オペラ・エクスプレス

The opera of today from Tokyo, the hottest opera city in the world

【公演レポート】日生劇場《アイナダマール(涙の泉)》11月15日

【公演レポート】日生劇場《アイナダマール(涙の泉)》11月15日

【公演レポート】日生劇場で日本初演のオペラ《アイナダマール》を観ました。

《アイナダマール》とはアラビア語で「涙の泉」という意味だそうです。20世紀前半、スペイン内乱の時期にファシストによって殺害された詩人、フェデリコ・ガルシア・ロルカについて書かれた現代オペラです。アメリカの台本作家で劇作家のデイヴィッド・ヘンリー・ウォンとアルゼンチン生まれのユダヤ人作曲家オスバルド・ゴリホフによって書かれ、2003年にタングルウッド音楽祭で世界初演されました。その後、ピーター・セラーズがプロジェクトに加わりいくつかの変更を加えた舞台版完全上演が2005年にサンタフェ・オペラで行われています。スペインなどヨーロッパでも上演されているゴリホフの代表的作品です。

このオペラの主人公はロルカの劇作品を数多く演じた実在の女優、マルガリータ・シルグです。物語は1969年、南米ウルグアイの劇場で始まります。舞台袖でロルカの劇「マリアナ・ピネーダ」の出番を待っているシルグ。マリアナ・ピネーダは19世紀初頭のグラナダで自由主義者への共鳴の罪で処刑された女性で、ロルカは27才の時に彼女を戯曲にし、シルグはその「マリアナ・ピネーダ」初演でも主役マリアナを演じました。晩年のシルグは、回想シーンと現実の間を行き来しながら、ロルカと過ごした時、ロルカを助けられなかった悲しみなどを語っていきます。大きく三つの情景に分かれた約90分程の作品で、今回の上演はプロローグとして第一部に、ロルカの生涯を簡単に説明する役割を持ったお芝居(台本・構成:田尾下哲)が上演され、第二部としてこのオペラが上演されました。


第一部のお芝居は、長谷川初範が演じる新聞記者がロルカについての本を執筆中である、という設定で若くして殺された詩人ロルカの生涯を語ります。


そして第二部は《アイナダマール》の上演です。普通のクラシック音楽のオーケストラだけでなくシンセサイザー、アコースティック・ギター、カホン(パーカッションの一種)などが使われているのでPAが入っていて歌手の声もマイクで拾っていました。

真っ暗な舞台奥に少しずつ明るい四角が大きくなっていき水面に水滴が落ちる映像が写されます。まずスペインの民族衣裳を着た女性合唱団が登場し、平たい岩の上ではマリアナ・ピネーダの処刑が行われます。そしてマリアナを演じる女優シルグが紫のドレスで登場。シルグはドラマチックなソプラノ、彼女の弟子である若い女優ヌリアはリリックなソプラノ、そしてロルカはメゾ・ソプラノの女性歌手がズボン役として演じます。

アラブ風のメロディーやフラメンコなどが多用される音楽は大変美しかったです。興味深いのは、ロルカを逮捕して処刑するルイス・アロンソがフラメンコ歌手(カンタオール)によって歌われることです。つまりフラメンコの音楽はファシスト的な暴力を表現する時に使われており、より前衛的というか現代的な音楽が自由や芸術を希求する個人の表現に使われているようでした。このように『民族』と『個人』の対比を描いていることはこのオペラの大きな意義だと感じました。

演出の粟國淳はクラシック・バレエの振付けを基本とした男達の踊りを舞台の重要な要素として使っていました。衣裳のチャンマルーギと振付けのブランカッチョはイタリア人です。広上淳一指揮の読売日本交響楽団も熱演でした。歌手の方達はパッションのあるシルグ役の横山恵子、清廉な声でヌリア役にぴったりの見角悠代、難しいロルカ役を雰囲気を持って歌った清水華澄 他、皆がスペイン語のオペラを良く歌いこなしていました。

そして今回もっとも心に響いたのが、『民族』の側を表現したアーティスト達です。悪役ルイス・アロンソを歌ったフラメンコ歌手の石塚隆充は声も歌い方もまったく素晴らしかったです。そしてオーケストラ・ピットの中ではなく上手側の舞台袖に乗って演奏していたギターも堪能しました。オペラの冒頭部分に女声合唱で歌われる「ああ、グラナダになんという悲しい日…」というバラードは、ロルカ自身が幼い頃に聴いたマリアナ・ピネーダにまつわる伝承の歌を元にしており、彼の戯曲でも使われているそうです。その物悲しいメロディーがいつまでも耳に残るのは、『民族の性』の悲しさを表現しているからなのかも知れません…
(所見:2014年11月15日)


reported by Mika Inouchi / photo:Naoko Nagasawa

「アイナダマール」<涙の泉>
全3景 原語スペイン語上演(日本語字幕付)

2014年11月15日(土)14:00開演
2014年11月16日(日)14:00開演

台本:デイヴィッド・ヘンリー・ウォン
作曲 オスバルド・ゴリホフ

指揮:広上淳一
演出:粟國淳

管弦楽:読売日本交響楽団

マルガリータ・シルグ:横山恵子(11/15) /飯田みち代(11/16)
ヌリア:見角悠代(11/15) /馬原裕子(11/16)
ロルカ:清水華澄(11/15)/ 向野由美子(11/16)
ルイス・アロンソ:石塚隆充(全日)
ホセ・トリパルディ:加藤宏隆(11/15) /小田桐貴樹(11/16)
闘牛士:柴山秀明(11/15) /鹿野浩史(11/16)
教 師:狩野賢一(11/15) /佐藤望(11/16)

第一部
出演:長谷川初範/柴山秀明/三枝宏次

合唱:C.ヴィレッジシンガーズ
大木美枝/加形裕子/河口三千代/北爪和代/白神晴代/福間章子/
藤井あや/藤長静佳/増田弓南智子/宮田早苗/森川朋子/山下千夏/
山本千鶴/横町あゆみ

ダンサー:
アクセル・アルベリシ/五十嵐耕司/伊藤拓/木下あきら/三枝宏次/
中村征矢/堀部佑介/山田洋平

フラメンコギター:智詠 フェルミン・ケロル
カホン:朱雀ハルナ
シンセサイザー:平塚洋子

主催・企画・制作:日生劇場【公益財団法人ニッセイ文化振興財団】

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

CAPTCHA


COMMENT ON FACEBOOK

Return Top