オペラ・エクスプレス

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限界を設けない自由闊達な舞台―大田区民オペラ合唱団第二回定期公《演戴冠ミサ》&《ランメルムーアのルチア》抜粋

限界を設けない自由闊達な舞台―大田区民オペラ合唱団第二回定期公《演戴冠ミサ》&《ランメルムーアのルチア》抜粋

日本はオペラが遅れているという見方をする人はいるが、必ずしもそうではないのではないかというのが筆者の私見である。特に歴史に名を遺す偉大な作曲家が、珠玉の台本に最高の音楽をつけて残す、オペラを、自国の文化ではないにもかかわらず公演を行える地域公演を行う地方オペラが各地で公演されている今の日本の現状。これはある種の文化的な深さであり、底力であり、音楽において探求心の高い気高いファンが多い一つの表れではないか。そんな風に感じずにはいられない。

大田区民オペラ合唱団は、そんな数ある地方オペラの中でも価値ある公演を多数手がけてきた団体と言えるのではないだろうか。近年大田区民オペラ協議会としてのオペラ公演は残念ながら行われていないものの、その合唱団としての活動は依然精力的に続いているのだ。昨年秋にガラコンサートを行い、新生大田区民オペラ合唱団としての二回目の演奏会が去る4月14日、かつて、蒲田のアプリコでの公演が始まる前は大田区民オペラの公演も上演された下丸子の大田区民プラザ大ホールで行われた。

今回の演目はモーツァルトの戴冠ミサ K317 と、ドニゼッティの歌劇「ランメルモールのルチア」の抜粋である。まず、この演目からして、「意欲的」であるか「不見識」であるかのどちらかでしかありえない組み合わせではないだろうか。当然、昨日今日合唱の大作に取り組み始めたわけではない同合唱団、後者であることは、演目が発表された瞬間に明らかになったといっても過言ではないわけであるが。

ある種の猥雑さこそ、オペラの真価であり、特色でもあると常々感じている。そしてそれらとともに、群衆のざわめきを与えるのがオペラ合唱である。そうしたレパートリーを得意とする合唱団にとって、宗教曲の難しさ単に一曲を完成させる以上に、得意なやり方を抑えたうえで築き上げなければならない面があるのではないか。その上で、宗教曲の中でもやや個性的な雰囲気のあるこの曲を限られた人数で仕上げる。音楽的精緻さで聴く者を圧倒するのではなく、華やかさのある厳かな雰囲気をしっかり聴かせる公演だったのではないだろうか。

しかしそれでも、後半ルチアの抜粋が始まると、やはり水を得た魚を見るようだった。オペラでのパフォーマンスはアマチュアの域を超えている。否、アマチュア合唱団の演奏会だからこそ、限界を設けない、自由闊達な舞台になったのではないか。そう思わされる好演だった。
小さな箱で、予算も限られていることはチケット代とそこにある席数を見れば明白であるこの公演で、しかし最大限にバリューに引きだしているのは贅沢なソリストの面々、斬新な演出、そしてそれらをまとめ上げる指揮者・辻博之の力量によるところは大きいと感じた。

ソプラノ中江早希、メゾ・ソプラノ鳥木弥生、テノール城宏憲、テノール新海康人、バリトン増原英也、バス ジョン・ハオ。抜粋であってもこのくらいキャストは必要になる演目でピアノ伴奏になっても、たっぷりとしたスケール感で「抜粋」編を見ている感じのしない充実感に満ちたステージだった。

影を効果的に活用した山口将太朗の演出は、実際以上に群衆の規模を大きく見せ、登場人物の内面をより深く聴衆に印象づけ、モダンな雰囲気で独特の軽快さ、テンポ感を与えることに成功していた。まるで、ドイツの最新のプロダクションを見ているかのような新鮮さ、さわやかな衝撃があった。

掻い摘んだ「抜粋」ではなく、おいしいところがギュッと凝縮された「抜粋」で見るルチア。中江早希の歌う狂乱の場。とはいえルチアと言えばあのアリアを聴きたいもの。その素晴らしく取り付く島のない演唱に、ついBravaが口をついて出てしまった。

同オペラ合唱団の活動が縮小していると聞いてどこか寂しい思いがしていたが、規模は小さくなっても、依然、あるいは前にも増してというべきであろうか、聴くものを熱くさせる演奏会の上演に触れ、ある種の安堵と、同合唱団、そして演奏会としての新風を感じさせる好演であったことはとてもうれしいことである。

しかし釘を刺さねばならない点もある。それは音楽的完成度ではなく、かつて大田区民オペラを支援していた団体が、今回のプログラムにクレジットで見当たらないことである。地元自治体、文化支援団体の目は節穴か?細かい経緯は関知しないが、今まで支援から手を引かれたのだとすれば、それは不明以外の何物ではないので、その不見識に対しては猛省を促さねばならない。実績がなく、これから支援の可否を判断するのではなく、長年実績を積んできた活動の規模が変更されたからと言って、価値ある活動への支援はぜひ続けられるべきではないだろうか。地方創生、文化醸成が叫ばれる今だからこそ、そのことがとても目についてしまったのもまた正直なところ。是非支援を復活すべきではないだろうか。これは同団体のためではなく、日本のオペラの将来のためにも強く感じるところだ。その点は惜しいと言わねばならない。

取材・文:中込健太郎(自動車ライター)

大田区民オペラ合唱団
第二回定期演奏会
《戴冠ミサ》&《ランメルムーアのルチア》抜粋
2018年4月14日(土)18:00
大田区民プラザ 大ホール

指揮:辻博之
演出:山口将太朗

出演:
中江早希(ソプラノ)
鳥木弥生(メゾソプラノ)
城宏憲(テノール)
新海康仁(テノール)
増原英也(バリトン)
ジョン・ハオ(バス)
木村裕平(ピアノ)
井上めぐみ(ピアノ)

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