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「高みで披露する音楽」から「今その場にいる聴衆の奥底にもある普遍的な音楽性の共鳴」―反田恭平&フレンズスペシャルコンサート

「高みで披露する音楽」から「今その場にいる聴衆の奥底にもある普遍的な音楽性の共鳴」―反田恭平&フレンズスペシャルコンサート

ショパンコンクールの快挙のニュースを聞いた時、なんだか自分の事のように嬉しかったのは記憶に新しいところ。色々制限の多い中、それでもクルマでの移動をする時の楽しみとして、好きな曲、素敵な曲、いろんな演奏家で聴き比べなんかをやっていたときに、若き反田恭平さんのショパンに触れて、お気に入りでよく聞いていた時期だったからです。

私からすると、しっかりと力強く、軽やかで華やかさがあり、どこか歌うような演奏に聴こえるのです。技術的にも聴衆を魅了する高度なレベルを持ち合わせているのはもちろんながら、その中に青々とした爽やかな雰囲気がある。窓を少し開け、風を頬で受けると四季を感じることができます。そんな時には歌うようなショパンがよく合うのもの。そんな彼の演奏、一度生で聴いてみたい!そう思うようになった時に、ショパンコンクールで最高位を受賞とのニュースを聞いたのでした。

それなので、今回は直前に、重なりそうな業務は先に片付け、あらゆる障害を排除して、なんとしてもサントリーホールに行かねばならない!そう心に決めて当日を迎えたコンサートでした。

そもそも「クルマが好きでBMW」というわけでもなかった。

今回のコンサート、反田恭平さんがアンバサダーを務めるドイツの自動車メーカーBMWの提供で開催されたコンサート。オープニングの挨拶がわりの「魔笛」序曲の演奏が終わると、その関係性についても本人から説明がありました。

クルマの免許は既に持っていて、その上でショパンコンクールで賞賛を浴びたので、BMWが選定してのアンバサダー就任かと思いきやそうではなく、音楽家として、惹かれ、ご縁があったことでむしろ、反田さん自身の申し出もあり就任に至ったとのこと。

クルマと音楽。私自身も二大人生を彩るものとして欠かせないものだと思うし、ことBMWにはワーグナーと並ぶバイエルンの旗印のようなイメージがあることもあって、神々の黄昏の「ジークフリートのラインへの旅」がそのお話の最中に脳内で流れたものでした。是非とも、指揮者としてもご活躍の反田さんのタクトで聴ける日を楽しみにしたいと思います。

JNOを振ってみる!

プログラムを見ると、3部構成になっていて、最初に「JNOを振ってみる」というのがあります。そしてその下には演奏曲目ではなく「課題曲」とあります。ブラームスのハンガリー舞曲第5番、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。

これは会場の人に実際にオーケストラ演奏を指揮してもらおうというもの。なんでも、反田さん自身、テレビ番組の企画で、オーケストラの指揮をして、その体験が音楽家を目指そうと思ったきっかけになったようです。自身のコンサートをするならば、やはり同様の体験をしてもらおうということでしょう。当日は3名がステージでオーケストラを指揮を体験。

けれども、これは実はかなり大きな意義のあることなのだろうな、と感じます。何より、自分の原体験と同じことを共有しようということ。そして、もちろん体験した三人にとっても忘れ難い体験になったに違いないですし、それを見る聴衆の「見守りの心」これは、音楽を聴くことも立派な音楽活動であるという気づきもわかりやすく実感させてくれるものになりました。もちろん熟練や、研鑽を磨くべき要素は多いものの、演奏の進行ということに関しては世のマエストロと同種の行為を行ったというのが事実であり、そうした名演奏と地続きの体験を咀嚼してあの場所にいた人に感じさせてくれたことでもあるのです。

音楽をもっと身近に、と銘打った企画は星の数ほどあります。しかし、一旦は最高レベルの受賞歴もある勢力的に活動する音楽家がこれをするという経験はなかなかできるものではありませんし、「クラシック音楽を親しみやすく」が抱える問題点は、「そこそこのクオリティ」の音楽を「音楽家が音楽家ではない人に教えてあげる」という構図になりがちなことだと思っていて、尚且つ、現代からすると、めんどくさく堅苦しい「クラシック」と名のつくもの特有の「旧弊さ」をスポイルしてしまうことだと思うのですが、このコーナー初め、そういうところに論点がない。

ちゃんとハイクオリティなクラシック音楽ながら、こういうところが楽しいじゃない!というのを反田さんとその仲間で示してくれたことも、今回のコンサートの爽快感につながっているのかもしれません。

お目当ては「英雄ポロネーズ」と「シューマンのピアノ協奏曲」

いつも聴いていたから是非とも生で聴いてみたい!そう切にに願ってきたのがショパンの英雄ポロネーズ。けれども、ショパンコンクールの時のレパートリーだというマズルカ風ロンド、ラルゴ。これはおそらく初めて聞きましたがショパンの隠れた名曲なのでしょう。こういうのも、一人でも多くの人に聴いてほしい。そう反田さん自身も紹介していたが、三曲でも聴きごたえのするプログラム。それを、囁くように、柔らかく語りかけてくるな抑揚での演奏。こういう知らない曲にコンサートで出会った時、「これまた聞いてみたいな」と思う曲に出会えることも、音楽の楽しみの一つだと思っていますが、これはまさにそんな曲でした。

あとはシューマンのピアノ協奏曲、これも好きな協奏曲の一曲ですが、ピアノは盟友務川彗悟さんにチェンジで、タクトを反田さんがという布陣での演奏でした。自身もピアニストであって、だからこそ「ここいいところだから是非いいてほしい!」そんな雰囲気の拍の取り方や楽器パートの強弱も感じられたような演奏。ピアノ協奏曲のタクトは初めてということでしたので、貴重な演奏でありながら、旋律もテンポも豊かなこの曲を大いに楽しませてくれた好演、時節柄ホールの指示で制限されたものの、間違いなく「Bravo!」な演奏でした。

タイトルホルダーが「高みで披露する音楽」ではなく「今その場にいる聴衆の奥底にもある普遍的な音楽性を引き出す演奏会」ではなかったでしょうか。共感を集めるのではなく、共鳴の響きの中で時間を共にする。日本的には令和の、ということにもなるでしょうが、21世紀のマエストロ像を見たようでした。

自動車ライター 中込健太郎

BMW Presents 反田恭平&フレンズスペシャルコンサート
2022年5月10日
サントリーホール

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