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人生最後にして最大の恋?金満老人の寛大な愛と許し———《ドン・パスクワーレ》

人生最後にして最大の恋?金満老人の寛大な愛と許し———《ドン・パスクワーレ》

2016年7月1~3日、日生劇場にて、《ドン・パスクワーレ》の上演が行なわれました。日生劇場、びわ湖ホール、藤原歌劇団、日本センチュリー交響楽団の共同制作による公演です。日生劇場では、先ごろロッシーニの《セビリアの理髪師》の上演があり、異なるスタイルの「喜劇」を2本、続けて楽しむ機会に恵まれました。

この《ドン・パスクワーレ》というお話、筋だけを追うと、パスクワーレに対して心底同情して気の毒になります。しかしドニゼッティの音楽は大変に美しく魅力にあふれ、ストーリーはともかく、最後には、やはり幸せな気持ちになってしまうのでした。時折起きる笑いにも、上質な温かさが感じられました。

藤原歌劇団《ドン・パスクワーレ》より
藤原歌劇団《ドン・パスクワーレ》より
(C) Naoko Nagasawa

いささか長い序曲に続いて、幕が開くと、金持ち爺さんのパスクワーレが、肘掛のついた椅子に腰を下ろしています。彼の部屋は、絵画や彫刻などの美術品が所狭しと並んでいて、さながら美術館のよう。この部屋が、パスクワーレの心理によって次第に変化して行き、最後にはコンクリートのような無機質な壁になってしまいます。とりわけはっとさせられたのは、3幕でノリーナに平手打ちを見舞われて、「もう終わりだ」とつぶやき、音楽が急に変化する場面です。すると、絵画が飾られた古典的な背景が徐々に崩れ落ちて行き、空っぽの部屋になってしまうのでした。最後にパスクワーレは、若者達に愛と許しを与えます。すると、彼が最も愛着を抱いていた肘掛椅子が戻って来てハッピーエンドとなる。小粋でわかり易い演出です。


〈7月1・3日組〉


拝見したのは最終日の7月3日でしたが、この日、題名役を歌った牧野正人は、偏屈ぶった鷹揚な感じが滑稽で笑いを誘います。ノリーナの佐藤美枝子は、絶妙なベルカント自在に駆使して大活躍。ちょっとはすっぱな演技で、秘めたコメディエンヌの資質を発揮していました。エルネストの許昌の伸びやかな美声も良かったです。そして、マラテスタ役の森口賢二。ノーブルなバリトンの美声には魅了されました。狂言回しとして、その場その場を牽引するふさわしい役どころを演じました。合唱の出番は少ないものの、個々の音色を存分に響かせ合って見事でした。
指揮の菊池彦典は、まさにイタリアオペラの王道を行くエキスパート。あふれる情熱と豊かな表現力で、オーケストラをまとめ上げました。


〈7月2日組〉


取材・写真:長澤直子


日生劇場、びわ湖ホール、藤原歌劇団、日本センチュリー交響楽団の共同制作公演
ガエターノ・ドニゼッティ作曲

《ドン・パスクワーレ》

2016年7月1(金)18時30分/2日(土)14時/3日(日)14時
日生劇場

指揮:菊池彦典
演出:フランチェスコ・ベッロット

ドン・パスクワーレ:牧野正人(1・3日)/折江忠道(2日)
マラテスタ:森口賢二(1・3日)/押川浩士(2日)
エルネスト:許昌(1・3日)/藤田卓也(2日)
ノリーナ:佐藤美枝子(1・3日)/坂口裕子(2日)
公証人:柴山秀明(全日)

合唱:藤原歌劇団合唱部 びわ湖ホール声楽アンサンブル
管弦楽:東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団

助演:幾龍敦子 神谷真人 小林未奈子

合唱指揮:須藤桂司
美術:マッシモ・ケッケット
衣裳:クリスティーナ・アチェーティ
照明:クラウディオ・シュミット

総監督:折江忠道

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