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【METライブビューイングレポート】声の競演《イル・トロヴァトーレ》で興奮のるつぼと化した劇場!

【METライブビューイングレポート】声の競演《イル・トロヴァトーレ》で興奮のるつぼと化した劇場!

NYのメトロポリタン歌劇場、今年のシーズン・オープニングにはヴェルディ中期の人気作品《イル・トロヴァトーレ》が上演されました。四人の主役に“ヴェルディの声”を持った歌手が揃わないと上演しても意味がない、と言われる難しい演目です。今回の上演にはMETならではの国際的なアーティストが集結し、華々しい声の競演が繰り広げられました。

IL TROVATORE(c)Marty Sohl Metropolitan Opera
IL TROVATORE
(c)Marty Sohl Metropolitan Opera

四人の出演歌手はレオノーラにアンナ・ネトレプコ(ソプラノ)、ルーナ伯爵にディミトリ・ホヴォロストフスキー(バリトン)、マンリーコにヨンフン・リー(テノール)、アズチェーナにドローラ・ザジック(メゾ・ソプラノ)。心配だったのは初夏に脳腫瘍であることを発表していたホヴォロストフスキーでした。彼の病気を知っているMETの観客は、ホヴォロストフスキーが最初に登場すると熱狂的な歓声と拍手で彼を迎えました。今回はロンドンでの治療を中断して3回だけMETのステージに立ったとのことですが、そのような不安は微塵も感じさせない歌と演技でした。幕間のインタビューでも「順調に回復しているよ!」と観客を安心させる発言をしていました。

指揮はマルコ・アルミリアート。最初はかなりゆったりめのテンポに感じましたが、弛緩することはなく歌を良くフォローした演奏でした。デイヴィッド・マクヴィカーの演出は2009年からのプロダクションです。殺伐とした空間に象徴的に火刑台を表すような装置が置かれ照明でドラマを表現。衣裳の時代設定は19世紀初頭になっていました。

METライブビューイングの圧倒的なスターで、今回の《イル・トロヴァトーレ》の合間に「アンナ・ネトレプコの軌跡」という短い特集が上映されたネトレプコは持ち前の深みのある音色を生かし、レオノーラ役をパワフルにそして情感豊かに歌い上げていきます。ホヴォロストフスキーとは声も容姿もバランスが良く二人の舞台上のフィーリングは画面にも滲み出ていました。

アズチェーナ役のザジックはMETにデビューしたのが1988年、まさにこのアズチェーナ役だったとのことですが、声はいまだに素晴らしい輝きを持ち、マンリーコへの不思議な愛情と復讐への気持ちが入り混じった複雑な性格をはっきり感じさせる素晴らしい歌唱でした。

そして《イル・トロヴァトーレ》と言えば、なんといってもテノール歌手が重要ですが、今回はMETに5年前にデビューしたリーが感動的なマンリーコ役を演じました。世界的に活躍している韓国人歌手の中でもリーは圧倒的な美声を持ち、整った容姿も主人公にふさわしいと思います。2011年のMET来日公演では来日をキャンセルしたヨナス・カウフマンの代役として《ドン・カルロ》に主演しました。ライブビューイングは今回が初めてということでインタビューに答える姿などは控えめな印象でしたが、舞台では大スター達に一歩も引けをとらぬ情熱の塊のようなマンリーコを演じました。

国際的なスターが集い最高のステージを提供する、そしてそのステージを世界中に発信する。やはりMETは特別なオペラハウスです。今シーズンはこの後も《オテロ》《トゥーランドット》《マノン・レスコー》《蝶々夫人》などのイタリア・オペラ、そして《タンホイザー》《エレクトラ》というドイツ・オペラの人気演目に加え、ベルクの《ルル》、ビゼー《真珠採り》、ドニゼッティ《ロベルト・デヴェリュー》というより珍しい演目を加え万全の態勢。オペラという文化を世界に広めるMETの貢献はますます広がっていきそうです。
文・井内美香 reported by Mika Inouchi

METライブビューイング《イル・トロヴァトーレ》の作品紹介

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