オペラ・エクスプレス

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美しい舞台に粒ぞろいのキャストで最終上演!長く愛され続けてきた看板演目の見事なフィナーレ―――英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「ホフマン物語」

美しい舞台に粒ぞろいのキャストで最終上演!長く愛され続けてきた看板演目の見事なフィナーレ―――英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「ホフマン物語」

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」、オペラの三作目はオッフェンバック最晩年の大作「ホフマン物語」だ。物語は、主人公の恋人が出演するオペラ「ドン・ジョヴァンニ」が引けるのを待つ酒場で、過去の愛を振り返る形で展開される。E.T.A.ホフマンの小説から作られた三つのエピソードは機械人形のオランピア、クルティザン(高級娼婦)のジュリエッタ、そして病に冒された歌手のアントニアと、それぞれに際立った個性のヒロインたちによって彩られた過去の物語は、その筋立てだけでも魅力的なもの。そこに加えて、彼女らの特性に応じて音楽もスタイルを変えられるのだから、この作品は一度に短編オペラ三作を観るようにも楽しめ、しかも全体がひとつのドラマとなる入れ子構造を持つ大仕掛けまで用意されている。作曲家の代表作、喜歌劇「天国と地獄」とはまた違う、ドラマティックな音楽が存分に楽しめる充実した作品だ。

ロイヤル・オペラ・ハウスの「ホフマン物語」は1980年に制作された、映画監督ジョン・シュレシンジャーが演出したプロダクション。往年の名舞台は「真夜中のカーボーイ」などで知られる映画監督らしく映像的な見どころも多く、さすがに使い込まれてはいるけれど豪華なセットは近年ではむしろ珍しく、何より舞台として美しい。どこをとっても構図が決まる舞台は、随所で絵画を思わせるショットもあって目も耳も楽しませてくれる。過去には1981年の舞台が映像ソフトとしてもリリースされ、長く愛され続けてきた看板演目の一つなのだ。そのプロダクションが最終上演となる今回、世界での上映・配信が行われ、後日には映像ソフトとしてリリースも予定されているという。
そんな記念の舞台を決定版とすべく、プレミエの際のスタッフをも迎えて作り込まれた今回の舞台はキャストも充実している。まず何より大事なホフマン役に人気のヴィットリオ・グリゴーロを迎えられたことはこのプロダクションを現在望みうる最良のものにしてくれた。ヒロインには、オランピアにロシア出身のソフィア・フォミーナ、ジュリエッタはこのオペラハウスではおなじみのクリスティン・ライス、アントニアは世界各地の歌劇場で活躍するソーニャ・ヨンチェヴァと、それぞれに異なる持ち味のディーヴァが登場。現在と過去のホフマンの”敵”として現れるリンドルフ/コッペリウス博士/スパランツァーニ/ミラクル博士にはトーマス・ハンプソンが配された。ハンプソンの老獪にグリゴーロの直情、その対比が鮮明だから長い作品だけれど舞台はダレることなく、緊張感をはらんで進行する。その二人の”戦い”を常に見守るニクラウス/ミューズのケイト・リンジーの好演も見逃せない。美しい舞台に粒ぞろいのキャスト、その舞台を率いるのはベルカントオペラの指揮に定評のあるエヴェリーノ・ピドだ。この面々が作り出すまとまりのいいアンサンブルはロイヤル・オペラ・ハウスならではのもの、このプロダクションによる上演は見事なフィナーレを迎えた。
ホフマンとニクラウス、そしてリンドルフの三人を軸に描かれる”物語”の外枠、現実のドラマは酒場の酔漢たちまで作り込まれて絶妙な芝居で魅せてくれるのだから、シュレシンジャー監督のこの作品への愛を感じずにはいられない。希望を感じさせる幕切れの美しさは、原作の影のある幻想的物語とは一線を画しながら感動的なもの、原作者の破滅的な生涯とはまた違う、オッフェンバックの「ホフマン」を示してくれたように思う。

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」の次なる演目はクリスマスの定番バレエ「くるみ割り人形」、オペラの次作はヴェルディの「イル・トロヴァトーレ」がそれぞれ予定されている。名作が続く「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」は、これからも品のある刺激的な舞台で入門によし、オペラ・バレエ通が細部まで楽しむによしと、幅広く多くの音楽ファンを楽しませてくれるだろう。

取材・文:千葉さとし reported by Satoshi Chiba / photo:ROH. PHOTOGRAPHER CATHERINE ASHMORE


英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン
ホフマン物語

演出:ジョン・シュレシンジャー
指揮:エヴェリーノ・ピド

出演
ホフマン:ヴィットリオ・グリゴーロ
4人の悪党:トーマス・ハンプソン
オランピア:ソフィア・フォミーナ
ジュリエッタ:クリスティン・ライス
アントニア:ソーニャ・ヨンチェヴァ

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