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王者の風格・重厚にして雄渾なサウンドに酔う———ダニエル・バレンボイム指揮 シュターツカペレ・ベルリン ブルックナー・ツィクルス レポート

王者の風格・重厚にして雄渾なサウンドに酔う———ダニエル・バレンボイム指揮  シュターツカペレ・ベルリン  ブルックナー・ツィクルス レポート

現代指揮界の巨匠ダニエル・バレンボイム率いるシュターツカペレ・ベルリンが9年ぶりに来日公演を行い、ブルックナーの全交響曲を短期間に演奏するという快挙を達成しました。以下は、サントリーホールでの初日となった第1番の公演、ミューザ川崎での「番外編」というべき第8番の公演のレポートです。

今回のブルックナー・ツィクルスは、回によってはバレンボイム自身の弾き振りによるモーツァルトのピアノ協奏曲が組み合わせられているのも魅力でした。
バレンボイム_シュターツカペレ・ベルリン レポート
初日の2月9日は、ピアノ協奏曲第27番と交響曲第1番(リンツ稿)が組み合わせられ、奇しくもモーツァルトの最後のピアノ協奏曲とブルックナーの最初の交響曲が一夜で奏でられることになりました。

オーケストラはコントラバスを下手(しもて)に配し、ヴァイオリンを両翼に振り分けた伝統的配置。ピアノは蓋を完全に外してオーケストラと向き合い、バレンボイムが正面客席に背を向ける形で置かれます。

モーツァルト「ピアノ協奏曲第27番」は、柔らかな冒頭の序奏にまず引き込まれますが、この音色の味わい深いこと。管楽器も柔らかく融け合い、曲が進むにつれピアノも加わって三位一体の玲瓏な音楽と化していきます。ピアノ協奏曲といえばオーケストラとピアノの駆け引きも醍醐味ですが、バレンボイムとシュターツカペレ・ベルリンの成熟した関係からは一切その要素を感じませんでした。あるべき音楽がそこにある、という状態がもたらす圧倒的な充足感。鍵盤から手が離れたかと思えば弦楽器に指示を与え、そしてまた鍵盤へ―「弾き振り」だからこその滑らかな音楽の流れは、一つの完成形ではないかとすら思えます。

後半のブルックナー「交響曲第1番」では、バレンボイムは登場して軽く答礼を済ませるとすぐに音楽に没入。珍しく楽譜を見ながらの指揮ですが、なんのためらいもなく低弦のリズム動機が動き出し、オーケストラ全体に伝播した熱気が各所で容赦なく爆発します。アンサンブルの滑り出しはやや遅めでしたが、弦楽器をはじめ各奏者の「呼吸」に対する鋭敏さはかなりのもの。バレンボイムの指揮を先読みするような積極性も歌劇場オーケストラならではの強みでしょうか。第2楽章のアダージョを経て、荒々しいスケルツォではいよいよこのコンビの凄みが全開。ひた押しに押していくバレンボイムの音楽作りが曲のシンプルさと完璧に合致し、オーケストラの音圧にただ圧倒されました。間髪入れず開始された第4楽章では音楽の熱気がますます増幅。速めのテンポの中で金管のコラールが炸裂し、全曲を一貫する勇壮なリズムが輝かしく鳴り響いて締めくくられました。

ブルックナー「交響曲第1番」は完成から24年後の1890年から91年にかけて、全体的な校訂が行われたことでも知られています。バレンボイムは校訂後の版(通称ウィーン稿)に比べやや荒削りな「リンツ稿」を選択しましたが、ブルックナーの後年の老成を予見したような説得力と、やや「若気の至り」的なリンツ稿の表情の両方を合わせ持つ見事な演奏を繰り広げました。

2月9日(火) ツィクルス①
ソリスト:ダニエル・バレンボイム(ピアノ)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595
W.A.Mozart: Piano Concerto No.27 in B-flat major K.595
ブルックナー:交響曲第1番 ハ短調 WAB101 ノヴァーク版第1稿(リンツ稿)
Bruckner: Symphony No.1 in C minor WAB101


ツィクルスも順調に進行、2月18日はミューザ川崎シンフォニーホールでの「交響曲第8番」。ブルックナーの交響曲中一二を争う人気作品であり、客席には独特の緊張感がありました。

演奏はまさに王者の風格漂うもので、重厚にして雄渾なサウンドはワーグナーを得意とする指揮者・オーケストラの独壇場でしょう。バレンボイムはこの大曲を完璧に把握し、暗譜での指揮でした。シュターツカペレ・ベルリンは連日の演奏にもかかわらず集中力高く、時折弦楽器の後方プルトに出される指示にもしっかりと答えていました。第4楽章冒頭のティンパニ、金管に代表される荘厳な響きもさることながら、第2楽章トリオや第3楽章での深い呼吸と微細な音色変化に酔いしれました。ミューザ川崎の明晰な音響が名演に力を授けたことは確か。楽曲のフィナーレではすべての主題が壁面にこだまし、脳裏に刻み付けられるような錯覚すら覚えたほどです。

演奏が終わり、幾度もカーテンコールが続いても鳴り止まぬ拍手に応えて再度バレンボイムが登場。万雷の賛辞を受けていました。この後バレンボイムは「交響曲第9番」まで無事に完走し、オケより一足先にヨーロッパへと旅立っていきました。今度はぜひとも歌劇場での来日を期待したいところです!

2月18日(木)
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調 WAB108 ハース版
Bruckner: Symphony No.8 in C minor WAB108

文・平岡拓也 reported by Takuya Hiraoka

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