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【ディーヴァ来日中!】ソプラノ歌手 デジレ・ランカトーレ・インタビュー

【ディーヴァ来日中!】ソプラノ歌手 デジレ・ランカトーレ・インタビュー

Desirée RancatoreQ: 日本には、昨年の7月にリサイタルで来日して以来ですね。最近のあなたの活動、もしくはニュースを教えてくれますか?

A: つい二週間前にイタリアで〈金のパヴァロッティ賞〉という重要なオペラの賞を頂きました。これまでレオ・ヌッチやホセ・カレーラスなどビッグ・アーティストが受賞してきたものです。私は子どもの頃から私の歌の先生でもある母の影響でパヴァロッティのアルバムばかり聴いていたんです。彼の声は私にとってまさに「太陽の光」。ですから本当に大きな栄誉でした。今年はこれまで私が歌って来た《リゴレット》のジルダ役に対する〈リゴレット賞〉という賞も頂いていますし、嬉しいことが続いています。

最近歌った中で素晴らしかった公演は、マドリッドのテアトロ・レアルで歌ったドニゼッティ《連隊の娘》です。ローラン・ペリ演出の舞台で、このプロダクションはもともとマリー役をナタリー・デセイが初演しており、フランス語の会話に新しく書き加えた部分があり長いのです。でも内容がモダンでとても良く出来ている演出です。舞台でアイロンをかけたり、ジャガイモを剥いたりしながら歌うのですが(笑)、それを身体に覚えさせてしまえば楽しんで演じられます。二年前にパリで初めて歌ったプロダクションですが、マドリッドでも大好評でした。

Q: 今回は待望の《椿姫(ラ・トラヴィアータ)》での来日です。この役を日本で歌うのは初めてですね。

A: ヴィオレッタ役を歌うという長年の夢が叶ったのは二年半前でした。2013年の1月にモンテカルロ歌劇場で歌ったのが私のこの役へのデビューでした。それは本当に理想的なデビューだったんです。あまり大き過ぎない劇場で、そして「叫ぶ」歌手たちではなく、ベルカントで歌う歌手達との共演でデビューしたいと思っていましたから。指揮はマルコ・アルミリアートで、彼は2001年に私が初めてジルダ役を歌った時のマエストロでもありました。その彼の元で安心して歌えたのも嬉しかった。

その後、ローラン・ペリ演出の《椿姫》もパレルモやトリノ王立歌劇場で歌っています。モンテカルロ歌劇場の時は黒髪のかつら、ペリ演出は赤毛、そして日本では金髪のヴィオレッタです(笑)。

Q: この役を歌うまで、準備期間はかなり長かったのですか?

A: ヴィオレッタはオペラ歌手になったごく若い時からいつも自分の頭にあった演目です。マリア・カラスの名盤は数えきれないほど聴いていますし、実演もたくさん聴いてきました。モンテカルロでのデビューは降板した歌手の代役だったので準備期間は短かったのですが、私はその時にはこの役を良く知っていたのです。ポジションや音色を無理して探す必要も無く、全てを私が持っているもので歌うことが出来ました。自分でも驚いたのは、第三幕が信じられない程の「容易さ」で歌えたことです。声が熟すのを待っていたかいがありました。

ヴィオレッタという役柄は若い女性の役です。ですからある程度は若い声で歌っても問題はないのかも知れません。でも二幕のバリトンとの二重唱には豊かな響きが必要なんです。そのために声が熟すのを待ってからこの役を歌いました。私の声は今、コロラトゥーラからリリック・ソプラノへの道筋にあり、ヴィオレッタ役を歌うのに正しい時期だと思っています。

Q: プラハ国立歌劇場の舞台はどのようなものですか?

A: 演出はアルノー・ベルナール。とても美しいです。美術が洗練されていて、衣裳も時代に沿ったものです。ヴィオレッタは常に白い衣裳を着ています。第二幕だけ少し黒が入るのですが、それ以外は真っ白です。女声合唱が全員黒い衣裳なので、彼女を断罪しようとしているソサエティを前にして犠牲者となるヴィオレッタを象徴しているようで、とても気に入っています。

↓10月10日の大宮での舞台写真↓


Q: あなたのヴィオレッタのどこを聴いてほしいですか?あなたが一番大事に思っているのはどの部分でしょうか?

A: ヴィオレッタという役の中で私がもっとも大事にしていて、お客さんに伝えたいと思っている点は、彼女の「気高さ」です。ヴィオレッタは、彼女の生きる糧を得る方法にも関わらず、気高い女性なのです。ヴィオレッタはそれまで多くの男性に愛されてきました。でも誰を愛したこともなかった。ですから彼女が第一幕のアリアの中で言うフレーズ「essere amata amando愛されながら愛すること」は彼女の心を読み解く鍵になると思います。皆さんにこの言葉の意味が届くように、ヴィオレッタが自分の感じている愛情に、どんなに動揺して、衝撃を受けているかを表現出来たらと思います。

第二幕では、ヴィオレッタは自分を、アルフレードの「清らかな」妹のために犠牲にします。彼女は最初ジェルモンに、「アルフレードとは絶対に別れません。私は恐ろしい病いの身で、アルフレードが去ってしまったら私に残されるのは死だけです」と抵抗します。ところがジェルモンがアルフレードの「美しく清らかな」妹の存在を持ち出すと、ヴィオレッタの抵抗は崩れ去ります。彼女は自分以外の人間の「清らかさ」を壊すことは出来ない、その為にアルフレードを諦めるのです。「清らかさ」はヴィオレッタには唯一、絶対に手に入らないものですから。ヴィオレッタは清らかさ、愛、犠牲の意味を知っている、高い美徳を備えた人物なのです。

第三幕には彼女の変容がみられます。「慈悲深い司教様が」「宗教は魂に慰めを与えてくれます」などの台詞があり、彼女の思考が教会に近づいていることを示しています。それが孤独になってしまった彼女の慰めなのです。だからこそアルフレードに対しても「天使達の間であなたのために祈っています」と言うのです。彼女は自分が罪を贖い、救済されて天国に行くことを確信しているのです。ヴィオレッタが愛を通して救済された、そのことも表現出来たらと思います。

Q: ヴィオレッタ役は声楽的に難しいのでテクニックに集中して歌ってしまう人も多いと思います。

DSC_5512A: 私たちは歌手ですから、良い歌唱をするように努力しなくてはなりません。でもオペラ歌手というのは歌手であると同時に役者なのです。音楽はそれだけで美しい。でも真のアーティストがその音楽に共鳴した時こそ、音楽がもっとも良い形で観客に届くのではないでしょうか。

Q: 来日して何が一番嬉しいですか?

A: 日本に帰ってこられるのはいつでも本当に嬉しいです。今回はとても過ごしやすい気候で、私の町パレルモで過ごしているみたいです。日本のお客様には前回のコンサートでも大歓迎してもらい、特に東京の紀尾井ホールでお客様が皆、立ち上がって熱狂的に拍手喝采してくれたことは本当に感激しました。

Q: 日本のファンのあなたへの愛はどんどん深まっているようですね?

A: 音楽ファンのアーティストに対する気持ちには愛情と評価の二つがあると思うんです。観客の評価はアーティストにとって本当にエネルギーを与えてくれるものです。待っていてくれることも嬉しいけれど、何より嬉しいのはそれが私の「歌」を聴くためだからです。これは実は、いつでも期待出来ることではないんです。多くの場合には、演奏会場に来る人は、もうすでに何らかの考えを持ってその場所に来る、先入観と言うか、自分が期待するものをある程度決めてしまっていることがあるんです。その点、日本では観客が先入観無しで来てくれる。勿論これまでの私の歌を覚えてはいるけれど、その場で歌うものをちゃんと聴いてくれる。新しくまた何かを受け取りたい、という気持ちを凄く感じます。だから私たちも惜しみなく最良のものを出そうとします。そのお返しには、皆さんからそれ以上に多くのものを受け取っています。これは正直に言って特に日本で感じることです。

Q: それはとても嬉しいご意見です。日本は経済危機が叫ばれて久しいですが、海外からのアーティストを聴くだけでなく、日本の歌手達の活動もかなり活発に続いているんです。

A: 音楽を作り出すこと。続けていくこと。音楽に対する愛が何より大事なのです。それが日本の皆さんと私に共通する部分ではないかしら?

Q: 今日はどうもありがとうございました。《椿姫》の公演、そしてリサイタルのご成功をお祈りしています。

インタビュー・文:井内美香  / photo: Naoko Nagasawa


◇プラハ国立歌劇場《椿姫》
・10月17日(土)16時 東京文化会館

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