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【公演レポート】二期会ニューウェーブ・オペラ劇場《ジューリオ・チェーザレ》

【公演レポート】二期会ニューウェーブ・オペラ劇場《ジューリオ・チェーザレ》

ジューリオ・チェーザレ二期会ニューウェーブ・オペラ劇場、ヘンデル《ジュリオ・チェーザレ》に行ってきました!バロック・オペラのエキスパートである鈴木秀美がタクトを取り鮮烈な音楽を聴かせ、また菅尾友の演出も工夫が一杯の楽しい公演でした。二期会の若い歌手達も大健闘!

場所は新国立劇場の中劇場でした。オペラを上演するための劇場機構が整い、また客席の大きさも理想的な素晴らしい環境でバロック・オペラを鑑賞出来て良かったです。両日ともソールド・アウトで当日券の販売もありませんでした。

オペラの正式名称「エジプトのジュリアス・シーザー」にある通り物語の舞台はエジプトです。舞台のプロセニアムや階段などがあの古代エジプト風の絵に飾られています。そして開演前には舞台上にワニの被り物をした人が数人(数匹?)いました。このワニ君達はじっと客席を観察していたり、上手下手のドアから出入りしたり、中には不良っぽいワニもいて、仲間のお尻を蹴飛ばしたりします。すべての動きが滑らかで、いかにもこれからお芝居が始まるぞ!という感じでワクワクしました。

そしてワニ君達がピットを指し示すとマエストロが登場。今回のオーケストラはニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウという名前で今回の公演のために結成されたピリオド・スタイルの管弦楽団だそうです。国内外の第一線の奏者と東京藝大、桐朋学園大学などの学生により構成されているとのこと。素晴らしい!一度ピリオド楽器でバロック音楽を聴いてしまうと本当にその音色の虜になってしまいます。戦争の場面の演奏も勇壮で良かった!ホルンのオブリガートがついたチェーザレのアリア(第一幕の「Va tacito e nascosto抜け目のない狩人は」)、他にもヴァイオリンやフラウト・トラヴェルソのソロが聴けてとても面白かったんです。ホルンはコルノ・ダ・カッチャ(狩猟ホルン)というピストンや穴が無くて長いラッパの管がクルクル回っただけの形もので、どうやってあれでメロディーを吹けるのか謎でした。立って腰に片手を当てて吹くのです。きっと凄く難しいのだと思いますが、素敵な音でした!

それにしても鈴木秀美さんの指揮は良かったです。テンポが自然で活き活きとしているし、それぞれの奏者の音を際立たせます。歌手もしっかりサポートしていました。それからレチタティーヴォ(音楽付きで芝居を語る部分)の通奏低音のレアリゼーション(奏者の解釈による即興的演奏)が大変美しく、場面のつなぎで弾くチェンバロはこのオペラの曲の中から音楽をアレンジしているようでしたが美しすぎました…まさに眼福ならぬ耳福という感じでした。

菅尾友の演出は回り舞台を利用したかなりめまぐるしいもの。登場人物達はなぜか全員妖精か宇宙人のようなとがった耳をしています。装置や衣裳の色彩等は洗練されているのですが、動きやギャグがマンガ・チックというか、エログロも入っているし、ドタバタ風な所もあり。でもそれが全てストーリーと音楽によく合っていてとても面白く観られました。金色のくす玉から色々な物を出したり、ワニ達がトロメーオを襲ったり、第二幕冒頭にあるチェーザレの「Se in fiorito ameno prato美しく花咲く野原で」のアリアでは客席を使ってワニ達が踊ったり(中村蓉の振付けが秀逸)、クレオパトラが機関銃を撃ちまくったり、今思い出しても楽しい場面がたくさんあります。ヨーロッパで流行っているバロック・オペラの演出にも遜色の無い、そして日本人らしい個性も加わった演出ではないかと思いました。丁々発止と飛び回らなくてはならない演技をこなした歌手達も立派でした。

ジューリオ・チェーザレ(23日)
写真をクリックすると5月23日組のアルバムが開きます
ジューリオ・チェーザレ(24日)
写真をクリックすると5月24日組のアルバムが開きます

歌手は若手が中心との事ですが皆さん音楽的にも大健闘していました。歌手全員言葉が大変美しく、そのため言葉が音楽より大切であったバロック時代のオペラの良さが引き立っていたと思います。バロック・オペラは当時カストラート歌手が歌っていた役を女性かカウンターテナーが歌う事になりますが、今回は初演時にカストラートが歌っていたチェーザレ、セスト、トロメーオの三役はすべて女性歌手が歌いました。チェーザレ役は両日ともに華奢な美青年風で若い色気があって良かったです。23日の杉山はアジリタも決まり音楽的には端正ですがやんちゃな雰囲気、24日の成田は正統派美青年で歌は叙情性が魅力でした。クレオパトラはこのオペラの中で一番のもうけ役でもありますが両日キャストとも素晴らしい歌と演技で観客を魅了しました。23日の田崎はより奔放でセクシー、24日の高橋は秘めた色気。クレオパトラのアリアはどれも素敵ですが最後のアリア「Da tempeste il legno infranto嵐に難破した船が」は両人ともに盛大な拍手を受けていました。他のキャストは23日のセストは可愛らしく、コルネリアは厳しいキャラクター、トロメーオは演技が迫力、アキッラは実は優しそう、24日は端正なセスト、美声と凛とした演技のコルネリア、カッコいいトロメーオ、熱唱と良く響く声で際立ったアキッラなどそれぞれの個性が出ていました。セストの第二幕の「Figlio non è復讐を遂げねば息子ではない」他、難曲ばかりですが皆よくこなしていたと思います。舞台裏から歌い、姿を見せなかった合唱も美しく力強かったです。バロック・オペラはA-B-A”というダ・カーポ・アリア形式の繰り返しの美学で成り立っていますが、それゆえに長大になってしまうため、この《ジュリオ・チェーザレ》もカット部分はあったようです。それでもきちっと三幕仕立てで上演され(第一幕70分、第二幕60分、第三幕65分)、出来る限りオリジナルの魅力を伝えようとする姿勢が感じられました。改めて関係者の皆さんに拍手を贈りたいと思います。

文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photo: Naoko Nagasawa


ジューリオ・チェーザレ (エジプトのジュリアス・シーザー)

オペラ全3幕
二期会ニューウェーブ・オペラ劇場
日本語字幕付き原語(イタリア語)上演

台本:ニコラ・フランチェスコ・ハイム
作曲:ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル

会場:新国立劇場 中劇場
公演日:2015年5月23日(土)17:00/24日(日)14:00

指揮:鈴木秀美
演出:菅尾 友
装置:二村周作
照明:原田 保
衣裳:十川ヒロコ
振付:中村 蓉

合唱指揮/副指揮:根元卓也

コレペティトール(チェンバロも):上野直毅/福間彩
原語指導:フラヴィオ・パリーズィ
演出助手/字幕製作:菊池裕美子

舞台監督:幸泉浩司
公演監督:大島幾雄/多田羅迪夫

キャスト
ジューリオ・チェーザレ:杉山由紀(5/23)成田伊美(5/24)
クレオパトラ:田崎美香(5/23)髙橋 維(5/24)
セスト:今野絵理香(5/23)田川聡美(5/24)
コルネリア:池端 歩(5/23)土屋優子(5/24)
トロメーオ:福間章子(5/23)小林紗季子(5/24)
アキッラ:勝村大城(5/23)加耒 徹(5/24)
クーリオ:杉浦隆大(5/23)白岩 洵(5/24)
ニレーノ:西谷衣代(5/23)濱野奈津美(5/24)

ダンサー:岡本優、鈴木よう子、星野琴美、今田直樹、王下貴司、中村理

合唱:二期会合唱団

管弦楽:ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ (略称NBO)
コンサートマスター:戸田薫

主催/制作:公益財団法人東京二期会

協力:
公益財団法人新国立劇場運営財団
東京藝術大学音楽学部
桐朋学園大学音楽学部

助成:公益財団法人野村財団

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