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2018/19シーズン開幕直前!―新日本フィル6・7月公演レポート

9月14日から新日本フィルハーモニー交響楽団の2018/19シーズンが開幕する。上岡敏之音楽監督により選び抜かれたプログラムを味わう前に、2017/18シーズンの6・7月公演を特集して振り返りたい。


6月末から7月上旬にかけては、ダラス響、ベルゲン・フィルなどを歴任し現在シンガポール響首席客演指揮者の任にある名匠アンドリュー・リットンが登場。日本のオーケストラでもお馴染みの存在だが、新日本フィルとは初共演だ。ベルク「ルル」組曲、アルテンベルク歌曲集、マーラー第4番と、時代を遡上して世紀末音楽史を見つめる好プログラムだが演奏者・聴衆の双方にとってややヘヴィーなものかもしれない。されど演奏は充実。前半のベルクではリットンの流麗な棒が分裂症的な曲世界を描き出し、林正子のソプラノが艶めかしく交わる。「アルテンベルク歌曲集」に散りばめられた音画の数々には驚嘆するばかり。
マーラー「交響曲第4番」は柔和な響きが印象的だ。リットンの音楽性ゆえか曲に潜む毒はあまり浮き出ないが、推進力ある棒にオケがよく応えた好演となった。第1楽章終結のテンポの動かし方(楽譜通り)、第3楽章での和音の重ね方等、細部の丁寧さが際立つ。奇しくもこの週の東京ではマーラーの演奏会が相次いだが、リットンと新日本フィルの演奏はバランス良好で秀逸だった。ただベルクで魅せた独唱はここでは精緻さを欠き、全く個性の異なる2つの世紀末作品における歌い分けの限界を感じる結果に。

林正子(ソプラノ)、アンドリュー・リットン(指揮)(C)大窪道治

林正子(ソプラノ)、アンドリュー・リットン(指揮)(C)大窪道治

7月初めのサントリー定期、リットンはベートーヴェンとショスタコーヴィチの傑作2篇を並べた。双方で猛烈なトレモロを要求される弦楽器はじめ、オーケストラには過酷な要求であろう。さて結果はいかに。ベートーヴェン「交響曲第8番」は14型で、アタックもアクセントもあまり浮かび上がらない。柔らかな仕上がりはリットンの解釈か、それとも後半の大曲を前提としたペース配分か(後者のような気が・・・)。典雅ともとれるが、やや緩めの演奏という印象だ。中間楽章の木管、第3楽章トリオでのトランペットのまろやかなブレンドは美しいが、終始不安定なホルンは何とかならないものか。
後半の大曲ショスタコーヴィチ「交響曲第4番」。第5番の前にこれほど破天荒な作品を書いていたのか、と何度聴いても圧倒される大傑作。こちらは流石にオーケストラも締まった。交響曲形式を超えんばかりに凝縮された膨大な諸要素を、リットンは数珠繋ぎで飄々と描く。第1楽章がこれほどあっけらかんと進んでゆく演奏も珍しいのではないか。彼のアプローチだと楽曲の慟哭は薄まり、一方で形式の面白さに光が当たる。第3楽章の次々と移り変わる音像には、新古典主義バレエのような愉悦すら漂うではないか。凝縮した険しい表情を浮かべた演奏が多いこの曲であるが、このようなスタイルもまた「有り」かもしれない。何より、解釈の違いを許容する楽曲の懐の大きさに唸る。大編成のオケは最後までよく鳴り渡り、各ソロも決まった。


シモーネ・ヤング(指揮)(C)大窪道治

シモーネ・ヤング(指揮)(C)大窪道治

7月のルビーには2014/15シーズンまでハンブルク州立歌劇場芸術監督兼ハンブルク・フィル音楽監督を務めたシモーネ・ヤングが新日本フィル初登場。ハンブルク・フィルと初稿版によるブルックナー交響曲全集を録音している彼女、今回の初共演に際しても「第4番」の第1稿を取り上げた。
まずは前半、ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」。木嶋真優の独奏は全音域的に鳴りの良さが際立ち、12型とは思えぬ音量で豪快に鳴らすヤングの指揮と拮抗する。それでいて2楽章はオケの弱音と緻密に対話。3楽章は高域で僅かに勢い任せの箇所も聴かれたが、総じて濃厚な演奏を愉しんだ。オケのホルンが前半から炸裂し、後半に期待を抱かせる。
ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」(第1稿)、到底録音だけでは掴み切れなかったこの曲の前衛性に終始驚嘆する体験に!「ワルキューレ」第3幕「眠りの動機」を想わせる夢幻的な木管の響きは第3番の初稿を連想させるし、重厚な第2稿に比して軽やかささえ纏って進んでゆく。演奏至難な弦5部・ホルンはじめ新日本フィルも大いに引き締まった響きを聴かせ、ヤングの推進力溢れる指揮に応える。両者の相性は抜群に思われた。


オルガ・シェプス(ピアノ)、上岡敏之(指揮)(C)堀田力丸

オルガ・シェプス(ピアノ)、上岡敏之(指揮)(C)堀田力丸

2017/18シーズン最後の定期は上岡音楽監督による「リクエスト・コンサート」。定期公演に来場した聴衆の投票により曲目が集計され、そこから音楽監督がチョイスしてコンサートをつくるという企画である。今回はロシア物2品が並べられた。
ラフマニノフの名作「ピアノ協奏曲第2番」では才媛オルガ・シェプスが共演。モーツァルトを爪弾くように純朴な彼女の独奏も良いが、それ以上にオケの彫琢度の深さに驚くばかり。指揮は独奏を頻繁に振り向き支えつつ、ブラームスさえ想わせる渋い音色と各声部の創り込み、凝ったフレージングでこの曲の新たな側面を炙り出した。ともすれば「名曲コンサート」になりそうな曲目だが、上岡の指揮はそこから遠いところにある。
チャイコフスキー「交響曲第5番」も名曲から新鮮な響き(監督はあくまで『楽譜通り』だろうが)が次々聴こえ、3月に上岡×新日本フィルで聴いたシューマン「春」に匹敵する鮮烈な体験となった。作品を深く愛する方ほど唸る演奏ではなかろうか。今や上岡監督と新日本フィルの呼吸は絶妙に合致したことをも象徴づけた。

写真提供:新日本フィルハーモニー交響楽団 Photos by New Japan Philharmonic
文:平岡拓也 Reported by Takuya Hiraoka

新日本フィルハーモニー交響楽団 第590回定期演奏会
2018年6月30日(土)
すみだトリフォニーホール

ベルク:歌劇「ルル」組曲
アルテンベルク歌曲集

マーラー:交響曲第4番

ソプラノ:林正子
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西江辰郎
指揮:アンドリュー・リットン

新日本フィルハーモニー交響楽団 第591回定期演奏会
2018年7月4日(水)
サントリーホール 大ホール

ベートーヴェン:交響曲第8番
ショスタコーヴィチ:交響曲第4番

管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:豊嶋泰嗣
指揮:アンドリュー・リットン

新日本フィルハーモニー交響楽団 ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉 #16
2018年7月14日(金)
すみだトリフォニーホール

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
~ソリスト・アンコール~
岡野貞一:ふるさと

ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(1874年初稿/ノヴァーク版)

ヴァイオリン:木嶋真優
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:シモーネ・ヤング

新日本フィルハーモニー交響楽団 第592回定期演奏会
2018年7月27日(金)
すみだトリフォニーホール

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
~ソリスト・アンコール~
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番より 第3楽章

チャイコフスキー:交響曲第5番
~アンコール~
ニールセン:歌劇「仮面舞踏会」より 若い雄鶏たちの踊り

ピアノ:オルガ・シェプス
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙
指揮:上岡敏之

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