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黒船がやって来た! 野田秀樹 meets 井上道義 =《フィガロの結婚》!!!

黒船がやって来た! 野田秀樹 meets 井上道義 =《フィガロの結婚》!!!

ミューザ川崎で野田秀樹演出、井上道義指揮の《フィガロの結婚 〜庭師は見た!〜》を観ました。この二人がタッグを組めば何が飛び出すかは予想するべきだったのかもしれませんが、実際の公演に接するとやはり大きな衝撃がありました!
野田秀樹 meets 井上道義 =《フィガロの結婚》
この日は平日であるにも関わらず早くからソールド・アウト、補助席がたくさん出ていました。いつもオペラ公演で顔を合わせる友人知人にもたくさん会い、注目度の高い公演であることをひしひしと感じます。

舞台は傾斜舞台になっていました。セリもいくつか使用されます。物語の設定は黒船来航の時代の長崎だそうですが、ファンタジー的要素も含まれる東洋の国、という趣きです。緞帳が無いので舞台の一番前に竹の棒が二本ずつ交差して置かれ、それが幕の代わりになっています。登場人物の出入りは下手上手の一カ所ずつと舞台奥から。この公演は金沢でスタートし秋以降もまだ東京を含めた各地で上演される予定で、川崎公演は春期の最終公演でした。

オペラ・ファンとして一番インパクトがあったのはやはり日本語とイタリア語の併用です。過去には勿論、そして今でもオペレッタ等で、台詞が日本語で歌は原語という場合はありますが、今回の《フィガロの結婚》はもっとはっきりした意図に基づいて原語(イタリア語)と日本語が併用されています。物語は長崎を舞台に、黒船に乗って西洋人が到来します。地元の人達はびっくり!そして長崎に住むようになった伯爵夫妻の館で起こる騒動のストーリーはもちろん原作通りなのですが、西洋人つまり、アルマヴィーヴァ伯爵、伯爵夫人、ケルビーノの三名がイタリア語。それ以外の登場人物達は基本的には、西洋人と会話する時はイタリア語、それ以外は日本語です。そして多くのレチタティーヴォはチェンバロ伴奏で歌われるのではなく、演劇的な台詞として語られます。ドン・バルトロの「ああ、復讐だ」も日本語で歌われますし、バルバリーナの「無くしてしまった」も日本語の歌唱。フィガロやスザンナのアリアはイタリア語でした。全部が音楽として歌われると思って観に来たらビックリしてしまいますが、お芝居としては大変よく練られた仕上がりで、イタリア語と日本語の使い方が内容とちゃんと合っています。日本語字幕と台詞は野田秀樹作。
野田秀樹 meets 井上道義 =《フィガロの結婚》
今回の野田演出の核心は《フィガロの結婚》の貴族階級と平民階級の対比(と対立)を、西洋人と日本人の対比に置き換えている事です。ここに納得出来るかどうかでこの演出を受け入れられるかどうかが分かれると思います。私はこの演出は「あり」だと思いました。それから、今回タイトルに「庭師が見た!」と入っている通り、庭師アントニオを役者が演じていて、狂言回しとしてオペラの最初から登場し、場面が変わるごとに色々な冗談を言ったりしながら状況を説明します。歌舞伎的な所作や台詞があったり、様々な和風の小道具が活躍したり、ギャグも多くて舞台にスピード感がある。演出でとても面白いと思ったのは、第一幕でドン・バジーリオがスザンナに「ケルビーノが食卓で伯爵夫人を見つめすぎているぞ」と注意するシーンで、5人くらいの役者が代わりばんこにその台詞を言うのです。それもいかにも皆が噂しているぞ、という感じで辛辣に弾丸のようにしゃべりまくる。痛快でした。

このように今回の野田秀樹演出は、モーツァルトとダ・ポンテの《フィガロの結婚》を演劇的に大胆に翻案しています。イタリア語で歌う時の字幕も野田氏が制作したそうで、いつもこのオペラで見ている内容とは大きく違う字幕でした。まさに「オペラ界に野田演劇という黒船が来航!?」というくらいの驚きでした(野田氏がオペラ演出をしたのは初めてではありませんが)。プロダクションの企画からリハーサルまで、かなりの時間と労力をかけたのではないかと思います。それが見事に開花していました。
野田秀樹 meets 井上道義 =《フィガロの結婚》
一方の音楽面ですが、こちらは至極まっとうに正統派モーツァルトでした。井上道義のエレガントなタクトのもと、特に来日組の三名は優れた演唱で聴きごたえがありました。伯爵のナターレ・デ・カロリスは近年あまり来日が無かったと思いますが歌も姿も衰えを感じさせず、アルマヴィーヴァ伯爵はまさに適役でした。伯爵夫人のテオドラ・ゲオルギューは美貌と美声、そして品格のある歌唱で二つのアリアは本当に素晴らしかったです。そして今回ケルビーノ役はカウンターテナーのマルテン・エンゲルチェズが来日。男性ですから伯爵夫人に迫るシーン等でのリアルな表現が面白く、声も歌もとても良かったです。日本側キャストではスザンナの小林紗羅が役にぴったりの明るくフレッシュな声で好演。最後のアリアもスケールの大きな歌唱で感心しました。フィガロの大山大輔は歌も演技も男性的な魅力が一杯、マルチェリーナの森山京子とドン・バルトロの森雅史はコミカルな演技が秀逸。バルバリーナのコロン・えりか、バジリオの牧川修一、クルツィオの三浦大喜も良かったです。そして今回、敢闘賞を差し上げたいのが庭師アントニオの廣川三憲。演技は無論素晴らしかったですし、歌もきっちり歌っていました。声楽アンサンブルは新国立劇場合唱団とのことで舞台脇の一段下になったところで歌い音楽的には充実。そして何より、白いユニタードで踊ったり、村人達を演じたりで大活躍だった演劇アンサンブルが断然面白かったです。

終演後は大喝采。マエストロ・井上も野田秀樹さんもとても嬉しそうでした。この舞台を〈オペラ〉と呼んでいいのでしょうか?それともこれは〈演劇〉なのでしょうか?野田演劇のファンの方がこの舞台をご覧になって、「あら、オペラも面白いじゃない?」と思ってくれたら最高だな、と思って劇場を後にしました。
野田秀樹 meets 井上道義 =《フィガロの結婚》
文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photo : Naoko Nagasawa


全国共同制作プロジェクト

モーツァルト 歌劇《フィガロの結婚》〜庭師は見た!

〜 新演出 (全4幕・字幕付 原語&一部日本語上演)
2015年6月17日(水)18:30
ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川)

指揮・総監督:井上道義
演出:野田秀樹

出演:
アルマヴィーヴァ伯爵:ナターレ・デ・カロリス
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:テオドーラ・ゲオルギュー
スザ女(スザンナ):小林沙羅
フィガ郎(フィガロ):大山大輔
ケルビーノ:マルテン・エンゲルチェズ
マルチェ里奈(マルチェリーナ):森山京子
バルト郎(ドン・バルトロ):森雅史
走り男(バジリオ):牧川修一
狂っちゃ男(クルツィオ):三浦大喜
バルバ里奈(バルバリーナ):コロン・えりか
庭師アントニ男(アントニオ):廣川三憲

声楽アンサンブル(新国立劇場合唱団より):佐藤泰子、宮田早苗*、西本会里、増田弓*、新後閑大介、平本英一、千葉裕一、東玄彦
花娘*
演劇アンサンブル:河内大和、川原田樹、菊沢将憲、近藤彩香、佐々木富貴子、下司尚実、永田恵実、野口卓磨

チェンバロ・コレペティトゥア:服部容子

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団

美術:堀尾幸男
衣裳:ひびのこづえ
照明:小笠原純
字幕映像:奥秀太郎
音響:石丸耕一、関口嘉顕
美粧:赤松絵利(esper.)
振付:下司尚実

合唱指揮:辻博之

舞台監督:伊藤潤

フライヤーアートワーク・表紙デザイン:森本千絵(goen°)

総合プロデューサー:山田正幸
プロデューサー:中村よしき
プロダクションマネージャー:關秀哉

後援:公益社団法人全国公立文化施設協会、公益社団法人日本オーケストラ連盟
協力:劇場・音楽堂等連絡協議会、ローランド株式会社
協賛:西日本旅客鉄道株式会社金沢支社、金沢ターミナル開発株式会社(金沢百番街)、名鉄観光サービス株式会社

平成27年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業(共同制作支援事業)


〈全国日程〉

[春季]
5月26日(火)金沢歌劇座
主催:公益財団法人金沢芸術創造財団、公益財団法人石川県音楽文化振興事業団

6月6日(土)~7日(日)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO 大ホール
主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター

6月10日(水)サンポートホール高松
主催:公益財団法人高松市文化芸術財団、高松市

6月17日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール
主催:ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市文化財団グループ)

[秋季]
10月24日(土)~25日(日)東京芸術劇場コンサートホール
主催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)

10月29日(木)山形テルサ
主催:山形市
企画・運営:山形テルサ指定管理者 一般財団法人山形市都市振興公社

11月1日(日)名取市文化会館 大ホール
主催:公益財団法人名取市文化振興財団

11月8日(日)メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)
主催:公益財団法人宮崎県立芸術劇場

11月14日(土)熊本県立劇場 演劇ホール
主催:公益財団法人熊本県立劇場

[関連公演]
5月30日(土)~31日(日)大阪フェスティバルホール
主催:友紘会病院グループ


〈共同制作〉

(公財)金沢芸術創造財団、兵庫県立芸術文化センター、(公財)高松市文化芸術財団、ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市文化財団グループ)、東京芸術劇場((公財)東京都歴史文化財団)、(一財)山形市都市振興公社、(公財)名取市文化振興財団、(公財)宮崎県立芸術劇場、(公財)熊本県立劇場、(公財)石川県音楽文化振興事業団(オーケストラ・アンサンブル金沢)、(公財)東京交響楽団、(公財)読売日本交響楽団、(公社)山形交響楽協会、(公財)九州交響楽団

※2015年2月現在

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