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オペラで愛まSHOW番外編その10~伊丹市民オペラ《トスカ》3月27日公演レポート~

オペラで愛まSHOW番外編その10~伊丹市民オペラ《トスカ》3月27日公演レポート~

連載の他に「オペラ観劇して感激した!」といった話を不定期につぶやきます。題して「香盛(こうもり)修平のたわけた一日」

~伊丹市民オペラ「トスカ」(3月27日)公演レポート~
正直なところ、「トスカ」はそれほど好きなオペラではありませんでした。トスカ、カヴァラドッシ、スカルピアの歌唱技術によって満足度が決まってしまうところがあるからです。それが少し変化してきたのは世界文化社から発売のオペラ名作鑑賞シリーズ「トスカ」に入っているヴィスコンティ助監督による映画版DVDを観てからです。歌唱芸術としてだけでなくドラマとしてこの作品に興味がわいてきたのです。この映画版「トスカ」はオペラ・エクスプレス読者の皆様には是非ご覧いただきたいと思っています。

いきなり脱線してしまいました。話を本題に戻して、「観劇して感激したレポート」をお届けします。

一幕は比較的オーソドックスな演出でスタートしましたが、フィナーレに井原広樹さん流の仕掛けが隠されていました。 
 テ・デウムが終わった後、暗い教会の後部に聖母を中心に宗教権威者達の並ぶ姿が浮かび上がり、その背景が黄金色にきらめくと、客席からは小さなどよめきがおこりました。暗い室内をさ迷い歩いた先に、突如目の前に巨大な宗教画があらわれたような感覚でした。宗教の権威性、それは権力でもあることをこの圧倒的な舞台美術、演出が示しています。 
 そして、その前にひれ伏さざるを得ないスカルピアの運命を暗示しています。

ヴィスコンティが助監督をつとめた映画版トスカでは、スカルピアが単なる権威主義者、冷徹な人物、異様なまでのトスカへの愛欲を抱く対象、という側面だけではなく、この政情不安定な中でのスカルピアの権力者としてのポジションと人間としての弱さを描いています。 このあたりの人物描写に対するこだわりは演出家にとって自由度の高いところでありますし、私が一番わくわくするポイントでもあります。井原広樹さんの演出は人物描写のポイントを押え、かつ、視覚的に美しくテンポ感のあるものでした。

二幕は、トスカがスカルピアの心臓にナイフを突き刺さざるを得なくなる必然性に焦点を当て、そのドラマをじゃましないシンプルな構成でした。巨大なテーブルにかかる赤い布が印象的に使われていました。スカルピアはトスカを手にすることはできず、赤い布の上で血を流し息絶えます。
トスカとスカルピアの駆け引き、カヴァラドッシの悲痛な叫びが浮かび上がりました。

三幕は、サンタンジェロ城の処刑場に満天の星が煌めくお決まりの場面ですが、カヴァラドッシが処刑の時を待つその場には、無数の処刑された死体が横たわり、両脇には残忍な処刑が当たり前のように執行されたことを証明するように、はりつけ台や梯子が無造作に置かれています。井原広樹さんの演出の意図は想像するのみですが、そこに横たわるのは肉体のみであり、満天の星はその魂を象徴させているように感じました。

今回のカーテンコールでは、井原広樹さん演出へのブラボーが多かったのではないでしょうか。

 歌手陣も充実していました。一幕冒頭部分に登場するアンジェロッティは重要な役柄です。観客の公演の期待レベルを決定してしまいますし、アンジェロッティとカヴァラドッシの緊迫感のある歌唱が、ドラマとしてこの二人の意志の強さと、立ち向かう壁の大きさを観客にイメージさせてくれます。アンジェロッティの片桐直樹さんはさすがの安定した歌唱、深い美声で品のあるアンジェロッティでした。 

 藤田卓也さんのカヴァラドッシはまさに圧巻でした。関西オペラ界でテノールの主要な役を歌い、東京でも藤原歌劇団公演にデビューしその美声が話題になっていますが、今回もその輝かしいテノールは観客を圧倒。その声は二幕の印象的な勝利の叫び、三幕の有名なアリア「星は光りぬ」と 輝きを放ち続け、イタリアオペラの魅力を堪能することができました。

トスカの山口安紀子さんは初めて聴きましたが、実に立派な声で、カヴァラドッシとの重唱は聴き応えがありました。中音を押さえつけることなく自然に歌える強靭な声帯が素晴らしい!トスカは心の叫びが声となる役柄ですが、悲鳴にも聴こえる高音もきちんと声楽的にコントロールされていてまさに歌姫トスカでした。 美しい容姿もプリマドンナとしての活躍を期待されるものでした。衣裳と演出の影響もあると思いますが、アリア「歌に生き、恋に生き」では多くのオペラファンを魅了したカバイヴァンスカのイメージと頭の中で重なりました。 井原広樹さんの脳裏にカバイヴァンスカの歌うトスカの記憶があったかどうかはわかりませんが……。

 スカルピア、スポレッタ、看守といった役どころのメンバーも関西声楽陣が好演。合唱、児童合唱も素晴らしい歌唱でした。関西のオペラ公演レベルを支えている岩城拓也さんの功績も見逃せません。みつなかオペラ、オペラde神戸、そして伊丹市民オペラと岩城拓也さんが合唱指揮に入っていることが大きな力になっていると感じます。オペラにおける合唱の重要さを改めて気づかされました。
 
オーケストラはプロアマ混合の編成でしたが、伊丹市民オペラを育ててきた加藤完二マエストロが、歌い切るのが難しいプッチーニの音楽を、明確な指揮で手堅くまとめて公演を支えていました。

みつなかオペラ、オペラde神戸、そして今回の伊丹市民オペラと関西は都市に根差したオペラが元気でわくわくします。香盛修平も応援レポートを書き続けていきたいと思います。


≪第30回伊丹市民オペラ定期公演 「トスカ」 ≫
・指揮    加藤 完二
・演出    井原 広樹
・合唱指揮  岩城 拓也
・キャスト
  トスカ      山口 安紀子
  カヴァラドッシ  藤田 卓也
  スカルピア    松澤 政也
  アンジェロッティ 片桐 直樹
  スポレッタ    小林 峻
  シャローネ    田中 崇由希
  堂守・看守    楠木 稔
  羊飼い      中原 加奈
・合唱    伊丹市民オペラ合唱団
・児童合唱  三田少年少女合唱団
・演奏    伊丹シティフィルハーモニー管弦楽団
伊丹市民オペラ《トスカ》

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