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ダ・ヴィンチが手掛けた幻のオペラ、復活─アントネッロ「オルフェオ物語」公演直前レポート

ダ・ヴィンチが手掛けた幻のオペラ、復活─アントネッロ「オルフェオ物語」公演直前レポート

今年2019年で没後500年を迎える稀代の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。建築家、科学者、軍事エンジニア、哲学者…あらゆる分野で活躍したダ・ヴィンチであるが、芸術分野においては特に美術史上で燦燦たる輝きを放っている。これは衆目の一致するところであろう。しかし同時に、彼が「舞台芸術家」「音楽家」としても当時名高かったことはあまり知られていないのではなかろうか。
そんなダ・ヴィンチの「舞台芸術家」「音楽家」としての側面に光を当て、彼がプロデュースしたオペラ「オルフェオ物語」の蘇演が今年8月に川口で行われる。手掛けるのは、「オペラ・フレスカ」と題した音楽史上最初期のオペラ上演シリーズで2013年より目覚しい成果を挙げてきた濱田芳通×アントネッロ。演出は国内各地のオペラ上演で高い評価を受ける中村敬一が担当し、声楽陣にもバロック音楽中心に広く活躍するキャストが揃った。
以下では、「未知の作品」と言ってよいであろう「オルフェオ物語」の概要や復元プロセスに簡単に触れたのち、公演直前の通し稽古の模様を中心にレポートしていきたい。

そもそも「オルフェオ物語」は西洋音楽史上どの位置にある作品なのだろうか。
楽譜が現存する最古のオペラはヤコポ・ペーリ作曲の「エウリディーチェ」(1600)であり、音楽の断片のみが現代に伝わるものを含めれば「ダフネ」(1597?)が最古のオペラだとされている。ダ・ヴィンチが総合的に手掛け、ルネッサンス人文主義の詩人アンジェロ・ポリツィアーノが台本を書いた「オルフェオ物語」はその100年ほど前に成立しており、16世紀末のオペラ黎明期よりも更に時代を遡った時期の作品ということになる。
アントネッロによる公演紹介ページを参照すると、「レオナルド・ダ・ヴィンチが活躍した時代の音楽シーンは即興演奏が主流であり『オルフェオ物語』も即興オペラとでもいった様相を呈していた」とある。つまり譜面が現存しないということだが、ではどのようにして復活上演を行うのだろうか?
答えはシンプル。当時の俗謡や舞曲を借用してテキストに当てはめ、また即興演奏により上演するのである。このやり方は当時も行われていたと考えられており、いわば「作曲当時の時代精神に則った復元プロセス」であり、これもピリオド演奏の一つのあり方と言えるのではなかろうか。

前置きがかなり長くなった。実際どのような音楽に仕上がっているかは是非とも会場に赴いて目撃していただく他はないが─濱田芳通が上述した方法によって復元した音楽は、実に雄弁である。これだけははっきりお伝えしたい。官能的かと思えば魔性的になり、次に何が待ち受けているのだろうか、と聴き手の感性を刺激してくる。また彼が率いるアントネッロの演奏も、頭ではなくまず五感に訴えかけるパーカッシヴなサウンドが魅力的だ。ダ・ヴィンチも奏したというリラ・ダ・ブラッチョの音色をはじめ、ルネッサンス期の空気感をも伝える器楽アンサンブルに是非ご注目いただきたい。

そして、声楽キャストもそれぞれの役柄を魅力的に演じ分ける。表題役のオルフェオを優美に演じる坂下忠弘、老羊飼いモプソに加え本編には登場しないはず(⁈)のダ・ヴィンチをも演じる黒田大介、悲運の死を遂げるエウリディーチェ他の阿部雅子、アリステオとミーノスを美しく演じ分ける上杉清仁ほか、どの役にも美しく躍動的なアリアが与えられており、音楽的には全編が聴きどころと言ってよい。その中でも特に、オルフェオの死を悼むドリアス、夫プルート(彌勒忠史)へのアリアが印象的(強烈なメリスマの嵐!)なプロゼルピナ、オルフェオに死をもたらすバッカスの巫女の3役(!)を演じ分ける中山美紀の素晴らしさには練習の段階ですっかり魅了されてしまった。是非彼女の変容にもご注目を。赤地カレン、乙顔有希、細岡ゆきと共にバッカスの巫女としてオルフェオに復讐する場面では、音楽的にもクスリと笑える要素が盛り込んである─かもしれない。これもやはり会場で聴いていただきたいところ。

ダ・ヴィンチとポリツィアーノが描いた「オルフェオ物語」。モンテヴェルディの「オルフェオ」とも、グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」とも全く異なる新鮮な魅力に包まれる体験になることは請け合いである。是非とも8月14日・15日は川口リリア音楽ホールに赴き、初演の瞬間に立ち会っていただきたい!

取材・文:平岡 拓也 Reported by Takuya Hiraoka

【公演情報】
2019年8月14日(水)、15日(木)18:30開演(17:45開場)
川口総合文化センター・リリア 音楽ホール
レオナルド・ダ・ヴィンチが総合プロデュースした、幻のルネサンス・オペラが甦る!
オペラ「オルフェオ物語」 本邦初演 原語上演(字幕付)

原案プロデュース:レオナルド・ダ・ヴィンチ
台本:アンジェロ・ポリツィアーノ
指揮/音楽監督:濱田芳通
演出:中村敬一

オルフェオ:坂下忠弘
エウリディーチェ/メルクーリオ:阿部雅子
ダ・ヴィンチ/モプソ:黒田大介
プルート:彌勒忠史
プロゼルピナ/ドリアス/バッカスの巫女:中山美紀
アリステオ/ミーノス:上杉清仁
ティルシ:中嶋克彦
ドリアス/バッカスの巫女:赤地カレン
ドリアス/バッカスの巫女:乙顔有希
バッカスの巫女の頭:細岡ゆき
牛(舞踏):江澤淳泗

管弦楽:アントネッロ
ヴィオラ・ダ・ガンバ:石川かおり
リラ・ダ・ブラッチョ:天野寿彦・なかやまはるみ
ルネサンス・ハープ:西山まりえ
チェンバロ/オルガン:矢野薫
リュート:高本一郎
リコーダー:古橋潤一
サクバット:和田健太郎・栗原洋介
パーカッション:濱元智行

舞台監督:德山弘毅
舞台監督助手:荒川はるか
美術&字幕作成:タナカ・ミオ
翻訳:新井紀子
制作:栗原佳江 (アントネッロLLC)

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