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奇跡の上演迫る!佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ「ラ・ボエーム」取材会レポート―2022.7/15(金)~兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて

奇跡の上演迫る!佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ「ラ・ボエーム」取材会レポート―2022.7/15(金)~兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて

兵庫県立芸術文化センター主催、佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ「ラ・ボエーム」が、ついに上演される。ダブルキャストで合計8回もの上演が予定されている本公演は、本来であれば2020年に上演されるはずだった作品だ。今回は2年越しとなる待望の上演だが、当初予定していた全ての出演者とスタッフが、奇跡的に変更することなくキャスティングされている。世界を股にかける歌手が都内のスタジオで稽古を進めている中、指揮を執る佐渡裕と、出演する髙田智宏・平野和が出席する取材会が行われた。

佐渡は一度延期された本公演について、「(延期となり)ショックだった。」と語る。昨年はオペレッタ「メリー・ウィドウ」の公演を成功に導いているが、延期を乗り越えての本演目に思い入れは「ある」と明言する。自身がミラノでオーディションした若手海外歌手、そして国内外で活躍する日本人歌手を再び迎えることができ、「戻ってきてくれてうれしい」と感慨もひとしおだ。

「ラ・ボエーム」は日常の一コマを切り取ったような作品だ。そんな「ラ・ボエーム」の魅力を、佐渡はこう語る。
「劇場にいる人の心理がよく分かっている。若者たちの青春話で、世界も政治も動くわけではない。魔法も使わない、神様も現れない。それがプッチーニのすごいところ。下宿の中にドラマがある。『なぜ劇場に足を運びたくなるのか』がギュウギュウに詰まった作品」

若き海外歌手組、着実にキャリアを築いてきた日本人歌手組、それぞれが青春活劇ともいえる物語を紡ぎ出す。歌手陣からはマルチェッロ役の髙田智宏、コッリーネ役の平野和からお話を聞くことが出来た。それぞれドイツ、そして音楽の都ウィーンで10年以上の長きに渡るキャリアを築き上げている。

髙田は画家マルチェッロ役を演じることを「歌うというより、朗読、演劇に近い」と語る。その音楽について「歌うのではなく、話したがゆえに出てきたメロディー」とし、「キャラの音楽を上手に引き出すようなメロディーを書いてくださっているので、それを邪魔せず、朗読をするような、演劇をするような気持ちで歌い、語り、演技している」と続け、プッチーニがマルチェッロに与えた音楽の素晴らしさを強調した。マルチェッロ役の役作りにおいては、あまり他者に求めず「自分の中から出す」と語る髙田だが、それでも少なからぬ影響を受けたという歌手がいると言う。2004年にカヴァーキャストとして参加した小澤征爾音楽塾オペラプロジェクトで、同役を演じるために来日したマリウス・キーチェンだ。メトロポリタン歌劇場など世界の第一線で活躍する名バリトンだが、若かりし髙田の目に映ったキーチェンのマルチェッロ像は、「かなり強烈に残っている」のだという。

一方平野は哲学者コッリーネ役を「なるべく自然に見えるよう、作りすぎないで、素の自分が出るように心がけている」と話した。彼はフォルクスオーパーで同役を複数シーズン演じているが、その演出を手掛けたハリー・クプファーに大きな影響を受けたという。バイロイト音楽祭などで非常に高い評価を受けた、ドイツの名演出家だ。その後もクプファーとは縁があり、2004年に彼が演出を行うヘンデルの「オットーネ」に出演する機会を得て、役作りや演出のつけ方に衝撃を受けたそうだ。彼は一つのアリアを演出するときに、役の心情の一つ一つを実況中継してくれるかのように言葉で語ってくれる。「今回コッリーネという役をやるときにも、彼に倣って、深い心理状態を『実況中継』するような感覚で細かいところまで深めていけたらなという風に思っている。」と語った。

平野和(左)・髙田智宏(右)

それぞれ歌手として全盛期にあるといえる2人だが、これからの目標や挑戦したい役についてどう考えているのだろうか。ドイツで15シーズンのキャリアを重ねた髙田は「今まで歌った役をもう一度やって(例えばアラベッラのマンドリカなど)役を深めて、自分のものにしたい」と語る一方で、「声の変化、声の成長に合わせて次のステップを(目指したい)」と話す。例としてワーグナー「ラインの黄金」のドンナー役を演じてきたが、「ヴォータンを視野に入れ」るなど、所属劇場の音楽スタッフと相談しながら「先に進んでいきたい」と語った。平野は「ワーグナーの役、バスの一線級の役をやってみたい」と言い切る。フォルクスオーパーで14シーズンを過ごした平野は、来シーズンは「半年だけ同劇場と契約して、半年はフリーランスとして、どんどん外(他所の劇場)に出ていけるような立場になった」といい、ワーグナーのレパートリーをほとんど持たないフォルクスオーパーから離れて、その夢を実現するための次のステージへ歩みを進めた形だ。

また、“佐渡オペラ”の魅力について、2013年から出演を重ねる髙田は「佐渡さん含めスタッフのプロフェッショナルな仕事ぶりに毎回感動する」と語った。「みんながそれぞれ自分の役割をパーフェクトにこなして、我々が舞台の上で本当に気持ちよく歌えるように、パーフェクトな仕事をされている」と、オペラを支える全てのスタッフへの思いを続けた。今回が初出演だという平野は、昨年の「メリー・ウィドウ」を観劇し、その時の客席の様子について「商店街からいらしたような雰囲気の方から、本当にオペラ好きの方まで、多種多様なお客さんの層」がいると指摘した。「佐渡さんがトップに立って、自分で街に出て行ってオペラの魅力を伝え続け、大切に耕してきたお客様たちなんだろうなというのを強く感じた。そういう和気あいあいとした雰囲気の中で、本格的なオペラを上演できるというのは、ものすごく素晴らしい、我々にとってもそうだがお客様にとっても、これからのオペラ界にとっても素晴らしい機会じゃないかと思う」と、兵庫のみならず、オペラ業界の未来にとって大きな意義があるとした。

リハーサル中の一コマ

佐渡も今回の「ラ・ボエーム」には大きな手ごたえを感じているようだ。「素晴らしいキャストが集まった」と語り、その理由について「見た目も声も(素晴らしく)、(芝居的にも)動ける。なかなかそういう歌手は集まらないと思う」とした。演出にも高い期待を寄せている。演出を務めるダンテ・フェレッティはハリウッドで美術家として活躍し、米国アカデミー賞を3度受賞するという、オペラ演出家としては異色の経歴の持ち主。「兵庫でやるオペラは他で作ったのとは違うものではありたいが、全く読み替えたものにはしたくない」という佐渡の願い以上の舞台が出来つつあるという。

稽古場にはセットの模型や舞台スケッチ、衣装デザイン画が!

歌手、オーケストラ、合唱団、演出、スタッフ、そして街と観客。これらをまとめ、繋ぎ合わせる指揮者/芸術監督・佐渡裕。彼らの創り出す「ラ・ボエーム」は、コロナ禍にある我々が忘れかけていた“人と人との繋がり”の美しさを思い出させてくれるのではないだろうか。

取材・文:オペラ・エクスプレス編集部

渡裕芸術監督プロデュースオペラ 2022
プッチーニ 歌劇《ラ・ボエーム》全4幕

(イタリア語上演・日本語字幕付/新制作)

2022.7/15(金)、7/16(土)、7/17(日)、7/18(月・祝)、7/20(水)、7/21(木)、7/23(土)、7/24(日)
各日14:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

演出・装置・衣裳:ダンテ・フェレッティ
指揮:佐渡裕
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
合唱:ひょうごプロデュースオペラ合唱団、ひょうご「ラ・ボエーム」合唱団、ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団

出演 
●=7/15、7/17、7/20、7/23 〇=7/16、7/18、7/21、7/24
ミミ:フランチェスカ・マンゾ● 砂川涼子〇
ロドルフォ:リッカルド・デッラ・シュッカ● 笛田博昭〇
ムゼッタ:エヴァ・トラーチュ● ソフィア・ムチェドリシュヴィリ〇
マルチェッロ:グスターボ・カスティーリョ● 髙田智宏〇
ショナール:パオロ・イングラショッタ● 町英和〇
コッリーネ:エウゲニオ・ディ・リエート● 平野和〇
べノア / アルチンドーロ:ロッコ・カヴァッルッツィ● 片桐直樹〇
パルピニョール:清原邦仁● 水口健次〇

問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
http://gcenter-hyogo.jp/boheme/

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