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上岡色全開のシーズン開幕!―新日本フィル9・10月公演レポート

上岡敏之音楽監督が新日本フィルと3シーズン目の幕を開けた。開幕の9月、続く10月で上岡が指揮した公演、世界的に活躍するフィンランドの若き名匠ハンヌ・リントゥ指揮の公演をレポートする。

シーズン開幕はオール・R.シュトラウス・プログラム。就任披露でも「ツァラトゥストラはかく語りき」&「英雄の生涯」というプログラム(ライヴ録音が発売されている)を組んだ、上岡にとっては重要な位置付けの作曲家であろう。冒頭の「ドン・ファン」は斬れ味鋭く駆け抜け、一方でオーボエ協奏曲では内省的な美を聴かせる。柔らかくソリストの音楽性を包み込むような音作りがこのコンビの協奏曲伴奏の特徴だが、今回も古部賢一の独奏と共に歩み、寄り添い、フレーズの浮き沈みにも精緻に対応した。アンコールではこの多幸感溢れる名作の雰囲気をそのままに、オケのメンバーを交えて名作「カプリッチョ」の6重奏を親密に演奏して前半を締め括った。楽員をソリストに迎えた公演だからこそ可能なプレゼントだろう。後半、「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」では声部の巧みな調整と強めの発音により、管弦楽による一大戯画を大胆に表現した。最後に置かれた「死と浄化」(喜劇的に駆け回る『ティル』との好対照も成すだろう)は激烈な主題群提示の勢いが終盤まで持続し、かつ融け合った木管が見事に演奏会を結ぶ。それぞれ性格を異にする4傑作―さぞリハーサルは大変だっただろう―を描き分けた上岡とオーケストラの手腕に拍手を贈りたい。

上岡敏之(指揮)、古部賢一(オーボエ)(C)堀田力丸

上岡敏之(指揮)、古部賢一(オーボエ)(C)堀田力丸

10月のルビーはベートーヴェン・プロ、一見王道に見えるチョイスだが、そこは上岡流のワサビが効いており名曲選とは程遠い。前後を荘重・壮麗な傑作に挟まれ、かつB-durという調性の共通点を持つ「交響曲第4番」「ピアノ協奏曲第2番」を前半で美しくカップリングした。オケは滑らかな声部連携で全曲を駆け抜け、田部京子の独奏(今回が第2番初挑戦という!)も美しく楽音を囀る。後半「交響曲第7番」も慣習的なアクセントやデュナーミクの再検討が満載だ。スタッカートとテヌートの明快な弾き分けから生まれる鮮烈な響き(されど記譜された通りなのである)は「次に何が来るのか?」という期待感を抱かせる。また、トゥッティを分厚く鳴らさないのもひとつの特徴だ。記譜された特徴を活かすという点では、両端楽章結尾の魔性的なバッソオスティナート強調も挙げるべきだろう。大半の演奏でも強調されるが、今回ほど視覚的な「異常性」を伴うことは稀である。アンコールはA-dur繋がりということか、メンデルスゾーン「イタリア」第4楽章。これまた強烈に駆け抜けた。このコンビのメンデルスゾーン演奏にも期待したい。


ハンヌ・リントゥ(指揮)、ヴァレリー・ソコロフ(ヴァイオリン)(C)三浦興一

ハンヌ・リントゥ(指揮)、ヴァレリー・ソコロフ(ヴァイオリン)(C)三浦興一

2015年10月にすみだトリフォニーホールで行われたシベリウス・ツィクルスでフィンランド放送響、新日本フィルを振り分け、目覚しい成果を挙げたハンヌ・リントゥ。3年ぶりの新日本フィルへの帰還でも、やはりシベリウスを取り上げた。「ヴァイオリン協奏曲」ではヴァレリー・ソコロフの実直なソロも良いが、何より指揮の厳しい彫琢が出色だ。国際的に活躍するフィンランド人作曲家マグヌス・リンドベルイ(1958-)の「タイム・イン・フライト」、ラテン語の原題は”tempus fugit”。まさにそのタイトル通り、時が過ぎ去りつつ痕跡を残してゆくさまを都会的な筆致で表現している。近未来的な音響と弦・木管の旋律美が絶妙に合致したオーケストレーションは見通しがよく、リントゥの大鉈を振るうような指揮(されど緻密!)とも好相性を示す。全5部構成の中にオケ内ピアノのカデンツァ的箇所が2回含まれており、特異なカデンツァの闖入という点で冒頭のシベリウス「ヴァイオリン協奏曲」と共通する。選曲の妙である。後半はシベリウス「交響曲第7番」。「第2番や第5番以外のシベリウスも聴いて欲しい」とNJPのビデオインタヴューでも語ったリントゥ、その指揮は共感を漲らせつつも楽曲を険しく掘り下げてゆく。オケも渾身の力演で応え、最後の数分は実に崇高な聴体験となった。やはりリントゥ、只者ではない。


上岡敏之(指揮)、山口清子(ソプラノ)、清水華澄(アルト)、与儀巧(テノール)、原田圭(バス)、新国立劇場合唱団(合唱)(C)堀田力丸

上岡敏之(指揮)、山口清子(ソプラノ)、清水華澄(アルト)、与儀巧(テノール)、原田圭(バス)、新国立劇場合唱団(合唱)(C)堀田力丸

10月のサントリー定期はブルックナー「交響曲第9番」「テ・デウム」という、「第9番」第4楽章が完成しなかった場合の措置として作曲家が生前口にした組み合わせによる上演。今回の演奏からは、この連続演奏への指揮者の意図がはっきりと聴き取れた。もしそれぞれ単独で取り上げられていれば、違った演奏になったのではないかと思える。ある楽曲が取り上げられる文脈の相違により、違った個性や性質を帯びてくる―これもまたライヴ特有の面白さであろう。「第9番」は続く「テ・デウム」を前提とし、不協和な要素を強調しすぎないアプローチ。一方「テ・デウム」は第3楽章の清澄な終結からスムーズに流れ出すアプローチ(冒頭のC-durもあまり威容をもって響かせない)。この両者の「歩み寄り」により、約90分のライヴとしての統一性が充分に伝わった。「第9番」において、数々の試みが最も成功していたのは2楽章か。響きのフォーカスが瞬間毎に変化する軟体動物の如きスケルツォ(特に主部回帰)は特異で、このコンビならではの音楽だ。全体を俯瞰すると、徹底した最弱音や弦5部のバランス彫琢は見事だが、ホルン群を筆頭に金管は鋭敏な棒の変化に対応しきれず散漫さが目立った。独唱者が入場し、拍手もなく開始された「テ・デウム」の厳かな運びと深いパウゼは秀逸で、明らかに「第4楽章」としての位置付けで演奏されている。重唱はやや美しさを欠いたが、新国立劇場合唱団の合唱は見事に役割を果たした。

写真提供:新日本フィルハーモニー交響楽団 Photos by New Japan Philharmonic
文:平岡拓也 Reported by Takuya Hiraoka

【公演データ】
2018/09/15
新日本フィルハーモニー交響楽団 第593回定期演奏会
@すみだトリフォニーホール

R. シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
R. シュトラウス:オーボエ協奏曲
~アンコール~
R. シュトラウス:歌劇「カプリッチョ」より 前奏曲

R. シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
R. シュトラウス: 交響詩「死と変容」

オーボエ:古部賢一
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:上岡敏之

2018/10/5
新日本フィルハーモニー交響楽団 #17 ルビー<アフタヌーン・コンサート・シリーズ>
@すみだトリフォニーホール

ベートーヴェン:交響曲第4番
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番

ベートーヴェン:交響曲第7番
~アンコール~
メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」より 第4楽章

ピアノ:田部京子
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:上岡敏之

2018/10/20
新日本フィルハーモニー交響楽団 第595回定期演奏会
@すみだトリフォニーホール

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
リンドベルイ:タイム・イン・フライト(2016-17/日本初演)

シベリウス:交響曲第7番

ヴァイオリン:ヴァレリー・ソコロフ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西江辰郎
指揮:ハンヌ・リントゥ

2018/10/27
新日本フィルハーモニー交響楽団 第596回定期演奏会
@サントリーホール 大ホール

ブルックナー:交響曲第9番
ブルックナー:テ・デウム

ソプラノ:山口清子
アルト:清水華澄
テノール:与儀巧
バス:原田圭
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:上岡敏之

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