オペラ・エクスプレス

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上岡新監督×新日本フィルが贈るクリスマス・ギフト—新日本フィル12月のサントリー定期

2016年もあと僅かとなった師走の上旬。クラシック界は早くも「第9」シーズンに入ろうとする中、上岡敏之新音楽監督と新日本フィルハーモニー交響楽団から一足早いクリスマスプレゼントが贈られた―それも、少しビターな趣のある。上岡氏らしい考えられたプログラム、聴いてこそ分かる驚きや発見の連続である。

一曲目はストラヴィンスキーのバレエ音楽「プルチネッラ」からの組曲。ディアギレフの「大編成オーケストラによる作品を」という依頼に従わず、打楽器を用いない合奏協奏曲風の響きに仕上げたストラヴィンスキーの真意はいかに。作曲家の新古典主義的な作風の代表例ともいえる「プルチネッラ」であるが、今夜上岡氏と新日本フィルが紡いだ響きは思いの外ロマンティックで温かみのあるもの。ペルゴレージやガッロ、モンツァらの題材を用いつつも独自の和声を用いた楽曲であるが、モダン・オーケストラ特有のリッチな響きが―小編成ではあるが―加味されていた。ソリスト陣も軽やかに聴かせる。

新日本フィルハーモニー交響楽団 第567回定期演奏会より

新日本フィルハーモニー交響楽団 第567回定期演奏会より (C)大窪道治


二曲目はチャイコフスキー「くるみ割り人形」の組曲。クリスマス・イヴに冒険する人形たちの物語は、シーズン的にも最適な選曲。しかしそこは上岡氏のこと、演奏は一筋縄では行かない。「小さな序曲」から快速テンポで進み、組曲が進んでもドライな姿勢を崩さない。「こんぺい糖の踊り」もチェレスタが猛速で弾かねばならないほどのテンポ、「花のワルツ」の大団円に至ってもテンポは少しも緩まず一気呵成に締めくくられた。正直なところ少々困惑しながら聴き終えたという感触なのだが、もしかするとストラヴィンスキーをロマン的、チャイコフスキーを即物的に演奏することで作品本来のイメージから解放し、時間軸における対照を図ったのかもしれない(同様の対比は就任前、3月のシューベルト×マーラー「1番」でも感じた)。
新日本フィルハーモニー交響楽団 第567回定期演奏会より

新日本フィルハーモニー交響楽団 第567回定期演奏会より (C)大窪道治


後半はプロコフィエフ「交響曲第5番」。プロコフィエフもまた、若き日に「道化師」「鋼鉄の歩み」といった作品をバレエ・リュスのために書いた作曲家だ。イタリアとの繋がり・人形というキーワードで前半のチャイコフスキーとストラヴィンスキーは結びつけられるが、ペテルブルクの音楽家の系譜、バレエ・リュスといった観点でプロコフィエフも当然関連してくる。巧妙なプログラミングだ、とここで再び気付かせられるのだ。
第1楽章第1主題がチェロに回帰する場面でのスビトピアノ、第2楽章の執拗な凸凹強調など、随所で上岡氏ならではの味付けが加わり、ダイナミックレンジも非常に広くとられる。暗譜で各セクションを大胆に振り分ける棒に新日本フィルも必死に応じ、快速テンポながら上滑りせず情報量の多い演奏となった。特に第1楽章結尾、強大な音響が拡がったかと思うと更にそれが膨れ上がるさまはこの曲の新たな一面を見たようだし、第4楽章の無窮動的な動きも痛快であった。

演奏後沸いた会場を更に暖めたのは、上岡氏こだわりのアンコール。先ほど演奏したチャイコフスキー「くるみ割り人形」から、組曲に入っていない「パ・ド・ドゥ」をやはり超快速で演奏しわれわれの度肝を抜いた。終局で駆け上がる木管などは最早無茶振りとも思える速さで、演奏後は拍手よりまず呆気にとられるほかない。ただこのアンコールも、演奏会の第一音であった「プルチネッラ」の序曲冒頭と調性を同じくしており(ト長調)、円環を閉じる要素としてこれ以外にない、という上岡氏の主張なのであった。徹頭徹尾考え抜かれた一夜だった。

文:平岡 拓也 Reported by Takuya Hiraoka
写真提供:新日本フィルハーモニー交響楽団 Photo by New Japan Philharmonic


【公演データ】
2016年12月6日(火)
新日本フィルハーモニー交響楽団 第567回定期演奏会
サントリーホール 大ホール

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「プルチネッラ組曲
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」組曲
プロコフィエフ:交響曲第5番
~アンコール~
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」より パ・ド・ドゥ

管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:上岡敏之

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