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マスネの美酒に乾杯!フランス・オペラならではの魅力を堪能———東京オペラ・プロデュース公演《グリゼリディス》

東京オペラ・プロデュース公演、マスネ《グリゼリディス》を観ました。大変面白い作品でした!《マノン》《ウェルテル》《ドン・キホーテ》など、人気オペラも多いマスネですが、この《グリゼリディス》も同様にマスネらしい優美な旋律と極彩色のオーケストレーションをたっぷり聴くことができます。物語としては《マノン》に描かれた魔性の女の正反対である「貞女グリゼルダ」のお話。しかし単なる美談ではなく、皮肉たっぷりの台本が面白く、軽妙な音楽とともにフランス・オペラならではの魅力を堪能することができました。
《グリゼリディス》
今回の公演はプログラムに載っている岸純信氏の解説が詳しく、大いに鑑賞の助けになりました。マスネは19世紀末から20世紀初頭にかけてパリ・オペラ座、オペラ・コミック劇場の両方のためにオペラを書いていますが、この《グリゼリディス》はオペラ・コミック劇場で1901年に初演された作品です。歌の間を台詞でつなぐのがオペラ・コミック劇場のお約束でしたが、それも時代とともに形骸化し、当時はすでに台詞がないオペラもこの劇場で上演されていたそうです。《グリゼリディス》も台詞はごくわずかでほぼ全編が歌われます。

《グリゼリディス》は当時ヒットしていたお芝居を原作にしており、貞女グリゼルダの寓話(14世紀のボッカッチョ「デカメロン」に登場する)に、コミカルな悪魔を登場させて観客を楽しませ、最後はハッピーエンドという内容です。物語の背景は14世紀のプロヴァンス地方。グリゼリディスは森の中で侯爵に見初められ、それを神の思し召しと受け入れ結婚します。そして異教徒の征伐のために出陣することになった侯爵は妻グリゼリディスの貞節について悪魔と賭けをします。悪魔はグリゼリディスに様々な試練を与えますが彼女はそれに屈することなく、最後には聖女アグネスの助けもあり夫婦と一粒種の息子に平和が戻って来る、というお話です。
《グリゼリディス》
このオペラの音楽の魅力について。ケネス・マクミラン振付のバレエ《マノン》は、マスネが作曲した中からオペラ《マノン》以外の曲を組み合わせた音楽がとても美しい作品ですが、その中でも特徴的な音楽がこの《グリゼリディス》から取られています。リズムがはっきりしていて様々な楽器が旋律を聴かせる曲ですが、それ以外にもこのオペラは、オーケストラと歌、そして合唱を駆使した自在な音楽にあふれています。

東京オペラ・プロデュースの上演の質が高かったのも作品を楽しめた大きな理由でした。太田麻衣子の演出は新国立劇場の回り舞台を使い話を巧みに処理、美術も美しく照明も大変効果的でした。衣裳、メイクも全体に良く合っていました。

筆者が観たのは初日でしたがキャストも良かったです。グリゼリディスを愛する羊飼いアランを歌った上原正敏は美声で叙情的な表現。侯爵の羽山晃生は端正、グリゼリディスの菊池美奈も気品のある容姿と声で好演。そして最高だったのはとぼけた悪魔を歌ったバリトンの北川辰彦で、歌も演技も役柄にぴったりです。第二幕冒頭で歌ったアリア(エアー)「悪妻から離れて暮らすのは至福の時(Loin de sa femme qu’on est bien !)」も聴きごたえがありました。この場面に猫の格好で登場していた子供たちのバレエもなんとも言えない可愛さです。フィアミーナ(悪魔の妻)は羽山裕子で芸達者。ベルトラードの辰巳真理恵、修道院長の和田ひでき、ゴンドボーの鹿野章人、ロイスの尾上綾音も良かったです。
《グリゼリディス》

演奏は飯坂純指揮の東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団。テンポがとても良く演奏も巧み、弦のソロ、管楽器も充実していました。東京オペラ・プロデュース合唱団は舞台裏からの歌声で舞台に広がりをもたせていました。

マスネの美酒に酔った公演でした。オペラ《グリゼリディス》に乾杯!

文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photogragh by Naoko Nagasawa


東京オペラ・プロデュース第98回定期公演

《グリゼリディス》
全3幕プロローグ付き フランス語上演 字幕付き 日本初演
ジュール・マスネ作曲
A・シルヴェストル & E・モラン台本

2016年 10月9日(日)&10日(月・祝)
15:00開演
新国立劇場 中劇場

指揮:飯坂純
演出:太田麻衣子

グリゼリディス:菊地美奈(10/9)翠千賀(10/10)
侯爵:羽山晃生(10/9)与那城敬(10/10)
悪魔:北川辰彦(10/9)菅原浩史(10/10)
フィアミーナ:羽山弘子(10/9)小野さおり(10/10)
アラン:上原正敏(10/9)三村卓也(10/10)
ベルトラード:辰巳真理恵(10/9)二宮望実(10/10)
修道院長:和田ひでき(10/9)白井和之(10/10)
ゴンドボー:鹿野章人(10/9)篠原大介(10/10)
ロイス:尾上綾音(10/9)田原讃子(10/10)

東京オペラ・プロデュース合唱団
東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団
バレエ団芸術座

美術:土屋茂昭
照明:成瀬一裕
衣裳:清水崇子
ヘア・メイク:星野安子
演出補:松尾史子
舞台監督:八木清市
合唱指揮:中橋健太郎左衛門
原訳:和田ひでき
字幕制作:増田恵子
演出助手:根岸幸
音響:関口嘉顕
プロデューサー:竹中史子

主催:東京オペラ・プロデュース合同会社
協力:公益財団法人 新国立劇場運営財団

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