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オペラで愛まSHOW!■番外編その8■香盛(こうもり)修平のたわけた一日~関西二期会《ウィンザーの陽気な女房たち》~

オペラで愛まSHOW!■番外編その8■香盛(こうもり)修平のたわけた一日~関西二期会《ウィンザーの陽気な女房たち》~

サラリーマン、オペラ歌手?小説家?の

香盛(こうもり)修平です。

連載の他に「オペラ観劇して感激した!」といった話を不定期につぶやきます。題して「香盛(こうもり)修平のたわけた一日」

オペラで愛まSHOW!


■番外編その8■~関西二期会《ウィンザーの陽気な女房たち》(11月29日)公演レポート~

  シェークスピアの戯曲によるオペラは数多いが、「ウィンザーの陽気な女房たち」はその中でも親しみやすく楽しめる作品だ。同じ戯曲によるオペラではヴェルディ作曲の「ファルスタッフ」があまりにも有名で、ニコライが作曲した「ウィンザーの陽気な女房たち」は序曲こそ有名だが、全曲演奏される機会は少ない。私はニコライが残したこの作品を是非多くの人に聴いて欲しいと思う。音楽劇として楽しめる要素が満載であり、演劇的色合いが強く、グローブ座の客席にいるかのようなわくわく感を与えてくれる。もちろん「ファルスタッフ」の素晴らしいアンサンブルにも心奪われるし、どちらがいいとか悪いという比較論は意味がない。それぞれの魅力を堪能すれば良いのだ。
  私は何故か「ウィンザーの陽気な女房たち」に縁があり、合唱、カーユス、フルート氏、ファルスタッフと役どころは違うが日本語上演の舞台に立たせていただいた。いつの日かライヒ氏を歌えばバス・バリトンの役をすべて制覇することになる。一つの作品をいろいろな役どころで体感できるのは楽しいことだ。それだけに初めて客席側から「ウィンザーの陽気な女房たち」を楽しめるチャンスに胸を高鳴らせて会場についた。

  指揮者の十束尚宏氏のタクトが振り下ろされると、オケピットからいかにもロマン派というやわらかい音色の束が聴こえてきた。「今日のオケはいいぞ!」そんな感触を抱いたのは私だけではなかったと思う。管弦楽は日本センチュリー交響楽団。大阪センチュリー交響楽団という名称で1989年に発足した大阪では比較的歴史の新しいオーケストラだ。創設すぐに定期演奏会を聴きに行ったが、音楽に躍動感があり、特に管楽器セクションが魅力的だったという記憶がある。オーケストラを巡る厳しい経営環境で一時期苦労したということを聞いたが、終幕まで緊張感を維持した素晴らしい演奏だった。今後も日本センチュリー交響楽団にはどんどんオケピットに入って欲しい。今回どうしても読者の皆様に伝えたかったのは、アンナとフェントンの若いカップルに寄りそうヴァイオリンソロ。ソリスティックでありながら、二人の愛の歌を支える伴奏としてのポジションからはみ出さない素晴らしい演奏だった。

  十束尚宏氏の指揮は、テンポが速めで変化も大きい情熱的な指揮だったがオーケストラは素晴らしい反応をしていた。テンポと言えば岩田達宗氏の演出も素晴らしかった。屋外・屋内と場面が変わるので転換の難しいオペラだが、シンプルな舞台セットと幕を効果的に使うことによって、流れるように場面が展開していく。舞台の背景としてひるがえっていた洗濯物は視覚的にも美しく印象的だっただけでなく、この時代の生活感、庶民性を表現すると共に、人間が生きていく中で染みついたものがドラマの中で洗濯されていくようだった。「寝取られ男」の象徴とも言われる三幕のファルスタッフの鹿の角がクリスマスのトナカイのように可愛らしかったのもご愛嬌だった。この舞台ならばオペラは難しいもの、古臭いものという先入観を持ったオペラ未体験の方にも受け入れられると思う。

  歌い手は、それぞれにレベルの高い歌唱であったが、一人が突出することなくチームワークの良さを感じた。あえてあげると、みつなかオペラ「ノルマ」で素晴らしい歌唱を披露したフルート夫人役の尾崎比佐子が、また違う魅力を示したこと。女性の強さを際立たせるために、男の嫉妬とそれゆえの愛すべき存在感を表現したフルート氏役細川勝の熱演が心に響いた。
  いわゆる「おいしい役」のアンナ高嶋優羽とフェントン松原友は好感度が高く、一途な恋心と芯の強さを見事に表現した。度胆を抜かれるくらい個性的なメイクと衣裳で観客の笑いを誘ったカーユス橘茂、シュペアリヒ八百川敏幸まですべてのキャストにブラボーを送りたい。ドイツ語原語上演のアンサンブルを支えた表題役のファルスタッフ宇野徹哉、ライヒ夫人児玉祐子、ライヒ氏小玉晃の安定感のある端正な歌唱も素晴らしかった。

  シェークスピア劇は「人間」をどう多面的に表現するかが鍵となると思う。酒飲みで女好き、ビヤ樽のように太ったファルスタッフに目が行ってしまうが、シェークスピア唯一の現代劇とも言われるこの芝居に滲む当時の中流階級の生活、人間模様を表現することが必要で、そのためには脇役から合唱にいたるまでにそれぞれに意味がある存在でなければならない。今回の舞台では、歌い手が役どころを理解して演じることによって、いきいきとした人間ドラマを作り出した。
  歌唱はドイツ語、セリフは日本語での上演であったが違和感は無かった。喜歌劇としての色が濃いこの作品はセリフが重要になる。そういう意味ではセリフが日本語であったことで客席の反応も良く理解しやすかった。個人的に少々気になっていたのはファルスタッフとフルート氏(変装してバッハと名乗って現れる)の二重唱。男二人の思惑の違いが面白いなかなかの名曲だが、前半に長大なレチタティーヴォがある。ドイツ語では瞬時に心理状態が変化するスリリングさが伝わりきらないし、字幕に目がいってしまう。関西ならではのはんなりとした語感を活かした言葉を、バッハ氏に変装したフルート氏に使わるセリフ版に思い切って変更したことで、演劇的シーンを見事に表現した。

  酒飲み騎士と嫉妬深い男を懲らしめる「やっぱり女は強かった」、「終わりよければすべてよし」という一見単純なストーリーだが、シェークスピア劇の魅力たっぷりの演目。オペラ普及応援団員の香盛修平としては、オペラファンづくりのためにも、オペラ歌手が演劇的表現力を磨くためにも「ウィンザーの陽気な女房たち」をどんどん上演して欲しい。

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