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『発展と探求』をテーマに———『東京二期会 2017/18 シーズンラインアップ』記者会見

『発展と探求』をテーマに———『東京二期会 2017/18 シーズンラインアップ』記者会見

去る7月15日(金)、《フィガロの結婚》の初日が夜に控えた東京文化会館で、『東京二期会 2017/18 シーズンラインアップ』記者会見が開催されました。

登壇者は、
公益財団法人東京二期会 理事長 中山欽吾
同 事務局長兼企画制作部長 山口毅
ソプラノ歌手 林正子
テノール歌手 城宏憲(じょうひろのり)
の各氏です。

『東京二期会 2017/18 シーズンラインアップ』記者会見
左より:山口毅/中山欽吾/林正子/城宏憲

まずは、理事長の中山氏からの挨拶がありました。


「おかげさまで二期会は1952年の創立以来、世界でも類を見ない団体に成長いたしました。スタートした時は20名、現在は2,700名を超える声楽家を会員に持っています。」

「二期会は、海外の歌劇場との共同制作や、過去に好評を博した作品の廉価での再演等、いろいろな工夫を凝らし、従来のオペラ・ファンはもとよりオペラ初心者の方にも十分楽しめる作品を提供し、二期会オペラ・ファンの皆様のご支援をいただいてまいりました。」

「同じような団体であります藤原歌劇団がベルカント・オペラを中心とするイタリア・オペラを上演するのに対して、二期会ではドイツ・オペラや東欧圏のオペラも加えて、18世紀以降の作品、一部のバロック・オペラも積極的に取り上げるなど全方位の演目を目指してきましたが、イタリアのヴェリズモ・オペラ、ベルカント・オペラなどは上演経験が少なかったことは否めない事実です。」

「そこで来シーズンから今までに述べた演目選択の偏りを是正していくことを考え、新しい方式による企画を実施に移すことにしました。その趣旨は、ベルカント・オペラを含むより広い範囲のイタリア・オペラやフランス・オペラ、そして大掛かりな舞台を要するオペラなどを年に一本、セミ・ステージ形式で上演するということです。」

「2018年3月に、セミ・ステージ形式でベッリーニ作曲《ノルマ》を初上演します。上演に際しては、所属歌手ソリスト・二期会合唱団に加え、日本人の若手クリエイターによる映像を中心に、構成に若手演出家の起用を考えています。《ノルマ》公演後には引き続きこのセミ・ステージ形式で、フランス・オペラ、ベルカント・オペラなど、今まであまり上演してこなかったジャンルや、すぐには舞台化の難しいような大規模な作品を積極的にラインアップすることにより、バロックから現代作品まで幅広いレパートリーを有する団体に脱皮していくよう、努力していく方針です」。


中山氏の次は事務局長兼企画制作部長の山口氏による2017/18年シーズンの演目の説明がありました。前述の《ノルマ》は、これから説明される来シーズンの演目の後に上演されることになります。

「東京二期会2017年/18年シーズンラインアップのテーマとしては、新しいシリーズを設けることもあり、『発展と探求』という題材でを進めていければ、と思っています。「発展」というのは新しい作品も含まれますし、今回ご紹介します《トスカ》《ばらの騎士》《蝶々夫人》《こうもり》《ローエングリン》については、すでに二期会では上演の経験がありますが、改めて新制作として取り上げる事により、その作品の中に新たな発見と、作品の深い探求を進めていく、という意味を込めています。」

そして、演目ごとの説明がありました。以下にその要旨を記します。

2017年2月は東京文化会館でプッチーニ《トスカ》を上演。ローマ歌劇場との提携公演による新制作。1900年にこのオペラが初演された時のデザイン画をもとに作られた美術セットでの上演となります。演出家はアレッサンドロ・タレヴィ。指揮は2014年に東京二期会で《蝶々夫人》が大好評だったルスティオーニが、同じプッチーニの《トスカ》でタクトをとります。ルスティオーニは2017年の夏から、これまで大野和士が務めていたリヨン歌劇場首席指揮者を引き継ぐことが決定しています。オーケストラは東京都交響楽団。トスカ役には木下美穂子と大村博美、カヴァラドッシ役は樋口達哉と城宏憲、スカルピアは今井俊輔、直野資が出演します。

7月には東京文化会館でリヒャルト・シュトラウス《ばらの騎士》を上演。イギリス・グラインドボーン音楽祭との提携による新制作です。2014年に現地で上演されたリチャード・ジョーンズ演出の舞台を日本でも上演します。指揮はセバスチャン・ヴァイグレ。ヴァイグレは現在、フランクフルト・オペラの音楽総監督で、《ばらの騎士》はMETでもフレミング、ガランチャなどの出演で2017年の4月、5月に指揮をする、いわばシュトラウスのエキスパートです。キャストの全体はまだ発表されていませんが、元帥夫人マルシャリン役には林正子が出演。ピットに入るのは読売日本交響楽団です。

10月には〈二期会名作オペラ祭〉と銘打って、名作オペラを廉価で提供するシリーズがあります。会場は東京文化会館。演目はプッチーニ《蝶々夫人》です。2014年に上演された栗山昌良演出の再演です。指揮はスカラ座などで活躍しているイタリア人若手ガエタノ・デスピノーサ。オーケストラは東京交響楽団。キャストの発表はまだ先になります。

そして11月にはベルリン・コーミッシェ・オーパーとの提携公演で、ヨハン・シュトラウスのオペレッタ《こうもり》が新制作されます。二期会は《こうもり》上演では長い伝統がありますが、今回の新しさとしては、歌唱部分は字幕付き原語(ドイツ語)、セリフは日本語での上演である、ということです。指揮は阪哲朗、演出は日本でもよく知られるアンドレアス・ホモキ。ちなみに、この二人はベルリン・コーミッシェ・オーパーでかつて同僚の間柄でした。セリフ部分が日本語ということもあり、菅尾友が演出補に入ります。オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。日生劇場との共催として同劇場で上演される予定です。

2018年2月にはワーグナー《ローエングリン》が新制作されます。二期会が力を入れてきたワーグナー・オペラの上演ですが、《ローエングリン》は1979年7月に若杉弘指揮、西澤敬一で上演して以来。昨年のシュトラウス《ダナエの愛》で高い評価を得た準メルクルの指揮、深作健太の演出というコンビも注目です。管弦楽団は東京都交響楽団。

そして2018年3月には最初に説明があったセミ・ステージ形式の《ノルマ》が上演されます。


林正子演目の説明が終わると次は、東京二期会所属の歌手のお二人のスピーチです。まずはソプラノ歌手の林正子さん。これまで二期会ではリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」、《ダナエの愛》に主演し、続いて今年11月には《ナクソス島のアリアドネ》のアリアドネ役を歌い、そして来シーズンには《ばらの騎士》のマルシャリン役を歌うことが決定しています。まさにシュトラウス・オペラの上演に欠かせないプリマです。黒いドレスの林さんにマイクが渡ります。

「私は新制作の《ばらの騎士》で元帥夫人(マルシャリン)を歌うことになっています。漏れ伝え聞いたところによりますと非常に斬新な演出だということで、その中で、枠組みにそってどれだけ自分なりの表現をしていけるのかを、それこそ今シーズンのテーマ『発見と探求』にそって、頑張っていきたいと思います。」

「この11月には、二期会とライプツィヒ歌劇場との提携公演として日生劇場でおこなわれる《ナクソス島のアリアドネ》にもアリアドネ役で出演させていただきます。そして、その前の10月に横浜みなとみらいホールで一日に二部構成でリヒャルト・シュトラウスの「出発点」と「到達点」と題したリサイタルをさせていただきます。同じ10月には、東京でシュトラウス協会でもう一回、「四つの最後の歌」、そして10月末には仙台フィルさんとも山田和樹さんの指揮で「四つの最後の歌」を歌う予定です。」

「こうして振り返ってみますと、数年前の《サロメ》から始まり、その時はペーター・コンヴィチュニーさんという非常に斬新な演出をなさる方でしたが、去年は《ダナエの愛》、そしてまた《ナクソス島のアリアドネ》のアリアドネを歌わせていただいて、来年はまた《ばらの騎士》という風に、自分の方向性がだんだんシュトラウスに定まっていくんだなぁ、と非常に不安も感じると同時に幸せも感じています。」

「最後になりましたが、先ほどラインアップを見ていて、2018年の《ローエングリン》に準メルクルさんと深作健太さんのお名前を発見して非常に嬉しい思いです。こう言っては支障があるかもしれませんが、こんなに指揮者と演出家が仲がいい、というのは、私もいままで長く歌っていますが見たことが無い程でした(笑)。稽古が休憩になるたびに「女子高生か?」と思うほど二人がじゃれていて(笑)、お稽古場が本当に良い雰囲気でした。それがそのまま《ダナエの愛》のあの大きな成功につながったのだと思っています。今度はこの《ローエングリン》を聴衆として楽しみたいと思っております。今日はどうもありがとうございました」。


最後はテノール歌手の城宏憲さんです。

城宏憲「ご紹介にあずかりましたテノールの城宏憲です。まず《トスカ》についてお話ししたい所ですが、実は僕の中ではまだ、この東京文化会館を訪れると、ちょうど半年ほど前、二月に代役で歌わせていただいた《イル・トロヴァトーレ》公演への感謝の気持ちが胸にこみあげてきます。《イル・トロヴァトーレ》の稽古場でキャストの皆さんが切磋琢磨して、指揮者と演出家が話し合いながらのリハーサルを間近に見て、僕はベンチに座っている野球やフットボール選手のような感じでいたのですが、その僕が急な代役で日本人キャストのマンリーコ役の初日を歌うことになりまして、身震いがする思いをしました。演奏している最中こそ、若きマエストロ・バッティストーニが、あの目でこちらを真剣に見て、「ついてこい!」という感じで振ってくださったので自然と声が出ましたが、やはり一番ドキドキしたのが、本番が間近に迫った日程で急に制作側から電話が来た時の、電話番号を見た瞬間でした。」

「《トスカ》に関しましては、オーディションを受けさせていただいて、カヴァラドッシ役をやらせていただくことになりました。《イル・トロヴァトーレ》では吟遊詩人の役でしたが、今度は画家ということで、同じように芸術家の役をやらせていただけるに際し、歌と詩を愛しオペラ歌手をやっている自分自身の芸術を愛する気持ちにリンク出来るのではないかと思っています。」

「また、今回はローマ歌劇場との提携公演で、ローマを舞台にした《トスカ》、そして先ほどもお話がありましたように、1900年の初演時と同じデザインを使っている舞台です。このオペラは1800年に時代設定された物語なので、その1800年の話を1900年にローマのコンスタンツィ劇場で初演し、それをまた、100年以上の時を経て、東京文化会館でどのようなドラマがおきるのか。今日はこれから、我が歌姫トスカ役を歌う大村博美さんが出演される《フィガロの結婚》を聴かせていただこうと思っております。スカルピア役には直野資先生と、先輩方にはさまれて、今から震えておりますので、舞台上ではマエストロ・ルスティオーニとのエネルギーのやり取りで、きっと自然にマリオ(・カヴァラドッシ)役になることが出来るのではないかな、と思っております」。


この後では質疑応答があり、記者会見は終了しました。盛りだくさんの東京二期会の来シーズン、素晴らしい公演の数々を楽しみにしたいと思います。

文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photograph : Naoko Nagasawa


≪東京二期会2017/18 シーズンラインアップ≫

2017年2月《トスカ》【新制作】
~ローマ歌劇場との提携公演~

公演日:2017年2月15(水)/16日(木)/18日(土)/19日(日)
指揮:ダニエーレ・ルスティオーニ
演出:アレッサンドロ・タレヴィ
管弦楽:東京都交響楽団
会場:東京文化会館 大ホール

2017年7月《ばらの騎士》【新制作】
~イギリス・グラインドボーン音楽祭との提携公演

公演日:2017年7月26日(水)/27 日(木) /29 日(土)/30 日(日)
指揮:セヴァスチャン・ヴァイグレ
演出:リチャード・ジョーンズ
管弦楽:読売日本交響楽団
会場:東京文化会館 大ホール

2017年10月《蝶々夫人》【再演】
~二期会名作オペラ祭~

公演日:2017年10月6日(金)/7日(土)/8日(日)/9日(月・祝)
指揮:ガエタノ・デスピノーサ
演出:栗山昌良
管弦楽:東京交響楽団
会場:東京文化会館 大ホール

2017年11月《こうもり》【新制作】
~ベルリン・コーミッシェ・オーパーとの提携公演~

公演日:2017年11月22日(水)/23日(木・祝)/25日(土)/26日(日)
指揮:阪哲朗
演出:アンドレアス・ホモキ
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
会場:日生劇場

2018年2月《ローエングリン》【新制作】

公演日:2018年2月21日(水)/22日(木)/24日(土)/25日(日)
指揮:準・メルクル
演出:深作健太
管弦楽:東京都交響楽団
会場:東京

東京二期会オペラ公演2017-2018シーズンラインアップ

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