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【演奏会レポート】東京フィルハーモニー交響楽団2015/16シーズン 5月定期演奏会《トゥーランドット》

【演奏会レポート】東京フィルハーモニー交響楽団2015/16シーズン 5月定期演奏会《トゥーランドット》

東京フィルハーモニーの《トゥーランドット》に行ってきました。演奏会形式とはいうものの、音楽的な質の高さに加えて視覚的な工夫も凝らされていて、オペラを観たのと同じ大きな満足感を与えてくれるコンサートでした。

イタリアの若きマエストロ、アンドレア・バッティストーニが東京フィルの首席客演指揮者に就任して東京での初めての定期演奏会に選んだがのプッチーニのオペラ《トゥーランドット》でした。イタリア・オペラの歴史の中でも最後の巨匠による白鳥の歌です。プッチーニが病に倒れ未完に終わってしまいましたが、円熟を極めたオーケストレーションと声の競演が聴きどころのオペラです。

ソロ歌手達は全員暗譜で、ドラマの進行に従って舞台に登場します。会場はBunkamuraオーチャードホールとサントリーホールでしたが、オーチャードホールでは天井の高さと舞台奥の白い反響板を活かした多彩な照明が際立ち、サントリーホールでは舞台奥の客席に合唱が配置されその上のパイプオルガンが様々な色に染められ雰囲気を高めます。2階席の両サイド(サントリーホールでは舞台奥の上部)など客席を大胆に使う動きも楽しめました。歌手がオーケストラの前に立つので指揮者とのアイコンタクトはオペラより難しいのではと思いますが、バッティストーニはとことん歌手に合わせ、しかも音楽の求心力を失いません。集中して聴いていると《トゥーランドット》があっという間に終わってしまったような気がしました。

歌手では主役の二人、トゥーランドット姫のティツィアーナ・カルーソーとカラフのカルロ・ヴェントレが際立っていました。ヴェントレは明るい響きのスピントの声で、歌の表情付けも巧み、高音も輝かしかったです。「誰も寝てはならぬ」では観客を熱狂させました。カルーソーはまだ若く美貌のソプラノ。声はかなりドラマチックで中音域の響きが大変美しい。女らしいトゥーランドットで、音楽的にも演技的にも説得力があり素晴らしかったです。リューの浜田理恵はリリックな声にじっくりとした音楽作り、ティムールの斉木健司も美声でした。そしてピン、パン、ポンの3役を歌った萩原潤、大川信之、児玉和弘が諧謔味たっぷりで声もアンサンブルも完成度が高い!アルトゥム皇帝の伊達英二も気品と説得力のある歌唱で適役でした。官使の久保和範も良かったです。


合唱は新国立劇場合唱団、児童合唱は東京少年少女合唱隊。定評のある新国立劇場合唱団はペルシャの王子(の声)、侍女のソロ等を含め一流の歌を聴かせましたし、児童合唱は音楽的に大変優れた歌で言葉も奇麗、しかも暗譜で歌っていて驚きました。

ペルシャの王子と首切り役人には助演を使い、特に首切り役人は、トゥーランドット姫とカラフが最後に結ばれると苦悶して滅びるなど強烈な演技で存在感を示しました。

バッティストーニ率いる東京フィルは今回はピットではなくステージ上でのオペラでしたが一丸となって炎が燃え立つような演奏。響きがまとまっているのはさすがオペラの経験が豊かなだけあります。思い切って鳴らすところも迫力満点でしたが、オーケストラがメロディーを歌う時が実に素晴らしく、中でも、第二幕冒頭部分や、カラフがトゥーランドットの三つの謎に答えた後に自分からも謎を出すところ(アリア「誰も寝てはならぬ」と同じ)の旋律などは白眉でした。コンサートマスターの荒井英治以下、各セクション首席によるソロも充実していました。

今回は《トゥーランドット》の定石通りフランコ・アルファーノが最後の部分を補完した第二版(トスカニーニのカット入り)による上演でしたが、そのリューの死後の二重唱で、オーケストラも主役二人も説得力のある音楽を奏で、最後の「愛」までが空虚にならずに大変美しく響きました。これは指揮のバッティストーニのアルファーノへの深い理解のおかげではないかと思います。最後の音が鳴り終わった時には客席から万雷の拍手があり、アーティストたちは何度も舞台に呼び戻されて観客の歓声に応えていました。
所見:5月17、18日

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文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photo: Naoko Nagasawa


東京フィルハーモニー交響楽団
プッチーニ/歌劇『トゥーランドット』<演奏会形式・字幕付>

2015年5月17日(日)15:00
Bunkamura
オーチャードホール

2015年5月18日(月)19:00
サントリーホール 大ホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
トゥーランドット(ソプラノ):ティツィアーナ・カルーソー
カラフ(テノール):カルロ・ヴェントレ
リュー(ソプラノ):浜田理恵
ティムール(バス):斉木健詞
アルトゥム皇帝(テノール):伊達英二
ピン(バリトン):萩原潤
パン(テノール):大川信之
ポン(テノール):児玉和弘
官使(バリトン):久保和範
ペルシャの王子(テノール):真野郁夫(新国立劇場合唱団)/(助演):和田京三
侍女(ソプラノ):塚村紫(新国立劇場合唱団)
侍女(メゾ・ソプラノ):松浦麗(新国立劇場合唱団)
首切り役人(助演):古賀豊

合唱:新国立劇場合唱団/合唱指揮:冨平恭平
児童合唱:東京少年少女合唱隊/児童合唱指揮:長谷川久恵

コンサートマスター:荒井英治

コーディネイター:菊池裕美子/河原義
舞台監督:幸泉浩司(アートクリエイション)
照明:喜多村貴(劇光社)
字幕:増田恵子

主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館 協力:Bunkamura(5/17)

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