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【公演レポート】俊英デスピノーサ×新日本フィル―組み合わせの妙で聴くショスタコーヴィチの深淵

新日本フィルの11月のトリフォニー定期は、世界各地でデビューが続く俊英ガエタノ・デスピノーサが初登場。既に日本のオーケストラも多く指揮している彼ですが、今回新日本フィルとの初顔合わせに選んだ曲目はショスタコーヴィチ音楽の深淵をたっぷりと味わわせてくれるプログラム。ちなみにデスピノーサはドレスデン州立歌劇場のコンサートマスターを2003年-08年に務めているのですが、偶然シュターツカペレ・ドレスデンも同時期に来日中。彼は古巣の演奏を聴きに行ったりしたのでしょうか?

演奏会はロッシーニの歌劇「ウィリアム・テル」序曲で幕を開けます。後半の「スイス軍の行進」の快活な音楽があまりにも有名な序曲ですが、イタリア人デスピノーサはとりわけオーケストラを煽り立てることなく、堅実に音楽を構築していきます。新日本フィルは冒頭のチェロソロから重奏への広がり、嵐でのトロンボーンの活躍、そしてコールアングレの活躍など序盤から高水準の演奏を繰り広げました。

新日本フィルハーモニー交響楽団 第566回定期演奏会

続いてはショスタコーヴィチの「チェロ協奏曲第1番」。ショスタコーヴィチらしいシニカルな曲調が全編に散りばめられた作品で、高い技巧を要しつつ内省的なチェロの表情が印象的です。デスピノーサと新日本フィルはここでも手堅くソリストを支え、特に管楽器の甲高い叫びなどは痛快に決まりました。ソリストのハイモヴィッツもよく歌いつつ、第2楽章の静謐な音楽では後半のシンフォニーを予告するような意味深な表情をも魅せます。アンコールに彼が弾いたバッハは一転、ゆったりとした呼吸の中で平静を取り戻すような感覚にとらわれました。

新日本フィルハーモニー交響楽団 第566回定期演奏会

後半は同じくショスタコーヴィチの「交響曲第15番」。今年が生誕110周年にあたるこの大作曲家の作品は、とりわけ昨年あたりから毎月のようにオーケストラのプログラムで見るようになっています。今回演奏された「第15番」だけでも、昨年11月にノット/東響、今年3月にインバル/都響、7月にラザレフ/日フィルと高関健/神奈川フィル、そして今回の新日本フィルと続いています。これはやはりショスタコーヴィチ音楽を時代が求めているということなのでしょうか。
閑話休題、新日本フィルとデスピノーサが紡いだショスタコーヴィチ最後の交響曲は、この日のプログラムの意図を聴衆に印象付けるものでした。第1楽章で「ウィリアム・テル」序曲の引用が現れるのをはじめ、自他問わず様々な作曲家の作品がモザイク状に散りばめられて構成されたと言っても過言ではないこの交響曲。第1楽章冒頭のフルートと弦楽ピッツィカートの掛け合いは、前半に演奏された「チェロ協奏曲第1番」に酷似しています(チェロ協奏曲が下降音型、交響曲が上行音型)。デスピノーサにとっては指揮者としての腕の振るいがいのある作品であったわけですが、堅実でオーケストラに無理をさせない音楽づくりはそのままに、随所で彼らしいアイディアを感じられる瞬間が少なからず存在していました。1楽章でクラリネットに施したベルアップはマーラー的な要素を浮き彫りにするものでしたし、ヴァイオリン・ソロを敢えて粗めの音で弾かせていたのもコンマスの経験があるデスピノーサならではでしょう。第3楽章ではトロンボーンの半音での下降を敢えて各音の区切りを曖昧にし、ふわりと吹かせたのは、フレーズの滑らかさを求めていたのでしょうか。(ここに限らず、管楽器にも弦楽器のポルタメントのような表現を求める瞬間が何度かありました)第4楽章の「運命の動機(『ニーベルングの指環」より)」引用、続くグリンカの歌曲「疑惑」冒頭部分からの引用(『トリスタンとイゾルデ』冒頭のチェロにも酷似)は繊細なフレージングで奏され、音楽は虚無へ向かっていき静かに閉じられました。

デスピノーサの堅実な音楽性と新日本フィルの安定した演奏により、3曲を通してショスタコーヴィチの奥深い音楽世界を味わえるプログラムでした。新日本フィルは9月の上岡新監督就任披露、昨月のドヴォルザーク「スターバト・マーテル」と、好演が続いています。


【公演データ】
2016/11/19
新日本フィルハーモニー交響楽団 第566回定期演奏会
すみだトリフォニーホール 大ホール

ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番
~ソリスト・アンコール~
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番より サラバンド

ショスタコーヴィチ:交響曲第15番

チェロ:マット・ハイモヴィッツ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:豊嶋泰嗣
指揮:ガエタノ・デスピノーサ

文:平岡 拓也
写真提供:新日本フィルハーモニー交響楽団
Reported by Takuya Hiraoka
Photos by New Japan Philharmonic

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