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バレエダンサーの宮尾俊太郎さんも絶賛!―METライブビューイングを、東劇・神戸・なんば・名古屋で、10月5日までアンコール上映

バレエダンサーの宮尾俊太郎さんも絶賛!―METライブビューイングを、東劇・神戸・なんば・名古屋で、10月5日までアンコール上映

オペラファンの間にも浸透してきたMETライブビューイングが、「アンコール上映」と銘打ち、8月から過去の名演を上映している。今年はロッシーニ没後150年のロッシーニ特集上映だったり、昨年亡くなったロシアの名バリトン・ホロストフスキー氏の追悼上映だったりと、ファンにとっては堪らない企画が目白押しとなっている。その豪華ラインナップの中でひと際目を引く情報があった。「★8/25(土)はバレエダンサー宮尾俊太郎さんトークイベント付き上映!」オペラの上映でバレエダンサーがトーク?早速そのイベント会場へ伺ってみた。

MET ライブビューイングアンコール 2018
宮尾俊太郎《ロメオとジュリエット》トークイベント

■日時: 8/25 (土) 14:00~
■開催場所:東劇
■登壇者:宮尾俊太郎 (バレエダンサー) 司会:朝岡聡(フリーアナウンサー)

この日のトークイベントは、クラシック音楽のイベントではすっかりお馴染みのフリーアナウンサー・朝岡聡氏と、バレエダンサー・宮尾俊太郎氏の2名で行われた。宮尾氏は国内外で主役級の大役を踊り続け、近年はドラマやCMへの出演も増えてきている。甘いマスクと抜群のスタイルで多くの女性ファンを持つスターダンサーだ。
MET ライブビューイングアンコール 2018  宮尾俊太郎《ロメオとジュリエット》トークイベント
上映演目はグノー作曲「ロメオとジュリエット」の2007年公演のもの。主役はアンナ・ネトレプコとロベルト・アラーニャ、指揮は三大テノールとして名を馳せたプラシド・ドミンゴという、メトロポリタンらしさ溢れる非常に豪華な顔ぶれだ。それを家庭では再現不可能な超大画面スクリーンと巨大なスピーカー群で上映する。生演奏に勝るとも劣らないだけでなく、高解像度の映像で、歌手たちの細やかな芝居の妙をも堪能できる。

事前にDVDで同公演を鑑賞したという宮尾氏は、開口一番「驚きました」と率直な感想を述べた。音楽はもちろん超一流、抜群の演技力はもとより、オペラ歌手らしからぬスタイルの良さと美しさ。そして彼らの舞台上での運動量と、それでも息切れもせず声もブレない、確かな発声テクニック。ミュージカル出演経験を持つ宮尾氏も「僕には無理です」と舌を巻いていた。

トークはオペラとバレエの歴史にも触れた。元々オペラ劇中の舞踏の場面だけに登場したバレエは、フランスのグランドオペラの中で育ちロシアで発展を遂げ現代に至ったという。多くのロシア人作曲家がバレエ作品を作り出したことも一役買っているのだろう。

シェイクスピア原作の「ロメオとジュリエット」は、歴史上数多くの作曲家が舞台化を果たした。この日上演されるグノーはもちろん、オペラでは他にイタリアのベッリーニ「カプレーティ家とモンテッキ家」、バレエではロシアのプロコフィエフ、表題付きオーケストラ作品としてはチャイコフスキー。戦後に至っても、アメリカのバーンスタインがこの作品をもとにミュージカル「ウェストサイド物語」を書き上げるなど、クラシック音楽界に非常に大きな影響を及ぼした文学作品だ。400年に渡って愛されるその理由について、宮尾氏は「争いが無くならないから」と述べると、朝岡氏は「人は皆、愛する人のために死にたい。この物語はそれを疑似体験できる」と言い、宮尾氏は「愛のために死にたいといつも思ってます」と受けるなど、「ロメオとジュリエット」が持つ「愛と死」というテーマについて議論を交わした。

バレエはダンスでありながら演劇。ただし、演劇やオペラのようにある程度の自由度もなく、決まった振付によって踊り演じられる。朝岡氏にその点を聞かれた宮尾氏は、「台詞のない演劇」であることの難しさと自身の工夫について話してくれた。
例えば「ロメオとジュリエット」のように原作があるものは「台詞を覚えるほど読み込み、踊りながら心の中でその台詞を言う」という勉強量が物を言う手法から、「オーケストラの中に書かれた感情や表情が、そのように聞えるように演じる」という神業のようなアプローチまで、包み隠さず語った。特に後者は、言葉があるオペラにおいても非常に重要で、なおかつ最も難しい技術だろう。14歳からというレイトスターターともいえる年齢からバレエを志した宮尾氏が、主役を掴むのに要したであろう努力と哲学の垣間見える言葉だった。

朝岡氏は続けて「バレエでは年齢を重ねるにつれて踊り方は変わるものですか?」と問いかけた。オペラ歌手は年齢を重ねるにつれて、軽やかな歌い方(歌声)から、充実した分厚い歌い方(歌声)に移行していくのが普通だ。2007年に「ロメオとジュリエット」を軽々と華やかに歌い上げたネトレプコトとアラーニャは、11年の時を経て2018/19年シーズンをヴェルディ「アイーダ」の主役で迎える。この役はオペラ作品の中でも有数の重厚な歌い口を要求されるが、朝岡氏の質問に宮尾氏は「変わりますね」と即答していた。彼によると、若いうちは勢いと技術に偏った踊りになりやすいが、30歳を過ぎたあたりから体の力が抜け、より深い表現ができるようになるという。
オペラ歌手がレパートリーを変え始めるのがテノール・ソプラノでだいたい40歳を超えた頃であることを考えると、バレエダンサーの成熟の早さは驚きもするが、そこは現役生活の長さと比例しているのだろう。現在34歳の宮尾氏は10年後には「引退している可能性が高いですね」と言うが、オペラ歌手はその気になれば還暦を過ぎても現役でいられる。宮尾氏のダンスが円熟を迎えるのもまた楽しみだが、朝岡氏は「10年の変化を短期間で聞き比べるのも、ライブビューイングならではの楽しみ方」と語った。

この日の上映作品「ロメオとジュリエット」の見どころとして、ふたりは有名なバルコニーシーンや死の場面、この公演の大きな特徴である幻想的なベッドシーンや装置、ダイナミックな決闘の場面などを挙げたが、朝岡氏は「幕間の出演者へのインタビュー」と述べ、同じ歌手がインタビュアーとして話を聞き、出演者は気さくに答える。これはライブビューイングならではの特典映像だ。

そもそも巨大な画面とド迫力の音響でオペラを鑑賞できる環境、それをメトロポリタン歌劇場の引っ越し公演では考えられないほど安価で体験できること自体がライブビューイングの醍醐味だろう。前述のとおり、過去と現在を見比べるもよし。歌手の繊細な演技と歌声に酔いしれるもよし。東劇、神戸、なんば、名古屋、それら各劇場の観客席の数だけ、その楽しみ方はある。
アンコール上演は10月5日まで。芸術の秋。秋の夜長。そのお供に、METライブビューイングに足を運んでみてはいかがだろうか。
MET ライブビューイングアンコール 2018  宮尾俊太郎《ロメオとジュリエット》トークイベント
取材・文:オペラ・エクスプレス編集部

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