オペラ・エクスプレス

The opera of today from Tokyo, the hottest opera city in the world

10/11東京オペラシティで開催される、イタリア・オペラにこだわったリサイタル―――西村悟さんインタビュー(全4ページ)

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◆声楽のイメージを180度変えた、イタリア人からは絶対に学べない事

Q:ボローニャに留学したのがイタリア時代の幕開けですね?

A:そうですね。ボローニャから日本に戻って来て大学院の修士を卒業し、次は文化庁の海外研修でヴェローナに一年半程行きました。そして最後が五島記念文化賞です。やはり一年間イタリアに滞在することが出来ました。その後はヴェローナを拠点に勉強を続け、イタリアと日本を行ったり来たりを繰り返してきました。

Q:イタリアを長年拠点にして、イタリア・オペラを中心に研鑽をつんで来られたことで、自分の中で変わった部分はありますか?

A:それはものすごく変わりました。実はヴェローナに住んでいたのはそこから電車で40分くらいのマントヴァに先生がいたからなんです。その先生と出会ったのは最初のボローニャ留学時代でした。僕が受けたコンクールにその先生のお弟子さんが出ていたので、僕が歌っているのを聴いて声をかけられたんです。「私と一緒に勉強しませんか?」って。Yoko Takeda先生というイタリアに40年近く住んでいらっしゃる日本人の方でした。最初は何か怪しいなって思ったんです(笑)。日本人に声をかけられても、僕はイタリアにいるんだからイタリア人に学べばいいし、と心の中では思いました。でもよく調べてみたら結構有名な歌手も師事していて。テノールでは例えば少し前に新国立劇場の『カルメン』に出演していたマッシモ・ジョルダーノ。それに日本のソプラノ、大村博美さんも彼女の愛弟子ということが解り、では一回レッスンに行ってみようと。そしてレッスンに行ったら刺激的な事が多かったんです。自分が思っていたオペラの、声楽のイメージが180度変わってしまいました。

そこで大学院を卒業して文化庁の派遣に受かり、またイタリアに戻って通いだしたんです。その時は本当に大変でした。毎週三回通って2時間ずつくらいやって。土台を作るところから始まって、いままで使っていなかった筋肉を使ってやるわけなんです。一時的に声も出なくなりました。先生は音声学も学んだ方なので、様々な画像等を見ながら、今あなたはここを使っている、でもここを使わなくてはいけない、というように理論的に教えて下さいました。

先生が教えて下さった事は、当時の僕の語学力から言っても、イタリア人からは絶対学べない事だと思いました。それに生まれつきイタリア語をしゃべっている人達は発声が違う、というのはつまり話している位置が違うんです。イタリア人は日本人よりも口の中のもっと奥の方を使うんです。でもイタリア人は生まれた時からやっているのでそれを我々に説明出来ないんですよね。なぜ出来ないのかが解らない。それを説明してくれて、歌はもっと後ろを使いなさい、というのが先生の最初の教えだったんです。

Q:自分で納得して、先生の所に通い詰めて発声を作り上げていったわけですね?

A:そうです。また当時の自分はかなり自由に歌っていた部分もあったんです。今日は調子がいいから上手く歌えるとか、調子を整えよう、とかばかり考えていたけれど、Takeda先生の教えでは、歌はフォームで歌うもの。調子で歌ってはいけないと。フォームを確立していれば、風邪さえひいていなければ同じ結果を出すのがプロなんですよね。

それからイタリアに行く前の僕は声量にコンプレックスがありました。歌ってもあまり声が届かない。オーケストラと歌うと声が潜ってしまう。でもそれは、しっかりしたポジションで、正しい使い方をしていなかったんです。正しく歌えば大きな声でなくても届くようになる。その先生の教えがちょうど僕のニーズに合ったんですね。

Q:西村さんの素晴らしい声が、何年もの研鑽のもとに作り上げられたものだということが良く解りました。帰国して藤原歌劇団に入られたのは、イタリア・オペラ系だから、ということですか?藤原では『椿姫』『仮面舞踏会』『蝶々夫人』に主演され、この12月には『ルチア』の舞台も待っていますね。
A:はい。イタリア・オペラに強いこだわりがありましたし、僕にとってはオペラが一番大事なんです。何を差し置いてもオペラが優先。僕は身体を使って表現するのが大好きなのでオペラの中のお芝居の部分も好きなんですね。演奏会も大切ですが、やはり舞台装置や照明があり、衣裳があり、そして声があるオペラは凄い芸術だと思うんです。若いうちは出来る限りオペラをやりたいですし、芝居も含めた僕を総合的に見ていただけると思っています。

へ続く

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