オペラ・エクスプレス

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【公演レポート】モーツァルトも登場!ーーーオペラシアターこんにゃく座《魔法の笛》

こんにゃく座の《魔法の笛》を観てきました。モーツァルトの《魔笛Die Zauberflöte》に、長年こんにゃく座の芸術監督・座付作曲家をつとめた林光が日本語歌詞をつけたものです。初演は1994年俳優座劇場でした。1999年にも新国立劇場小劇場で再演されています。
オペラシアターこんにゃく座《魔法の笛》 09 © Naoko Nagasawa (OPERAexpress)
演出は初演時と同じ加藤直ですが、装置、衣裳、照明、振付などは一新されています。今回、オペラ・ファンとして大注目だったのがオペラ界の重鎮、バス・バリトン歌手の多田羅迪夫がザラストロ役で客演したことです。多田羅は1971年にこんにゃく座が旗揚げしたときのオリジナル・メンバーでした。数年でこんにゃく座をやめてイタリア留学、その後ヨーロッパの劇場で歌い、帰国後の活躍はここに書くまでもありません。これまで、こんにゃく座の《魔法の笛》のザラストロ役は6人の出演者によって一人の人物を演じていたそうで、今度はそれを一人で演じ日本語で歌うということで、これまでパパゲーノや弁者を通常のドイツ語上演で歌ったことはあるがザラストロ役は初めて、という多田羅自身にとっても初挑戦の舞台となったそうです。

俳優座劇場は結構年季が入っている小さめの劇場ですが、雰囲気がいいですし、音響も悪くないです。

旅役者たちが鞄を手に客席の通路に登場します。彼らはシカネーダーの一座。モーツァルトのおかげで世界に広く名が残ったこの一座は、シェイクスピアなどに加えて数多くの外国語オペラもドイツ語で上演し、旅公演も多かったそうです。まさに、こんにゃく座のあり方によく似ていますね。役者たちがモーツァルトを訪ねる場面からお芝居は始まり、モーツァルトの《魔笛》上演の合間にもシカネーダーとその弟、シカネーダーの妻、そしてモーツァルトなどによる芝居が続けられます。

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舞台上には同心円がたくさん描かれている丸い舞台があり、その上は半球形の骨組みがあります。その外の上手(かみて)側にはピアノ、フルート、クラリネット、ヴァイオリンの計4名がいます。楽器は他にもチェレスタ、トランペット、トロンボーン、ティンパニーが使用されてかなり華やかです(ピアノは作曲家の寺嶋陸也)。大きな金属板の効果音も迫力でした。下手側は主にシカネーダーの弟が様々な蘊蓄を述べる場所として使われます。

音楽的にはアリアの繰り返し部分などはカットしていましたが、それ以外はほぼ忠実な上演だったようです。なお、第二幕のザラストロと僧侶たちの「おお神よ、お願いです」の後には、林光作曲の「遠い遥かの時の彼方から」というモーツァルトが歌う曲が挿入されます。「僕らは死ぬけれど音楽は残る」という、この上演のテーマのような曲でした。林光の日本語歌詞は言葉を伝えることを第一義に考えているようで、まず音楽ありきで音価に合った言葉を埋めていくという方向ではありませんでした。それだけに内容を伝える力は強かったです。

歌役者でなんといっても大好きだったのがまず大石哲史のパパゲーノ。この方、本当にいいです。シカネーダーとパパゲーノを演じますが、台詞も凄いし歌が抜群に上手い。ほっこりする人間臭いパパゲーノ。つまりはパパゲーノそのものです。パミーナの梅村博美も大変良かったです。ルックスも声も、そして歌も。清く正しく美しく、そして可愛くてちょっとお転婆なパミーナ。シカネーダーの弟とモノスタトスを演じた高野うるおも、やたら詳しい《魔笛》の解説など面白かったです。声にも特徴があって際立っていました。

ザラストロの多田羅迪夫は別格の存在感でした。まず風格のある容姿。そして台詞が素晴らしかったです。よく通る声で、格調高いのです。歌はもちろん素晴らしい。低音もよく響いていました。エジプトの太陽神ラーのイメージだという立派な被り物がある衣裳も大変よく似合っていました。

モーツァルトは私が観た初日は太田まりが演じていましたが、ロココ風の服装でいたずらっぽい感じがチャーミングでした。タミーノ役も女性が演じます。初日の山本伸子は美青年風の容姿で素敵でした。声も素直な美声で好感が持てました。

夜の女王は青木美佐子。超高音だけでも大変なのに早口言葉がすごかったです。パパゲーナの田中さとみはキュートでした。長老の武田茂は特徴のある美声。三人の侍女は大久保藍乃、西田玲子、岡原真弓。コミカルな演技が楽しいけれど歌も上手。僧侶や兵士達も好演でした。

ところで、三人の童子は小林ゆず子、熊谷みさと、沖まどかという女性三人が演じましたが、最初の場面では竹馬で登場してびっくりしました。白くて、何だか〈流氷の妖精〉みたいな衣裳で動きも含めてラブリー。歌も良かったです。


合唱まで含めて歌役者達の動きはいつもながら鮮やかでした。衣裳は伝統的な《魔笛》のスタイルで格好良かったです。また、照明が息をのむほど美しく、特に虹色や水の中にいるような光は素晴らしかったです。今回も観て良かった、と心から思えるこんにゃく座の名舞台でした。
(2015年9月3日所見)

文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photograph : Naoko Nagasawa


オペラシアターこんにゃく座公演
歌芝居《魔法の笛》
Singspiel DIE ZAUBERFLöTE
2015年9月3日(木)〜9月13日(日)俳優座劇場

台本:エマヌエル・シカネーダー
作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
林光(「遠い遥かの時の彼方から」)
訳詞:林光
演出・台詞・構成:加藤直

美術:池田ともゆき
衣裳:太田雅公
照明:成瀬一裕
振付:山田うん
編曲:吉川和夫、寺嶋陸也、萩京子、林光
舞台監督:八木清市

キャスト:
パパゲーノ/シカネーダー:大石哲史
パミーナ/シカネーダーの妻:梅村博美
ザラストロ:多田羅迪夫(客演)
夜の女王:青木美佐子(♣)、豊島理恵(♦︎)
タミーノ:山本伸子(♣)、鈴木あかね(♦︎)
モノスタトス/シカネーダーの弟:高野うるお
パパゲーナ:田中さとみ(♣)、川中裕子(♦︎)
夜の女王の侍女1:大久保藍乃
夜の女王の侍女2:西田玲子
夜の女王の侍女3:岡原真弓
長老:武田茂
奴隷/僧侶:佐藤久司
奴隷/僧侶:佐藤敏之
奴隷/僧侶:富山直人
奴隷/僧侶/兵士1:沢井栄次
奴隷/僧侶/兵士2:島田大翼
少年1:小林ゆず子
少年2:熊谷みさと
少年3:沖まどか
モーツァルト:太田まり(♣)、金村慎太郎(♦︎)

フルート:姫田大
クラリネット:橋爪恵一
ヴァイオリン:山田百子(9/3・7・11〜13)、手島志保(9/4〜6、8〜10)
ピアノ・チェレスタ:寺嶋陸也

シカネーダー楽団
トランペット:島田大翼、泉篤史
トロンボーン:太田まり
ティンパニー:鈴木あかね(♣)、田中さとみ(♦︎)、島田大翼

(♣)9/3・6・7・9・11/12昼︎
(♦︎)9/4・5・8・10・12夜・13

音楽監督:萩京子
主催・制作:オペラシアターこんにゃく座
後援:日本モーツァルト協会

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