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【公演レポート】東京オペラプロデュース《復活》---文豪トルストイの名作を《トゥーランドット》の補完で知られるアルファーノがオペラ化

【公演レポート】東京オペラプロデュース《復活》---文豪トルストイの名作を《トゥーランドット》の補完で知られるアルファーノがオペラ化
東京オペラ・プロデュース《復活》7月11日公演より
東京オペラ・プロデュース《復活》7月11日公演より

トルストイの名作をオペラ化したアルファーノの《復活》。東京オペラ・プロデュースによる日本初演を観ました!

7月11、12日の二回公演。場所は新国立劇場の中劇場でした。こういう作品を上演してくれるのはオペラ・ファンとして勉強になる本当にありがたい機会です。

フランコ・アルファーノ(1876-1954)といえばプッチーニの《トゥーランドット》を補完した作曲家として広く知られていますが、アルファーノ自身のオペラにも良いものがあります。東京オペラ・プロデュースが2010年に日本初演した《シラノ・ド・ベルジュラック》は、近年ドミンゴやロベルト・アラーニャが歌って映像にもなっているので一番有名だと思います。《復活》は、ロシアの文豪トルストイの同名の小説を原作としており、アルファーノが若い頃の初めての成功作。1904年トリノ初演で、ヴェリズモ・オペラ的要素が濃い作品です。1903年にミラノ・スカラ座で初演されて大ヒットしたジョルダーノ《シベリア》の翌年に発表されており、同じくシベリア流刑を扱ったオペラながら、ジョルダーノがロシア民謡等を取り入れたキャッチーな音楽を書いたのに比べ、アルファーノはロシア的な音楽モチーフをほとんど用いず、主人公達の恋愛を描くことに集中しました。

オペラは四幕構成です。第一幕は田舎の館での若きネフリュードフ公爵(ディミトリ)とカチューシャの恋の一夜、第二幕は小ロシアの鉄道駅で戦争から戻る公爵をカチューシャが待ち受ける場面、第三幕はサンクトペテルブルクの牢獄に収容されているカチューシャとネフリュードフ公爵の再会、そして第四幕はシベリアへの流刑の道半ばで二人が別離を決意するまで、という構成になっています。今回、このオペラを観るのは初めてだったので、《復活》といえば当然ディミトリが陪審員として、殺人の罪に問われているカチューシャと再会するあのシーンがあるのかと思っていたらそれはありませんでした。トルストイの小説の強烈な個性を形成している社会派の視点は取り除かれ、貴族の男との恋愛故に道を踏み外した女が更生するまでが描かれています。原作は主にディミトリの視点で書かれていると思うのですが、オペラはどちらかと言えばカチューシャの視点で語られています。そういう意味ではアリア「Dio pietoso慈悲深き神よ」が含まれている第二幕は特に心を揺さぶられます。第三幕は堕落して女囚となったカチューシャがディミトリに怒りをぶつけるまでの二重唱が聴きどころです。

会場は新国立劇場の中劇場。プログラムによると、中劇場の音響を最大限にオペラ劇場に近づけるために舞台を前に張り出した形状にしてあり、そのためピットが実際より深く見えるそうです。確かにピットを覗いたら指揮台が遥か下の方にあり驚きました。

舞台は回り舞台を使っていますが、室内のシーンと屋外のシーンが背中合わせに組み立てられており、屋外のシーンではむき出しのパイプの上に雪が積もっている等、効果的なセットでした。衣裳も美しかったです。第一幕(と終幕)が復活祭という設定で、壁に書かれた宗教画が照らされて印象的でした。

東京オペラ・プロデュース《復活》7月12日公演より
東京オペラ・プロデュース《復活》7月12日公演より

馬場紀雄の演出は台本を丹念にたどった内容。好きだったのはやはり第二幕と第四幕の冬の風景です。特に最後に公爵とカチューシャがそれぞれの道をゆっくり歩んで行く場面は感動的でした。

飯坂純の指揮する東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏は歌をしっかり支えて巧みでした。オーケストラはイタリア・オペラらしい旋律美に加え音の厚みもかなりあります。オーケストラのそこここに、後の《シラノ》を思わせる耳馴染みの良いサウンドが聴かれました。

登場人物はかなり多いですが、主役はカチューシャとディミトリ、それに加えて第四幕に登場するシモンソンも重要な役です。カチューシャ役はかなり低い音域もあるヴェリズモらしいドラマティックな役柄です。11日組の橋爪ゆかは深みのある音色の声で、カチューシャの純粋さが際立った演唱。ディミトリ役の上原正敏は素直な発声が美しく、公爵らしい気品のある佇まいでした。シモンソンを歌った秋山隆典は実直な思いのこもったバリトン。ソフィアの小野さおりは品がよく、マトレーナの正岡美津子も豊かな声。アンナの北村典子は声も演技も良く説得力がありました。看守長の森田学は端正な歌、士官の笹倉直也は的確な演技、看守の佐原壮也も良い声でした。

12日組は垣岡敦子が芳醇な声で激情のカチューシャ、そしてディミトリ役の古橋郷平は声も演技も情熱的。この役によく合っていて大変魅力的でした。バリトンの羽山晃生は信念と愛情溢れるシモンソン役を良く表現していたと思います。その他のキャストも両日ともに健闘していました。

文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photogragh by Naoko Nagasawa

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東京オペラ・プロデュース第96回定期公演

《復活》

全4幕 イタリア語上演 字幕付 日本初演
フランコ.アルファーノ作曲
セザール・アノー台本

2015年 7月11日(土)&12日(日)
15:00開演
新国立劇場 中劇場

指揮:飯坂純
演出:馬場紀雄

カチューシャ:橋爪ゆか(7/11) 垣岡敦子(7/12)
ディミトリ:上原正敏(7/11) 古橋郷平(7/12)
シモンソン:秋山隆典(7/11) 羽山晃生(7/12)
マトレーナ/コラブレーヴァ:正岡美津子(7/11) 羽山弘子(7/12)
ソフィア /ラ・ロッサ:小野さおり(7/11) 菅原みずほ(7/12)
ムジーカ/フェニチカ:沖藍子(7/11) 八木下薫(7/12)
アンナ/ラ・ゴッバ:北村典子(7/11) 末広貴美子(7/12)
オルサ:金井理香(7/11) 別府美沙子(7/12)
召使い/ヴェーラ:溝呂木さをり(7/11) 中野優子(7/12)
農夫2/看守長:森田学(7/11) 鷲尾裕樹(7/12)
農夫1/クリツロフ:和田ひでき(7/11) 白井和之(7/12)
駅員/士官:笹倉直也(7/11) 岡戸淳(7/12)
ムジーク/看守/コザック:佐原壮也(7/11) 小林涼(7/12)
フェディア:馬場美綺(7/11)) 尾上綾音(7/12)

東京オペラ・プロデュース合唱団
東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団

美術:土屋茂昭
照明:成瀬一裕
衣裳:清水崇子
ヘア・メイク:星野安子
演出補:松尾史子
舞台監督:八木清市

合唱指揮:中橋健太郎左衛門
原訳:馬場紀雄
字幕制作:馬場紀雄
演出助手:福田麻衣子
音楽監督:伊佐地邦治
プロデューサー:竹内史子

主催:東京オペラ・プロデュース
協力:公益財団法人 新国立劇場運営財団

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