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【公演レポート】日本オペラ協会《袈裟と盛遠》

【公演レポート】日本オペラ協会《袈裟と盛遠》

日本オペラ協会の《袈裟と盛遠》を観てきました。とても立派な作品で、聴くことが出来て良かったです。

袈裟と盛遠
《袈裟と盛遠》第一幕より
(C) Naoko Nagasawa

公演プログラムによるとこのオペラは1968年初演。明治百年記念として文化庁から委嘱されて石井歡が作曲したもので、その後も1975年、1983年、1988年 (この年は日本と、文化庁派遣でポーランド音楽祭”ワルシャワの秋”でも上演)、1994年に上演されています。台本はTV作家として実績があった山内泰雄。原作は有名な芥川龍之介の「袈裟と盛遠」ではなく、「平家物語より」という傍題がついています。

物語は平安末期。遠藤盛遠は友人、渡辺渡(わたなべのとおる)の妻、袈裟御前の美しさに心を奪われます。第一幕は二人が出会う花見の宴から盛遠の告白まで。休憩後の第二幕は約半年後、秋の古寺で盛遠は袈裟に愛の告白。袈裟は心が揺れますが、そこに盛遠の許嫁である白菊が現れ二人の中を非難します。第二幕の後半は、渡の屋敷の庭に表れた盛遠が袈裟に迫り、袈裟は盛遠が夫を殺すのを承知したかのように見せて実は自分が犠牲になる決心をし、盛遠が殺人を成し遂げ首を改めると愛する袈裟だと知って呆然とするまでが描かれます。そして休憩なしで上演される第三幕は盛遠の乱心から出家の決意まで。彼は真言宗の僧、文覚上人となるのです。

袈裟と盛遠
袈裟:沢崎恵美/盛遠:泉良平
(C) Naoko Nagasawa

石井歓の音楽は、調性音楽としてかなり複雑な部分と、映画音楽のような旋律美を聴かせる部分を使い分け、また、ピッコロが能管を表現したり、打楽器が多く使用されていて(付け打ちのような音もありました)、これらの楽器が単なるエキゾチズムではなく物語を描く音楽として効果的に使われていました。オーケストラにはピアノも含まれています。また台詞を歌わずに語りで演じる場面が何か所かありました。第二幕の後半、夫とも深い絆で結ばれているのに袈裟が盛遠の情熱に負けていく所から、最後に殺人を犯した盛遠が首を改めてそれが愛する女だと知る場面までは特に聴きごたえがあります。そして第三幕では、盛遠が自分が殺めた袈裟の幻影を見て、彼女が人生を回想し、夫と一緒で楽しかった事ばかりを語って盛遠の事を一言も言ってくれないと苦しむ場面で、盛遠と袈裟の歌が平行線のようになっているのは印象深い表現でした。

袈裟と盛遠
盛遠:泉良平/渡辺渡:中鉢聡/袈裟:沢崎恵美 (C) Naoko Nagasawa

袈裟、盛遠、そして渡の三人を歌った沢崎、泉、中鉢はそれぞれ声も良く、演技も良くさすがでした。この物語は、二人の男性に心を乱され、いっそ自分が殺されることを選ぶ袈裟という人物をいかに説得力を持って演じられるかがポイントだと思うのですが、沢崎は声も演技も凛とした美しさと女らしさを表現してとても良かったです。じっと佇む着物姿も艶やかでした。泉は身体が大きく声の音色も暖かく、本来は良い人間が愛ゆえに目がくらんでしまった、という雰囲気が出ています。中鉢の渡も声に輝きがあり姿も良く適役でした。盛遠の許嫁、白菊役の長島も良かったです。呪師の中村は能舞台のような動きもあり台詞が迫力の演技、平清盛の清水、佐藤義清の鳴海、また第三幕に出て来る勢至菩薩の鈴木と鬼子母神のきのしたも熱演。全ての出演者の日本語の歌唱が美しいのにも感銘を受けました。ちなみに、この公演には字幕がついていてこれは嬉しかったです。どんなに聴きやすくてもやはり歌なので、歌詞を同時に読めると安心してオペラに没頭出来ます。

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演出は三浦安浩。新国立劇場の回り舞台を活用し、想念の世界を表すような抽象的な山々と写実的な渡辺の屋敷が交互に現れます。第三幕の盛遠の苦悩の場面では不気味なメークの妖怪が彼の周りを踊ります。何より石井の音楽の盛り上がりをよく捉えて演技に活かしていた所が優れていたと思います。和物ならではの着物の衣裳も美しかったです。

演奏は柴田真郁指揮のフィルハーモニア東京。ピッコロやイングリッシュ・ホルンなどのソロ奏者も上手かったですし、柴田のテンポも響きも立派でした。合唱も終幕の読経を含めて聴きごたえがありました。

客席はかなりの入りでした。終演後はブラヴォーのかけ声や拍手もなかなか鳴り止まず。最後に出た日本オペラ協会総監督の大賀寛氏も舞台に上がり多くの拍手喝采を受けていました。

文・井内美香/reported by Mika Inouchi   photo: Naoko Nagasawa


日本オペラ協会公演
日本オペラシリーズ No.75

オペラ全3幕
《袈裟と盛遠》

2015年3月28日(土)/29日(日)15:00
新国立劇場中劇場

作曲:石井歡
台本:山内泰雄
総監督:大賀寛
指揮:柴田真郁
演出:三浦安浩

出演:
【盛遠】泉良平(3/28) 豊島雄一(3/29)
【袈裟】沢崎恵美(3/28) 川越塔子(3/29)
【渡辺渡】中鉢聡(3/28) 小山陽二郎(3/29)
【白菊】長島由佳(3/28) 山田真里(3/29)
【平清盛】清水良一(3/28) 江原実(3/29)
【佐藤義清】鳴海優一(3/28) 川久保博史(3/29)
【呪師】中村靖(3/28) 井上白葉(3/29)
【勢至菩薩】鈴木美也子(3/28) 望月成美(3/29)
【鬼子母神】きのしたひろこ(3/28) 西野郁子(3/29)

合唱指揮:諸遊耕史
合唱:日本オペラ協会合唱団
管弦楽:フィルハーモニア東京

美術:鈴木俊朗
衣裳:坂井田操
照明:稲葉直人
振付・所作指導:出雲蓉
舞台監督:八木清市
公演監督:荒井間佐登

制作:公益財団法人日本オペラ振興会

主催:公益財団法人日本オペラ振興会・公益社団法人日本演奏連盟

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