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オペラで愛まSHOW!■番外編その6■香盛(こうもり)修平のたわけた一日~プラハ国立歌劇場《椿姫》~

サラリーマン、オペラ歌手?小説家?の

香盛(こうもり)修平です。

連載の他に「オペラ観劇して感激した!」といった話を不定期につぶやきます。題して「香盛(こうもり)修平のたわけた一日」
オペラで愛まSHOW!■番外編その6■


■番外編その6■~プラハ国立歌劇場《椿姫》~

2015年10月11日に、「椿姫」(よこすか芸術劇場)を観劇して、またまた感激してしまいました。音楽評論家でもなんでもありませんので、無責任なつぶやきとして読み飛ばしてください。日本では珍しい馬蹄形の劇場。客席の照明が徐々に暗くなり、馬蹄形のバルコニーのオレンジの灯りが少し遅れて消えていく。オケピットの中で、譜面灯の光に照らされた少し緊張した奏者達のシルエットが浮き上がる。
やがてチューニングの音が聴こえ……。

それだけでオペラに囚われてしまった人達は心が踊ってしまう。そしてその演目が「椿姫」ならばなおさらのことだ。オペラの名作は数々あるが、「椿姫」は上演回数も多く世界中で愛されている作品。

オペラファンでなくても演目くらいは知っている定番オベラと言えば「椿姫」「カルメン」「フィガロの結婚」だろう。

初めて舞台で歌ってオペラにはまりたいとしたら「カルメン」がいい。香盛修平は「カルメン」の合唱に出たことからオペラの世界から逃れられなくなった。
「フィガロの結婚」はもちろん素晴らしいが、少しオペラの世界にはまってから観劇した方が楽しめる。初心者向けのようでなかなかの歯応えがある。

もし、初めてオペラを観るならと尋ねられたら私は「椿姫」をあげる。

純粋な愛の物語。美しいヴィオレッタのはかない命。ささやくような弦の響きが美しい前奏曲から、あざといまでにトゥッティ(音楽用語:演奏している全ての奏者が同時に奏すること)で追い詰める音楽まで、ドラマチックで魅力溢れた作品。それだけでオペラファンが一人増えることは確実だ。

しかし、そんな単純な物語だろうか?この物語は中毒性を持っているのでご注意いただきたい。その中毒性はオペラへの入り口としては最適だ。

高い芸術性を誇りにしてきたオペラ作品の中で、そもそも娼婦を主人公としたストーリーがこれだけヒットするということ自体も面白く、興味をそそられる。

今回の観劇を前にデュマ・フィスの「椿姫」をあらためて読んだ。純粋な愛の物語というよりは胸苦しいほどに残酷な命の物語だ。デュマ・フィス自体が私生児ということもこのストーリーや人物の捉え方に影響している。今回の公演のプログラムに書かれている音楽評論家の加藤浩子さんの文を読むと、ヴェルディに私生児としての運命を背負わせてしまう娘がいたらしい。このことは初めて耳にした。この作品ができた背景そのものにもドラマがある。

「椿姫」は本当に素晴らしいが、どこかに違和感というか、腑に落ちないところがあった。二幕のヴィオレッタとジェルモンの長大な二重唱もそうだ。高級娼婦であるヴィオレッタが、突然訪ねてきたジェルモンの説得に応じてしまうのか。原作ではこのあたりはもっとドロドロしている。繰り返し聴いてきた演目だが、音楽の力でその違和感は消し去られていた。特にバリトンの末席にいる私はブルゾンやヌッチのジェルモンを聴くだけて満足していた。

今回のアルノー演出は白いパネルと椅子だけのシンプルな舞台。それだけにヴィオレッタという人物像に焦点が集まる。

好き嫌いが別れる演出かもしれないが、ヴィオレッタに焦点が集まり続ける効果はあった。一幕からヴィオレッタの人生の終焉は予感させられた。一幕の合唱は、いきなりリズムが前のめりになってオーケストラとバラけそうになったが、指揮者がすぐにコントロールした。逆にそのことが、単なる高級娼婦との欲望渦巻くパーティーではない緊張感を演出した。言葉を厳しく叩きつける合唱とアルノーの演出がヴィオレッタを孤立させる。舞台は生き物だからそこが面白いところだ。

二幕。ジェルモンは若くイケメンで父親というイメージでは無かったが、屋外から差し込む一筋の光りの中でヴィオレッタに投げつけた「二人の子供」という言葉がぐっと胸に迫った。ヴィオレッタはアルフレードしか見えていなかった。その中で自分の運命を変える、もしくは忘れることができると思っていた。
しかし「二人の子供」というジェルモンの言葉はヴィオレッタにはあまりに重たかった。アルフレードには妹がいる。その妹の運命を変えてしまう可能性に気づいたのだ。それまではアルフレード「一人」しか見えていなかった。その言葉をジェルモンが発した後、ヴィオレッタは人生の時間を縮めようとしているように見えた。

デュマ・フィスとヴェルディ二人の背負った運命が、このオペラの緊張感を生み出したのだ。そのことが私が抱いた若干の違和感の原因であり、それがオペラとしての魅力につながっていると感じた。

今回の出演者では、サムイルが歌唱、演技ともに突出していた。三幕まで声は衰えず、弱音もコントロールされて素晴らしかった。カーテンコールではチャーミングな素顔も見せてくれた。

これから公演が続くのでネタばらしはやめておきたいが、今回の演出で、ヴィオレッタの死に手を差しのべることは誰もできないことを観客は知る。

道を踏み外した女。

果たしてそうだろうか?私には道を踏み外しているのは回りの男たちにしか思えない。ヴィオレッタは常に運命に身を任せただけなのだ。アルノーの演出はそう言っているように思えた。
© Naoko Nagasawa (OPERAexpress)_4757
これから全国ツアーが続きます!話題のデジレ・ランカトーレも登場。是非とも劇場で「椿姫」を体感してください。今回の演出は初心者向けではありません。デュマ・フィスの小説「椿姫」を読んでからの観劇をお勧めします。

文:香盛修平 / photo:Naoko Nagasawa

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