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ヴェルディの全26作品をオペラのヒロインから読み解く一冊———〈ヴェルディのプリマ・ドンナたち〉小畑恒夫著(水曜社刊)

ヴェルディ・オペラの真髄を伝える本が出版されました!タイトルは〈ヴェルディのプリマ・ドンナたち〉。小畑恒夫著(水曜社刊)です。
ヴェルディのプリマ・ドンナたち ヒロインから知るオペラ全26作品
輝かしいイタリア・オペラを築いた作曲家たち、ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティ、ヴェルディ、そしてプッチーニ。彼らのオペラを聴く時に、もっとも心打たれるものの一つにヒロイン、つまりプリマ・ドンナの声があります。ロッシーニの理知的なヒロイン、ベッリーニの麗しいヒロイン、ドニゼッティの繊細なヒロイン、プッチーニの女らしいヒロイン。どの作曲家も自分の理想の女性像を音楽で描きました。その中でも、もっとも強い女性は、愛と大義に殉ずるヴェルディのヒロインたちです。イタリア国家統一という激動の時代を生きたヴェルディが描く女主人公たちは、この上もなく気高く、深い愛を知っているように思えます。

このヴェルディのヒロインたちの魅力を余すところなく伝えるのが本書、小畑恒夫著〈ヴェルディのプリマ・ドンナたち〉(水曜社刊)です。ヴェルディのオペラを長年研究している小畑氏の最新刊で、ヴェルディの全26作品を、それぞれのオペラのヒロインから読み解いています。

ヴェルディがオペラを書くにあたって、いかに台本にこだわったかは有名な話です。そして、ヴェルディがそれに劣らずこだわったのが自作の初演を歌う歌手の選択でした。現存するヴェルディの書簡集には、仕事関係者や友人に宛てた、あの歌手、この歌手についての質問が溢れています。今も昔も良いオペラ歌手を契約するのは至難の技。一流の歌手はギャラが高く、しかも身体が楽器であるだけに出演する時にどのようなコンディションにあるかは本人にすら予想が難しい。プロとして活躍する時期と出産の可能性がある時期が重なる女性歌手はなおのことです。それゆえに最高のキャストを選んだと思っても、その歌手が初演を素晴らしい歌で飾ってくれるとは限らない(もしくは反対の事も起こりうる)のがスリリングなオペラの世界なのです。

この本はヴェルディの各オペラをヒロインを中心に据えて、それぞれのストーリーと音楽を読み解いています。そして作品を初演した歌手の紹介がそれに続きます。《ナブッコ》を初演したジュゼッピーナ・ストレッポーニがどのような歌手で、後にヴェルディの伴侶となった彼女がヴェルディにどのような芸術的な貢献をしたか。《リゴレット》のジルダの魅力はどのようにアリアに表現されており、そのアリアは初演においてどのように素晴らしく歌われたか。《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》の初演が大失敗だったという有名な話は、近年の検証では否定されていますが、それではヴェルディがヴィオレッタ歌手に求めた資質とは何だったのか?《ドン・カルロ》のイタリア初演、《アイーダ》のスカラ座初演、そして《レクイエム》を創唱したテレーザ・シュトルツの歌をなぜヴェルディが愛したのか。そして最後の傑作《ファルスタッフ》の初演でアリーチェを歌ったエンマ・ズィッリにヴェルディがどのような素敵な手紙を書いたか…

有名な作品も、上演が稀な作品も、ヴェルディのオペラを彩るプリマ・ドンナたちの物語はいずれも大変興味深いです。この本は小畑氏による、台本の精読、丹念な音楽解釈、そして最新の文献研究に基づいて書かれています。ヴェルディのオペラを好きな方、そしてヴェルディのオペラを歌いたい歌手の方には宝物のような本だと思います。もちろんそれ以外の方にも。ヴェルディのオペラの新しい観方を教えてくれる一冊です。
(文・井内美香)


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