オペラ・エクスプレス

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ミヒャエル・ハンペ 特別インタビュー ——「オペラの学校」すべてのオペラ愛好家、オペラの作り手、そして、オペラ嫌いのために。

ミヒャエル・ハンペ 特別インタビュー ——「オペラの学校」すべてのオペラ愛好家、オペラの作り手、そして、オペラ嫌いのために。

間もなく びわ湖ホール、神奈川県民ホールなどで上演されるワーグナー《さまよえるオランダ人》で新演出を手がけている巨匠ミヒャエル・ハンペ。昨年、彼の著書「オペラの学校」の邦訳も出版されました。この本について、そして《オランダ人》や今後の演出作品などについてお話を伺いました。
ミヒャエル・ハンペ 特別インタビュー
Q: 最近、日本語訳が出版されたご著書「オペラの学校」を読ませて頂きました。オペラ上演の様々な問題に対する解答が得られる大変に興味深い内容だと思います。この本の冒頭部分であなたは、「(オペラは)音楽によって表される物語なのです!音楽はオペラの主たる表現手段です。演劇における劇作家が書いた台詞、バレエにおけるリズミカルに動く身体、映画における動画——だから英語でムーヴィー(Movie)と言います——と同様です。」と書いています。でも多くのオペラ演出は音楽と一致していないように思います。そして人々はその種の演出を評価しています。それはなぜでしょう?

A: まさにそれが、私がこの本を書いた理由です。人々はオペラが何であるかを知りません。それは私たち作る側の人間もそうですし、観客の側もそうなのです。

Q: 日本のみならず、ドイツなどのオペラ大国においてもそうなのですか?それはなぜでしょう?

A: この本のサブタイトルは「すべてのオペラ愛好家、オペラの作り手、そして、オペラ嫌いのために。」です。なぜならオペラに対する大きな誤解を晴らしたいと思うからなのです。多くのオペラ演出家は音楽を知りませんし、知ろうともしない。彼らにとって音楽は大切ではないのです。オペラをやるべきではない人々です。映画を撮るなり、小説を書くなり、他の道を探すべきでしょう。

あなたがサッカー選手だったら、球を蹴る技術を持っていなくてはなりませんよね?オペラも音楽を知らなくては出来ません。なぜならオペラは、音楽を第一の表現手段としているからです。とても単純な事です。本の中にも書きましたが、どこかの大学の医学部から私を心臓移植の手術に呼んで頂きたいものです。外科手術のやり方を知らないのに、なぜ手術に手を染めるのか?患者が死んでしまうように、オペラも死んでしまうのに。

Q: 何か面白いものを作らなければ、という若い演出家が、モーツァルトやワーグナーの音楽を使って表面だけ新しくして、結果としてオペラを死なせてしまうのでしょうか?

DSC_1811_© Naoko NagasawaA: 音楽は面白いかどうかではありません。どれだけ真実の音楽であるか、どれだけ深い感動をもたらすか、ということが重要なのです。若い演出家達は面白さを目指す。新しく、輝かしい作品を作って注目されなくては仕事が来ませんから。ある意味、若い演出家達が「私が、私が」となるのも仕方がないことです。でも、本当に問いかけなければならないのは、モーツァルトやワーグナーの真実にどう近づくか、です。自分なりのアプローチでいいのです。その結果、あなたは「面白い演出」が可能になるのです。どの分野でもそうですが、偉大なるアーティストは何か言いたい事を持っています。正確に、偉大なる方法でそれを語るアーティストに人々は耳を傾けます。

Q: もう一つ、あなたのご著書を読んで驚いたのは、舞台に立つ人が知るべき多くの秘密が説明されていた事です。オペラ歌手という職業には大きな努力が必要とされているのですね。

A: そうです。気の毒な歌手の皆さんは、私と仕事をする時には、普段の10倍くらい大変な思いをする事になります(笑)。私は音楽の描写している事を皆に示して、あなたの音楽はこういう表現をしていますよ、と説明するのです。


Q: 間もなく日本で演出なさるのはびわ湖ホール、神奈川県民ホールなどの共同主催で上演されるワーグナーの《さまよえるオランダ人》です。ハンペさんはかつてミラノ・スカラ座でこの作品を演出していますね?

A: そうです。1988年に、リッカルド・ムーティが初めてワーグナーを指揮した時でした。私にとって《さまよえるオランダ人》の演出はあの時以来となります。完全なニュー・プロダクションで、日本でこの作品を手がける事が出来て大変嬉しく思っています。今回の《オランダ人》は昔のアプローチとは完全に違う、私が長年やりたいと思っていたプランの実現です。もちろんオペラに書かれている内容に即したものです。

Q: びわ湖ホールで初日を迎えますね。このホールに関してはいかがですか?

DSC_1988_© Naoko NagasawaA: 芸術監督で、《さまよえるオランダ人》の指揮をする沼尻竜典氏とはすでに《タンホイザー》などで一緒に仕事をしています。それにびわ湖というロケーションが本当に素晴らしいですね。建物も美しく、舞台機構も良く出来ています。湖は快適で周りには良いホテルがある。京都駅から11分で着くし、東京から日帰りも可能です。もし滋賀県と京都、大阪、名古屋などの都市の自治体が一緒になれば、ここで日本で初めての湖上オペラ・フェスティバルが可能なのではないでしょうか?オーストリアのブレゲンツ音楽祭のような。外国からの観光客も訪れるようになるでしょう。

Q: そいういう構想があったら素晴らしいですね。ザルツブルク音楽祭の運営メンバーであったハンペさんから教えていただける事も多そうです。

A: ザルツブルク音楽祭は世界で一番難しい音楽祭だと思います。その他にドレスデンの音楽祭も10年間やりました。町にとって音楽祭の経済効果はとても大きいのですよ。ザルツブルクは特殊な例ではありますが、使っているお金の7倍が地元にリターンしていることが学術研究の結果分かっているそうです。ビジネスとしても充分成り立ちます。

Q: びわ湖の湖上でワーグナー《リング(ニーベルングの指環)》を観たら迫力がありそうです。

A: まあ、それを待っていても間に合わないかもしれませんので(笑)、びわ湖ホールさんとは4年計画で《リング》を上演する事が決定しています。指揮は沼尻さんです。私はまだ《リング》を演出した事がないんです。歌劇場のインテンダントとして他の演出家に《リング》の演出を依頼した事はありますが。ワーグナーは本当にクレイジーですよね。どうやってオペラ歌手を泳がせよう、とか思いついたのでしょう(笑)。私も今、アイディアを練っている所です。楽しみにしていてください。

Q: まずは《さまよえるオランダ人》公演が大変楽しみです。今日はどうもありがとうございました。

インタビュー・文:井内美香  / photo: Naoko Nagasawa


【公演情報】
びわ湖ホール《さまよえるオランダ人》
2016年3月5日(土)/6日(日)
神奈川県民ホール《さまよえるオランダ人》
2016年3月19日(土)/20日(日)
iichikoグランシアタ《さまよえるオランダ人》
2016年3月26日(土)

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