オペラ・エクスプレス

The opera of today from Tokyo, the hottest opera city in the world

プラッソンが魅せるフランス音楽の真髄、ファレッタが導く重厚アメリカン・プロ―新日本フィル・5月公演レポート

新日本フィルの5月公演の中から、ジェイドとルビーの演奏会をレポートする。5月のジェイドには当初ラドミル・エリシュカの客演が予定されていたが、高齢のため昨年10月の大フィルおよび札響への登場がエリシュカ最後の来日公演となり、新日本フィルとの初共演は幻となった。そして彼の代役として登壇が決まったのが、こちらもフランスの重鎮(御歳84歳!)ミシェル・プラッソン。

ミシェル・プラッソン指揮新日本フィル©堀田力丸

エリシュカが指揮する予定だったチェコ・プログラムから曲目は全て変更となり、プラッソンが自家薬籠中の物とするフランス音楽プログラムが用意された。(フランクはベルギーの生まれだが、国民音楽協会の最古参としてフランスで活躍した)
冒頭に置かれたのはドビュッシー「夜想曲」より第1曲「雲」、第2曲「祭り」。前者ではよく融和した木管の響きから指揮者の彫琢の成果が明らかに感じられ、後者の躍動も決して荒々しくなく気品が漂う。続く聖史劇「聖セバスティアンの殉教」からの交響的断章でも、その稀有な美しさは保たれる。第1曲「百合の園」は木管が奏する十字架音型に始まり、第2曲などの宗教的官能を経て、静謐な響きの中に消えゆく第4曲「善き羊飼い」までしなやかに展開する。実演に接することができるだけでも嬉しい作品だが、フランス音楽の美しい演奏伝統を体現する名匠と新日本フィルとの邂逅に感謝したい。後半のフランクの交響曲も珠玉の演奏だった。指揮者の自在な表情付けによくオケが応え、重層的な響きが醸される。冒頭動機はじめ各フレーズの導きは繊細で、噛んで含めるような進行から生まれる音楽の滋味は老匠ならではのもの。指揮自体は緩いところもあるのだが、それが音楽の弛緩を生むというよりは柔らかな音色に繋がっているのが興味深い。敬虔な第2楽章を経て、第3楽章終盤のハープを伴った揺蕩いには心を奪われた。この箇所がこれほど儚く、終結へ向かうのを躊躇うようにしっとりと響くとは思ってもいなかったし、そういった演奏を聴いたこともなかった。決して派手なプログラムではなかったが、実に中身の濃い、しみじみとした演奏会だった。オケは全曲通してイングリッシュ・ホルンの活躍が目覚ましく、指揮者も大いに讃えていた。

ジョアン・ファレッタ指揮新日本フィル©青柳聡

ルビーに登場したのは、米国バッファロー・フィルの音楽監督を1999年から務めるマエストラ、ジョアン・ファレッタ。指揮姿は丁寧そのもので、オーケストラを手堅くバランスよく鳴らす手腕の持ち主だ。彼女が今回組んだのは、知られざる作品を中心としたアメリカ音楽プログラム。耳馴染みはないが、どの曲も聴き映えのする旋律や華々しい音響に溢れている。バーバー「交響曲第1番」から絢爛豪華にオケが鳴り、終結へ向い音楽のスケールを拡げていくさまには胸が躍った。ガーシュウィン「ピアノ協奏曲」は几帳面ながらも随所で伸びやか、2楽章ではトランペット・ソロがここぞとばかりに軽やかに歌う。大ヴェテラン・山下洋輔の独奏は思いの外まろやかな音色で、3楽章は重戦車のような迫力すら伴いつつ進む。ただ、かなり曲を改編した演奏だったのだろう——演奏時間は一般的なものよりかなり長くなっていた。ソロと管弦楽が緊密に対話するというよりは、自分の世界を拡げるソロに管弦楽が合わせるという趣だった。これが賛否を分かつ点であろう。後半の幕を開けるカーニス「ムジカ・セレスティス」は「ローエングリン」第1幕への前奏曲と同じ和音に始まり、ミニマル風味も交えつつ弦5部が美しい色彩を描く。コープランド「アパラチアの春」は各場面が丁寧かつ賑やかに描写され、穏やかな終結も味わい深い。ヨーロッパの作曲家が自らの土地やそこに息づく人々の生活を音楽に込めたように、コープランドも開拓時代のアメリカの空気感を自らの音楽に刻印した。今回のプログラムを締め括るに相応しい、堂々たる選曲と演奏であった。最後に奏された小粋なアンコールも含めて、充実のマチネだった。

写真提供:新日本フィルハーモニー交響楽団 Photos by New Japan Philharmonic
文:平岡拓也 Reported by Takuya Hiraoka

新日本フィルハーモニー交響楽団 第589回定期演奏会

2018年5月12日(土)
サントリーホール 大ホール

ドビュッシー:夜想曲より 雲、祭り
ドビュッシー:交響的断章「聖セバスティアンの殉教」

フランク:交響曲

管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:豊嶋泰嗣
指揮:ミシェル・プラッソン


新日本フィルハーモニー交響楽団ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉 #15

2018年5月18日(金)
すみだトリフォニーホール 大ホール

バーバー:交響曲第1番
ガーシュウィン:ピアノ協奏曲

カーニス:ムジカ・セレスティス
コープランド:バレエ音楽「アパラチアの春」組曲
~アンコール~
エリントン(Ron Collier編):The Riverより “The Lake”

ピアノ:山下洋輔
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西江辰郎
指揮:ジョアン・ファレッタ

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

CAPTCHA


COMMENT ON FACEBOOK

Return Top