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三者三様の個性を味わう―新日本フィル11・12月公演レポート

2018年最後のふた月、新日本フィル主催公演の指揮台には3人の経験豊かな指揮者が登壇した。ヴェテラン格のローレンス・フォスターとアントニ・ヴィット、近現代中心に幅広いレパートリーを誇るパスカル・ロフェ。それぞれの持ち味が発揮された演奏会の模様をお伝えする。

まずはローレンス・フォスターが指揮したトパーズ。ヨーロッパを拠点に活動するフォスターは齢80を目前とした今も精力的で、各地の歌劇場や楽団に客演を続けている。来秋からはアレクサンダー・リープライヒを継ぐ形でポーランド国立放送響の首席指揮者就任も発表されており、まだまだヴェテランならではの渋い味を聴かせてくれそうだ。20世紀の巨匠伝統を今に伝える音楽は悠々としており、かつ新鮮さもある。オール・ブラームス・プロ、前半の「ピアノ協奏曲第2番」ではヨーゼフ・モーグの実直なピアニズムを支える手腕が見事だ。中間楽章の深い歌い込みや第4楽章における管の浮き立たせ等、伴奏の域を優に超えた交響的な造りで魅せる。モーグは和音を力強く鳴らしてゆくが、第4楽章ではかなり快速テンポを取った(しかし上滑りしない)。アンコールの選択含め、ブラームス愛を強く感じる演奏であった。
後半の「交響曲第2番」では、厳格な拍節感と若々しい歌が好バランスを為す。その上で時折低弦が強調され、音楽を掘り深く彩ってゆく。第4楽章も最後までテンポを動かさずどっしりと締めくくられた。オーケストラも見事に鳴り渡り、王道にして目覚ましい充実をもたらす演奏となった。最小限の所作で最大限の結果、とでも言うべきか-これぞ至芸である。再度の来演に期待したい。

(C)青柳聡


ルビー・シリーズにはマレーシア・フィルの創立指揮者であるケース・バケルス(ベイクルス)の来演が予定されていたが変更となり、パスカル・ロフェがプログラムを変更せずに指揮した。幅広いレパートリーを持つロフェだが、数多くの初演を含む近現代作品での手腕が比較的有名であろう。そんな彼の指揮でJ. S. バッハ「管弦楽組曲第1番」を聴けるというのは、ある意味貴重な体験ですらあった。舞曲毎の性格を描き分け、整然と奏でていた。続く武満徹「夢の時」も曖昧さとは無縁の明るく見通し良い響きで、80年代特有の耽美―解決することを拒み揺蕩うような―も含めつつ、リズムのキレは鋭い。
後半はストラヴィンスキー「火の鳥」全曲。端正さは前提としつつも、物語の運びにおける工夫にロフェの意図を感じる。美しくはあるが間延びしがちな前半では微細な音色の変化で飽きさせず、夜明け以降の後半では一気にリズムの畳み掛けを強調。各ソロも雄弁に決まり、最後には終曲のアンコール。
フランス出身・ロフェの登壇、フランスバロックの流れを汲むバッハ、メシアン的色彩も見え隠れする武満、言わずもがなのストラヴィンスキーと、「フランス」という隠れ主題がプログラム全体に通底する演奏会に(結果的とはいえ)なっていた。オケとの呼吸も密なようで、来年のロシア・プロ(これまたやや変化球)での再会も楽しみだ。

(C)青柳聡


12月恒例のベートーヴェン「第9」公演では、昨年2月にシマノフスキ第2番の名演を聴かせたアントニ・ヴィットがカムバック。ポーランド放送響(先程フォスターの項でも登場した)、ワルシャワ・フィルといったポーランド楽壇の要職を歴任し、同国音楽界の重鎮と言って良い存在だ。ナクソス・レーベルへの大量の録音が物語る通り幅広いレパートリーを誇るが、その中でも自国音楽の紹介に果たしてきた役割は大きい。2013年のベルリン・フィル客演ではワルシャワの合唱団を帯同してペンデレツキ「ルカ受難曲」を取り上げ、今秋には東京都響でルトスワフスキを指揮している。そんなヴィットが東京で「問う」ベートーヴェン演奏とは。
14型対向配置をとるオーケストラはオリジナル指定通りで増員は無し。第1楽章からヴィット(暗譜で指揮した)の拘りが満載だ。第1に対し力強い返球が要求される第2ヴァイオリンははっきりと粒立たせて刻み続ける。第3楽章では2つの主題の対比が雄弁で、続く変奏でも常に声部のバランスに気を配り彫琢。しかもフレージングの温かな情感にも事欠かず、老練な技を垣間見た思いだ。暗譜「なのに」なのか、「だからこそ」と言うべきなのか、とにかく弦5部の彫琢が立体感に富んでいる。第4楽章では管弦楽単独の歓喜の主題がトゥッティで登場するに至っても独唱陣は現れず、楽章冒頭の再現(つまりはバス独唱の本当に直前だ)でようやく劇的に下手側から登場した。栗友会の力押ししない合唱、重唱が心地よい独唱が管弦楽と合わさり、古風かつ緻密なヴィット/NJPの「第9」を最後まで彩った。

三者三様、いずれも指揮者の拘りと技が光る演奏会揃いであった。オーケストラの好演も嬉しい。2019年の新日本フィルのプログラムにも楽しみな共演者がずらりと並ぶが、どのような音楽との出会いが我々を待っているのだろうか。それを心待ちに、この項を閉じることにしたい。

(C)三浦興一

写真提供:新日本フィルハーモニー交響楽団 Photos by New Japan Philharmonic
文:平岡拓也 Reported by Takuya Hiraoka

【公演データ】
2018年11月17日(土)
新日本フィルハーモニー交響楽団 第597回定期演奏会
すみだトリフォニーホール

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番
~ソリスト・アンコール~
ブラームス:4つの小品 Op. 119より 第1曲

ブラームス:交響曲第2番

ピアノ:ヨーゼフ・モーグ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:ローレンス・フォスター


2018年11月24日(土)
新日本フィルハーモニー交響楽団 ルビー<アフタヌーン・コンサート・シリーズ> #18
@すみだトリフォニーホール

J. S. バッハ:管弦楽組曲第1番
武満徹:夢の時

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」(1910年原典版)
~アンコール~
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」(1910年原典版)より 終曲

管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:パスカル・ロフェ


2018年12月14日(金)
新日本フィルハーモニー交響楽団 「第九」特別演奏会 2018
@サントリーホール 大ホール

J. S. バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565(*)
ピエトロ・アレッサンドロ・ヨン:ユモレスク(*)

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

オルガン:室住素子(*)
ソプラノ:盛田麻央
アルト:中島郁子
テノール:大槻孝志
バリトン:萩原潤
合唱:栗友会合唱団(合唱指揮:栗山文昭)
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西江辰郎
指揮:アントニ・ヴィット

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