オペラ・エクスプレス

オペラ・エクスプレス

シカゴ響、とどろく!―巨匠ムーティと魅せた圧巻の至芸(1月18日公演)

まずはこれを楽しみに2016年を迎えたオーケストラ・ファンも少なくないでしょう。リッカルド・ムーティ第10代音楽監督率いるシカゴ交響楽団が、7年ぶりの来日を果たしました。

上野の東京文化会館は開場の時点ですごい熱気。「アメリカのみならず、世界でも屈指の水準と評判の高いムーティ×シカゴ響がすぐそこに!」というファンの期待を物語るようでした。
北米のオーケストラではおなじみの光景ですが、開演前からほとんどの団員が舞台上で個人練習中。ベルが鳴ると、コンサートマスターだけ独り現れてチューニングしていよいよムーティの登場です。

ベートーヴェンの「交響曲第5番」、これはもう名曲中の名曲。この曲でツアーに出るというのは、オーケストラにとっても指揮者にとっても「真剣勝負」であることの証といえるでしょう。
冒頭のあまりに有名な動機から、分厚く高密度な弦が鳴り響きます。第1ヴァイオリンが16人という、最近ではやや珍しくなった大きめの編成による演奏ですが、そのヴォリューム感たるや圧巻です。ムーティの指揮は王道を往くもので、地に足をつけていささかも揺るがない音楽作りには巨匠の風格が漂います。第2・第3楽章も落ち着いた語り口が印象的ですが、時折見せる優美な表情はイタリア出身のマエストロならではでしょうか。遅めのテンポで第3楽章が終結に近づき、音楽のスケールがみるみる膨らんで迎える第4楽章は文字通り「歓喜の爆発」。ムーティはここに来てテンポを一気に速め、アクションも大きくオーケストラを率いました。第1主題が回帰するたびに仕切り直しのごとくテンポを上げていたので、マエストロの意図的な構築でしょう。終局では低弦に現れる「運命動機」を時折強調しながら、威風堂々と締めくくられました。

(c) Todd Rosenberg

(c) Todd Rosenberg


前半終了時点でものすごい大喝采、これでお開きかと錯覚しそうな盛況でしたが、休憩を挟んで演奏されたのはマーラー「巨人」。これまた勝負どころの大曲で、特に「シカゴ響のマーラー」はショルティ時代にブランドとして確立したレパートリー。かつて、同じ文化会館でショルティ指揮のマーラー5番を聴いた往年のファンも沢山いらっしゃるようです。
舞台上は管楽器の数がぐっと増えて華やか。下手に2対のティンパニと打楽器、ホルンが横一列に8本ずらりと並び、その後ろにトランペットとトロンボーン、更にその後ろにテューバと続きます。シカゴ響の配置で特徴的なのが、管・打楽器が山台を使用しないこと。全セクションが不足なく鳴り渡るシカゴ・サウンドに関係あるのかもしれません。
ムーティはあまりマーラーを振らないイメージがあり、録音ではフィラデルフィア管との1番、ウィーン・フィルとの4番(こちらは希少セット中の一枚)のみしかないはず。今回シカゴ響とどんなマーラーを聴かせてくれるのか興味津々でしたが、流石は巨匠ムーティ、唸らせてくれました。
全体的に、昨今の弾むようなテンポとは一線を画する重厚な「巨人」。一般的にテンポを上げていく箇所でもほとんど加速はありません。遅めのテンポの中でオーケストラはじっくり互いを聴き合い、繊細なグラデーションの変化を実現します。この手法が随所で絶大な効果を発揮していました。第2楽章トリオでの甘美なフレージング、第3楽章のしゃくりあげるような嘆息には身が悶えるようです。歌曲「さすらう若人の歌」からの引用箇所ではオペラティックなフレーズの伸縮が見事にハマり、第4楽章第2主題では見事な弾力性に昇華しました。勿論「最強の金管」を有するシカゴ響、両端楽章の大爆発では広大な文化会館の壁をブルブルと震わせるような強大なクライマックスを築きます。それでも音が煩くならず、弦管が埋もれないのも驚異的なアンサンブル力。打楽器が強烈な打音を刻み、金管が排気量を保ったまま迎えるフィナーレ、ムーティはどんどんテンポを落としていき、圧倒的なスケールで振りぬきました。
いやはや、恐ろしいばかりのアンサンブル力とパワー。録音では後者が強調されがちなオーケストラですが、いざ実演に接してみると本当に沢山の特徴が見えてきました。濃密な弦、存分に主張する木管あってこその「シカゴの金管」であるとか、強弱の差を音量でなくニュアンスの違いによって表出している点など―こうしたポイントを「標準装備」としてオーケストラが実現している点に、シカゴ響が超名門たる秘密があるのかと思います。円熟を極めつつあるマエストロ・ムーティとの共同作業、その到達点の高さに恐れ入った一夜でした。
(c) Todd Rosenberg

(c) Todd Rosenberg


【公演データ】
2016/1/18
リッカルド・ムーティ指揮シカゴ交響楽団
@東京文化会館 大ホール

ベートーヴェン:交響曲第5番
マーラー:交響曲第1番「巨人」

管弦楽:シカゴ交響楽団
コンサートマスター:ロバート・チェン
指揮:リッカルド・ムーティ

文・平岡拓也 reported by Takuya Hiraoka

コメントを残す

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top