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魔性の女?それとも悲劇のヒロイン?—METライブビューイング《ルル》

METライブビューイングでアルバン・ベルクの《ルル》を観ました。大きな衝撃を受ける作品です!

(C)Kristian Schuller/Metropolitan Opera

(C)Kristian Schuller/Metropolitan Opera

12音技法という調性音楽を打ち壊すために生まれた作曲法を使って書かれたベルクの《ルル》は、ドイツの表現主義文学の先駆者ヴェーデキントがオペラの原作となった彼の戯曲の中で創造した、ルルという魔性を持った女性を主人公にしたオペラです。男たちの危険な欲望をかきたてるルルの魅力が様々な事件を引き起こし、やがて彼らを、そして最後にはルル自身をも破滅させてしまうまでの物語を圧倒的な音楽で描いています。

今回、METで上演されたプロダクションは昨年6月にアムステルダムで上演されたもの。南アフリカ出身の世界的なビジュアル・アーティストである、ウィリアム・ケントリッジの演出が話題となりました。ケントリッジは墨絵の具を使った絵、文字を使ったコラージュを映写する技法を使い、どす黒い欲望の世界を表現しました。ルルが唯一男性として愛していたシェーン博士を誤って殺してしまった後の間奏曲における映像も、ベルクの意図に忠実に表現されます。

難役ルルを演じたのはマルリース・ペーターセン。18年間に10ものプロダクションで《ルル》に主演しているというドイツ人のソプラノ歌手です。演出のケントリッジは、ルル役に紙で出来た筒型のお面や大きな手を被せ、また、中性的な要素を取り入れたアーティスティックな衣裳を着せていますが、圧倒的な脚線美のペーターセンにそれがよく似合っていました。ちなみに舞台にはピアノがあり、そこには断髪で男装の女優がいて、徐々に服を脱ぎながら不思議なポーズをとっているのも退廃的な雰囲気を醸し出していました。

(C)Ken Howard/
Metropolitan Opera

ペーターセンは今回を最後にルル役の引退ということですが、この役柄の理解が深い事は疑いがありません。そして、時には観ているこちら側が叫びだしたくなるような耳をつんざくオーケストラの音にも負けない声でルルを表現します。

シェーン博士と切り裂きジャックを演じたバス・バリトンのヨハン・ロイターは端正な表現、その息子で作曲者ベルクの分身と言われているアルヴァ役を歌ったテノールのダニエル・ブレンナは美声で叙情的な歌唱にも優れていました。

そして老シゴルヒ役にはベルクの《ヴォツェック》名演などで有名なフランツ・グルントヘーバーが出演していました。彼はシゴルヒ役も数多く歌っているそうですが、やはり素晴らしい歌と演技でした。METライブビューイングの名物となっているインタビューによると彼はMETの舞台を初めて踏んでからもう50年目(!)だそうで、べルクがこのオペラを作曲した時にそうであったように、自分もまず台本を深く読み込んで全てをそこから作り上げる、という発言をしていました。

ルルに恋するゲシュヴィッツ伯爵令嬢はスーザン・グラハム。演技も歌も堂に入ったものでさすがの存在感でした。画家のポール・グローヴスなどその他の出演者たちも良かったです。

指揮はローター・ケーニクス。ベルクを得意としているドイツ人指揮者ですが、この方のインタビューも《ルル》というオペラに対する大きな愛情に溢れていて印象に残りました。《ヴォツェック》もそうですが《ルル》もやはり偉大なる音楽の構築と、叙情的な美があるからこそ傑作なのですね。

ヨーロッパを中心に《ルル》の上演は多くありますが、やはりMETならではの品格のある舞台、そしてベルクの芝居と音楽に忠実なプロダクションを観る事が出来て良かったです。

文・井内美香 reported by Mika Inouchi

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