》の初日を見てまいりました。23回続いたサイトウ・キネン・フェスティバル松本が、今年から上記のように名称が変更されたことが大いに話題になりました。それだけにベルリオーズのこの珍しいオペラを小澤征爾さんが久しぶりにオケ・ピットで振るということで期待を集めたのですが、8月1日に怪我をされて今回は、急遽アメリカからギル・ローズ氏が招聘されて振ることになりました。このため、当初の入場料を一部割り引くという手段が取られました。(入場の際に、チケットを確認して返金されるので、30分前の入場では結構長い列が続いていました。)
その初日、不安と期待が入り混じった気持ちで座席につきました。ベルリオーズにとっては最後のオペラであり、解説の岸純信さんの言葉によれば「微笑んで書いたオペラ」だそうです。原作はシェイクスピアの戯曲『から騒ぎ』ですが、その中の1つのエピソードを役柄も絞って再構成されたもの。簡単に言えば、二組の男女がいて、一組は相思相愛ですぐに結婚するという男女。もう一組が、いつも相手の悪口を言い合うという仲、この男女が題名となったベアトリスとべネディクトです。結局、この悪口を言い合っていた二人も、意地を張り合いながらも結ばれるという筋としてはたわいのないもの。
幕が開くと、大きなアトリウムのような天蓋のある南国風の舞台装置(シゴレーヌ・ドゥ・シャシィ)が、なかなか魅力的。事前に舞台裏から見たときには、それほど素敵とも思わなかったのですが、いったん照明(トマ・コステール)が入ると実にその天蓋が、場面によって様々な色彩で変化するという効果によって、舞台をいっそう華やかなものにしてくれました。また、この舞台での7人の歌手と5人の語り役(台詞だけの登場人物)と合唱を巧みに捌いて、時代設定などは変えているものの比較的オーソドックスな演出(コム・ドゥ・ベルシーズ)にも好感が持てました。彼はなんと、35歳という若さです。
さて歌手陣も、主役のベアトリクスを演じるのが、ヴィルジニー・ヴェレーヌ。今年のメトのオーディション受賞者というので、舞台経験もさほどないようですが、新人らしい初々しさと、らしからぬ舞台度胸で、相手役のベネディクトを演じるジャン=フランソワ・ボラスと丁々発止の悪口の言い合いは、キャリアの差もあまり感じさせません。もっと声が練れてくれば、きっといいソプラノになる素質を持ったソプラノのように思いました。もう一組の男女、相思相愛のエロー役のリディア・トイシャーとクラウディオ役のエドウィン・クロスリー=マーサーとも、容姿も声質もキャラクターに合った演技と歌唱に好感が持てました。唯一コミカルな役の楽士長ソマローネを歌ったジャン=フィリップ・ラフォンは、さすがに自国語での演技はこなれたもの。語り役の多いこのオペラでは、レオナート役のクリスチャン・ゴノンをはじめ、それぞれが達者に演じて、このオペラのブッファ的な要素を盛り上げていました。
急遽ピンチヒッターにたったギル・ローズの指揮は、駿馬揃いのサイトウ・キネン・オーケストラを巧みに操り(操られ)、不安を感じさせない安定したものでした。それだけに、小澤さんが振ってくれたらもっと濃密な舞台が観られたであろうと思うのは、ないものねだりというものでしょう。
終演後の楽屋では、それぞれのスタッフやキャストが笑顔でハグしあっていました。彼らにとっても張り詰めていた緊張が解けて、成功に導いた至福の一瞬だったのでしょう。(8月24日所見)
OMF《ベアトリスとベネディクト》 © Naoko Nagasawa (OPERAexpress)文・新井巌 reported by Iwao Arai / photograph:Naoko Nagasawa

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