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今年の「佐渡オペラ」は凄い!さあ劇場へ!―――佐渡裕プロデュースオペラ2018《魔弾の射手》ゲネプロレポート

今年の「佐渡オペラ」は凄い!さあ劇場へ!―――佐渡裕プロデュースオペラ2018《魔弾の射手》ゲネプロレポート

「これは面白い。さあ劇場へ」そんな映画の宣伝文句のような言葉が頭に浮かぶ。今年の「佐渡オペラ」は凄い!

阪神淡路大震災復興を文化で支えてきた佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ。
佐渡音楽監督が自ら、兵庫県立芸術文化センターで14年に渡って継続してきたわが街のオペラの集大成と胸を張る内容に偽りはなかった。
楽譜に忠実であること、時代背景に忠実であること、舞台セットのデザインも含めて読み替えをしないで「オーソドックス」にこの作品と向き合ったことを、佐渡音楽監督はゲネプロ前のプレトークで強調した。佐渡音楽監督と演出家ミヒャエル・テンメの出会いは必然だった。

「魔弾の射手」の序曲は日本でもよく演奏され親しまれている曲であり、狩人の合唱は音楽の授業でも取り上げられてきた。しかしながらドイツの国民的オペラであるこのオペラの全曲上演は数少ない。もちろん日本で上演するためにはマックス役を歌うテノールに要求される強靭な声など歌唱技術、ドイツ語によるセリフ、歌唱に対応できるキャストを揃える必要があることなどプロデュースは簡単ではない。
佐渡プロデュースオペラは毎年公演を続ける中で地域を、観客を、プレーヤーを育てきた。機は熟した。

序曲が始まるロマン主義の香りがオケピットから劇場中に広がる。それは優しい音楽ではない。激しい弦の摩擦音、ボヘミアの森の奥から聴こえるようなホルンが心に響く。
序曲の間もすでに演出家の意図が視覚的に飛び込んでくる。30年戦争のこと、オペラの登場人物の関係性への理解を助けてくれる。
序曲は、暗い時代を感じさせる重厚な音楽から、未来への光を求めるように前に向かう軽快な音楽とテンポの変化も明確。
序曲が終わり、幕が上がると出迎えてくれるのは素晴らしい民衆の合唱。
毎年メインキャストは演目に合わせて招聘されるが、合唱は一つの団としてまとまってきている。それぞれがソリストとしても活躍している日本の声楽界を背負うメンバーであり、このプロデュースで歌うことに誇りを持っていることが伝わってくる。ゲネプロでありまだ本番に向けて仕上げの段階ではあるが、本番さながらの迫力で声が束になって客席に飛んでくる。
「魔弾の射手」はまさに民衆の力を表現したオペラ。主人公マックスとアガーテが運命に翻弄され、心の弱さも見せるが、それを乗り越える強さが主役だけでなく名もない民衆も含めて一人一人にある。
冒頭の合唱が繰り返し歌う言葉にこの物語が不幸に終わらない鍵がある。人口の三分の一が命を落としたといわれる30年戦争のことはなかなか現代日本の私たちには理解できないが、この民衆の強い声、言葉を聞けば当時のドイツ語圏の人たちの叫びが聞こえてくる。

狼谷のシーンはこのオペラでは非常に重要となるが、この舞台デザインと演出は言葉では表現できないほどの完成度だ。是非客席で体験して欲しい。
狼谷のシーンに見えているのは人間が作り出したもの、荒廃したもの、滅びたもの、不安定なもの。視覚的にも衝撃的なシーンだが、さらに舞踊の要素を取り入れた演出が人の内面をえぐりだす。CGなどを見飽きた中で、この演出は新鮮に感じた。ベルイマンの「魔笛」での試練のシーンを一瞬想起させる演出だ。
アガーテとエンヒェンの女性二人の性格描写も明確だ、大きなひびの入ったアガーテの部屋も印象的で、心乱れるアガーテと、明るく振舞いアガーテを励まし続けるエンヒェンの対比が歌唱、演技の力も加わって心に響く。

やがて運命の射撃大会の日がやってくる。ストーリー的にはこのオペラの評価がわかれる予想外の展開で、魔弾を手に入れてしまったマックスは未来へのチャンスをもらうが、開幕と同じく民衆の合唱の力強さが観る者にこの結末を納得させる。
ゲネプロレポートではあるが本番を観たような満足感に包まれた。あっという間の3時間であった。
7月21、24、27、29日組のゲネプロだったが、難役を軽々と歌うマックス役のクリストファー・ヴェントリスをはじめ、カスパー役のジョシュア・ブルーム、アガーテ役のカタリーナ・ハゴピアン、エンヒェン役のマリア・ローゼンドルフスキーのメインキャストが歌唱、演技ともに素晴らしい。ドイツ語圏で活躍している日本人キャストの健闘も見もの。本日のゲネプロでは隠者役の斉木健詞の説得力のある深い声が印象的だった。

今回の「魔弾の射手」は見逃せない。7月20、22、25、28日組も日本を代表する歌い手達、マックス役として実績のあるトルステン・ケールのテノールなど聴きごたえのキャスティングで楽しみ。二組のキャストを聴き比べてみるのも、また今月18~22日まで同演目を上演している東京二期会公演と聴き比べるのも「魔弾の射手」という作品の魅力探検には絶好の機会。「オペラ」は楽しいですよ。是非劇場へ。


(所見:2018年7月18日)
レポート・文:香盛修平 / 写真:長澤直子

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2018
魔弾の射手
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
2018年7月
20日(金)/21日(土)/22日(日)/24日(火)/25日(水)/27日(金)/28日(土)/29日(日)
各日14時開演

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