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登場人物たちの危ない心理を強烈に描いて―《午後の曳航》GPレポート

登場人物たちの危ない心理を強烈に描いて―《午後の曳航》GPレポート

二期会創立70周年記念公演、および日生劇場開場60周年記念公演として新制作された、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲《午後の曳航》ゲネプロ(最終舞台稽古)を取材しました。

三島由紀夫のエッジの効いた原作を、ハンス=ウルリッヒ・トライヒェルの優れた台本と、深層心理をえぐり出すようなヘンツェの音楽で描いたドイツ語のオペラです(初演は1990年ベルリン・ドイツ・オペラ)。2003年に読売日本交響楽団がサントリーホールで初演した日本語版も存在しますが、今回の上演は2005年改訂ドイツ語版の日本初演だそうです。上演は1部と2部に分かれており、間に一度休憩があります。

指揮はアレホ・ペレス、演出は宮本亜門。

今回、23・25日に出演するキャストのゲネプロを拝見しました。

〈あらすじ〉(日生劇場のHPより)
少年黒田登は、父を亡くし、夜毎自分の部屋の秘密の穴から寝床に居る母房子の姿を覗いていた。ある日、登と房子は航海士の塚崎竜二と出会う。登は、屈強な身体の竜二に強く惹かれるが、房子と竜二がベッドで抱き合う様子を覗き穴から見てしまう。やがて房子と竜二は結婚する。海を離れ、房子の経営するブティックを手伝うようになった竜二を、登は軽蔑する。ある夜、房子と竜二は、登の部屋からの覗き穴を見つける。寛容な態度をとる竜二に対して、登はさらに憎悪を募らせ、少年たちとともに竜二に裁きを与えることを決意する。

日生劇場は劇場の規模が大きすぎないので舞台が鑑賞しやすいです。宮本亜門の演出は、映像を効果的に使い、原作者の三島由紀夫像を主人公の登と重ねたり、登の内なる欲望を視覚化する部分が興味深かったです。またクリストファー・ヘッツァーによる舞台美術と衣裳はモノトーンを基調にしたシンプルな美しさを持ち、黒子的なダンサーたちが踊りながら舞台転換もスムーズに進めていくのも良かったです。このダンサーたちの演技と踊りは、状況の変化、登の心理的な乱れなどを表現することも多く注目です。

キャストはよくこんなにぴったりな配役ができたなぁ!と驚くような素晴らしさ。
まず主人公の登を演じたテノールの山本耕平が、声の美しさと思い詰めた少年の演技で物語全体の中心として最高でした。そして房子の林正子と竜二の与那城敬が、歌声も容姿も役柄にぴったりなだけでなく、成熟した男女の愛情や大人と子供の感性の違いを、声と演技で示し立派です。登の学友たちは、原作ではお金持ちのお坊ちゃんたちなのに対し、ここでは学ラン姿で皆さんかなり大人っぽい雰囲気ですが(声もバリトン、バスにカウンターテナーという面白い組み合わせ)、首領(1号)を演じた友清崇は見事な説得力のある歌、2号を演じたカウンターテナーの久保法之は声が通ることとロングヘアの中性的な存在感で際立っており、臆病な4号の菅原洋平、少しマッチョな5号の北川辰彦も上手い。航海士の市川浩平もよく通る声でした。

ヘンツェの音楽はパーカッションが充実しているかなり大きな編成のようでした。現代音楽なので、後期ロマン派のドイツ・オペラのオーケストラの厚みとは対照的なドライな響きで、ドイツ語の歌唱が聴き取れるところも多く、音楽と芝居が上手く融合しています。

主人公の登だけでなく、母親の房子のソロにおける弦の狂気を感じさせる響き、竜二の海の男のアイデンティティーの崩壊を象徴するような旋律の歌、登の友人たちのグループの凶暴さなど、登場人物たちの危ない心理をかなり強烈に描いて魅力的でした。

取材・文:井内美香 / 写真:長澤直子  


11月23,25日組のGPから

11月24,26日組のGPから

※写真はランダム表示です。時系列ではありません。


《二期会創立70周年記念公演/日生劇場開場60周年記念公演》
東京二期会オペラ劇場
NISSAY OPERA 2023提携

主催:公益財団法人東京二期会
共催:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]

午後の曳航〈新制作〉

オペラ全2幕(2005年改訂ドイツ語版 日本初演)
日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
原作:三島由紀夫
台本:ハンス=ウルリッヒ・トライヒェル
作曲:ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ

会場:日生劇場
公演日:2023年11月23日(木・祝) 17:00
24日(金) 14:00
25日(土) 14:00
26日(日) 14:00

スタッフ

指揮:アレホ・ペレス
演出:宮本亞門
 
舞台美術:クリストフ・ヘッツァー
照明:喜多村 貴
映像:バルテック・マシス
振付:avecoo
 
演出助手:澤田康子
 
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:大島幾雄
公演監督補:佐々木典子

キャスト

配役11月23日(木・祝)/25日(土)11月24日(金)/26日(日)
黒田房子林 正子北原瑠美
登/3号山本耕平新堂由暁
塚崎竜二与那城 敬小森輝彦
1号友清 崇加耒 徹
2号久保法之※眞弓創一※
4号菅原洋平髙田智士
5号北川辰彦水島正樹
航海士市川浩平河野大樹
※…ゲスト出演
ダンサー(全日出演)
池上たっくん石山一輝岩下貴史
後藤裕磨澤村 亮高間淳平
巽imustat中内天摩中島祐太
パトリック・
アキラ
丸山岳人山本紫遠

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