オペラ・エクスプレス

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【公演レポート】東京・春・音楽祭《ワルキューレ》

4月7日の東京・春・音楽祭のワーグナー・シリーズvol.6『ニーベルングの指環』第1日《ワルキューレ》の公演に行ってきました。すでに昨年には序夜の《ラインの黄金》が上演されて好評だっただけに、今回の《ワルキューレ》はいやが上にも期待が高まります。指揮はベテランのマルク・ヤノフスキ、主要役はすべて海外からのワーグナーを得意とする歌手を招聘。オーケストラも、あまりオペラは演奏しないNHK交響楽団。しかもゲスト・コンサートマスターにウィーン・フィルのライナー・キュッヒル氏を迎えるという豪華な布陣です。
演奏会形式とは言いながら、主要役のほとんどが暗譜で表情豊かな演技をこなしながらの演奏で、舞台の上にも6台のハープが並ぶ、いつにも増しての大規模なN響の編成を目の当たりにすると、通常の演奏会形式とは違ってほとんど舞台装置付きのオペラを見ているのと同じような印象を与えます。加えて、舞台奥には物語をイメージさせる大型映像がスクリーンに投写されていました。
全体としてヤノフスキの堅実で明晰な解釈による指揮ぶりが、今回の《ワルキューレ》演奏の全てを物語っているといっていいでしょう。まさに端正な《ワルキューレ》という印象を受けました。
歌手陣も、ジークムントの若々しい歌声のロバート・ディーン・スミスと、ワルトラウト・マイヤーの初めて愛を知った中に凛とした性格がにじみ出したジークリンデの歌唱とが相俟って好演。さらにエリザベート・クールマンのクールなフリッカも魅力でしたが、何と言っても存在感を感じさせたのがブリュンヒルデのキャサリン・フォスター。重々しくなく、愛に悩む女性を感じさせるブリュヒルデと、ヴォータン役のエギリス・シリンスとの父と娘の二重唱は、いかにも21世紀のワーグナー像を感じさせるものでした。それは、どちらかといえばシリンスのヴォータンとしては明るい声質が、そう感じさせたのかもしれません。かつての20世紀後半にあった重々しい印象の “君臨する神”としてのヴォータンではなく、現代風に“悩める父親”像を見事に演じきっていました。フンディング役のシム・インソンも、他のワルキューレ役を歌った日本人歌手たちもそれぞれに好演でした。
昨今のあたかもファンタジー・オペラ?と見紛うばかりのライトなワーグナー解釈の舞台上演よりも、シンプルな演奏会形式のこの公演の方が、“舞台劇”として極めてわかりやすかったという事実が、筆者にとっては予想外の驚きでした。この日、第3幕が終わって最後の音が止んでも、数秒の間、その余韻を愛おしむかのように拍手を控えて、そのあと熱狂的な拍手で演奏者たちを讃えた聴衆にも拍手です。(4月7日所見)

文・新井巌


東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.6
『ニーベルングの指環』第1日《ワルキューレ》(演奏会形式/字幕・映像付)

2015年4月4日(土)15時/7日(火)14時
東京文化会館 大ホール

■出演
指揮:マレク・ヤノフスキ
ジークムント:ロバート・ディーン・スミス
フンディング:シム・インスン
ヴォ―タン:エギルス・シリンス
ジークリンデ:ワルトラウト・マイヤー
ブリュンヒルデ:キャサリン・フォスター
フリッカ:エリーザベト・クールマン
ヘルムヴィーゲ:佐藤路子
ゲルヒルデ:小川里美
オルトリンデ:藤谷佳奈枝
ヴァルトラウテ:秋本悠希
ジークルーネ:小林紗季子
ロスヴァイセ:山下未紗
グリムゲルデ:塩崎めぐみ
シュヴェルトライテ:金子美香
管弦楽:NHK交響楽団 (ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
映像:田尾下 哲
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