オペラ・エクスプレス

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オペラで愛まSHOW!■番外編その11■香盛(こうもり)修平のたわけた一日~堺シティオペラ「ナクソス島のアリアドネ」(9月11日・ソフィア堺)~公演レポート

 連載の他に「オペラ観劇して感激した!」といった話を不定期につぶやきます。題して「香盛(こうもり)修平のたわけた一日」

~堺シティオペラ「ナクソス島のアリアドネ」(9月11日・ソフィア堺)~公演レポート

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  私にとっては初の「ナクソス島のアリアドネ」観劇。関西二期会が以前上演したこともあるが、なかなか関西では聴くことができない演目。指揮が牧村邦彦さん、演出が岩田達宗さんと聞いた時点で関西在住オペラファンはもう腰が浮いている。

 いざ劇場へ!このコンビならば必ず期待以上のことが待っているはず。

 しかしながら予習ぐらいはと思って、このオペラのことを調べるとなんともいえないハチャメチャなストーリー。

「花火までに舞台を終わらせるために、悲劇と喜劇を同時に上演してしまえ!」それだけの話。

こんな指示をする上司がいたら、現代社会ではすぐさまパワハラで訴えられるだろう。牧村さんと岩田さんのコンビがこの難題をどう表現するのか手腕を楽しみに劇場に到着した。

 演出家によるプレトークがあるということで早めに席について待ち構える。個人的にはプレトークはあまり好きではない。舞台で表現の中で観客にストーリーや魅力を伝えて欲しい。また大体のプレトークは作品や演出は素晴らしいが「おしゃべり」がそれほど上手いとはいえない人物が出てくるので興ざめしてしまう。岩田さんならプレトークの功罪を十分理解しているはず。どんなプレトークか興味津々。

まだ席が埋まりきっていない劇場に演出家の岩田さんがスーっと登場した。下手花道に控えめに。岩田さんは男前で、少し白くなった髪が照明に光ってなかなかカッコいい。私と違って腹回りもスリム。そんな岩田さんのプレトークのポイントはシンプルだった。劇中劇となっている「ナクソス島のアリアドネ」という悲劇の説明を日本の古事記との共通性を示して観客に伝えた。

  このプレトークは予習していたつもりの私にとってもいいオペラへの導入部となった。

  異文化のオペラに接する時、理解しようとする時、宗教、人種などいろいろな壁を感じる。だがこれらは映画などでの疑似体験や、情報社会の中である程度感じ取れるものがあるし、知らない世界に触れることがオペラの愉しみ方の一つでもある。しかしギリシア神話となるとハードルが高く、少し距離を感じる人が多いのではないか。随分前だが牧村さん指揮の「天国と地獄」というオペレッタに合唱で出演したことがある。音楽を身体に入れ、演技しながら歌っても、ギリシア神話が全く無知であるために作品の面白さがピンと来ない。その時に一番ガイドになったのは阿刀田高著「ギリシア神話を知っていますか」という文庫本だった。音楽に限らずヨーロッパ文化を理解するにはギリシア神話をもう少し深く理解しなければならないが、生まれつきのさぼり性格で不勉強なままだ。

 ギリシア神話になじみが薄いのは私だけではないようで、今回のプレトークは観客の多くがその壁を乗り越えて観劇に集中できる手助けとなったように思えた。

  プレトークが終わると、指揮者が上着を手に持ったままふらっと登場し、オーケストラのメンバーと談笑。オーケストラのメンバーもどうやら一役買っている様子。それぞれ上演に向けて準備をしている。客席からは音楽教師が登場し何やら不満げな表情をみせている。気が付けばオペラのプロローグは始まっていて、客席は次から次に登場する人物の個性的な歌唱、演技に惹きこまれていく。原語上演ではあるが唯一、支配人だけが日本語のセリフで物語を進行していく。登場人物の多いオペラだが、支配人との会話(日本語と独語)により相手の役回りやキャラクターが鮮明になってくる。

  プロローグは舞台裏のドタバタ劇。音楽教師と作曲家はあり得ない要望に正面からぶつかっているが、周りの人物はそれぞれの世界でバタバタと動き回っている。この姿が実にリアルな人間模様として伝わってくる。よく見るとそれぞれの役を歌手たちは真剣に役を演じ切っていて面白い。普段はプリモテノールを歌っている清原邦仁さんも、フレディ・マーキュリーをイメージさせる刺激的な衣裳で指先から腰つきまで舞踏教師を演じ切っていた。

プロローグが成功になれば後半の劇中劇は安心して「悲劇」と「喜劇」の同時進行を楽しむことができる。「悲劇」を演じ切るアリアドネとバッカス、「喜劇」を演じ切るツェルビネッタ。その両極端のテーマに支えられた素晴らしい歌い手達の歌唱芸術はオペラの魅力そのものだった。アリアドネ役の並河寿美さんのゆるぎのない歌唱と美しさ。それとは対照的に確かなテクニックで機敏に音階を駆け巡り、愛らしさがあふれたツェルビネッタ役の古瀬まきをさんの歌唱は聴きごたえがあった。

 「悲劇」と「喜劇」の上演が終わり、舞台セットも撤収された風景が最後に提示された。音楽教師が一人そこでタバコに火をつけて一日を振り返っている。まさに声の饗宴であったそれまでのシーンとはあまりにギャップのある静寂。

 プレトークで岩田さんが最後に語っていたことを思い出した。

 時代を背景としてオペラの作曲に様々な規制があった。それが解き放たれようとした時期があった。そのような時代にリヒャルト・シュトラウスが作曲したのがこの作品。舞台裏のドタバタはそこに関わっている人ならば知っている。それぞれが真剣であるし、それぞれが違う人間性を持っている。舞台に関わっている人なら取り上げたい題材である。舞台裏を描いた作品はドニゼッティの「ビバ・ラ・マンマ」やモーツァルトの「劇場支配人」といった作品もありそれぞれ面白い。しかし「ナクソス島のアリアドネ」はそれらの作品と一線を画したスケール、メッセージ性を持っている。終演すれば全ては無の状態になる。しかしそれは新たな始まりである。

 ラストシーンでたばこをくゆらせている音楽教師の姿は、オペラの新時代が来て次は何を産み出せるのか模索しているリヒャルト・シュトラウスの姿であり、新たな舞台に向かって進みだす演出家岩田さん自身であるように思えた。

 最後になるが、よどみないドラマの進行と、アリアドネとツェルビネッタに存分に歌わせた牧村さんとカレッジオペラハウス管弦楽団に最高の拍手を贈りたい!

 あー楽しかった。オペラは面白いですぞ!


堺シティオペラ第31回定期公演 ナクソス島のアリアドネ
2016年9月10日(土)/11日(日)
ソフィア堺

指揮:牧村邦彦
演出:岩田達宗

管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団

キャスト:9月10日/9月11日
支配人:橋本恵史/橋本恵史
音楽教師:萩原寛明/福嶋勲
作曲家:福原寿美枝/郷家暁子
士官:矢野勇志/矢野勇志
舞踏教師:松原友/清原邦仁
かつら師:水谷雅男/水谷雅男
召使い:津國直樹/内山建人
プリマドンナ/アドリアネ:水野智絵/並河寿美
テノール/バッカス:松本薫平/二塚直紀
ツェルビネッタ:高嶋優羽/古瀬まきを
水の精 ナヤーデ:寺田真綾/植田加奈子
木の精 ドゥリヤーデ:田中千佳子/瀬戸口文乃
こだま エヒョー:加藤真由子/田中惠津子
ハルレキン:西村圭一/鳥山浩詩
スカラムチョ:柏原保典/孫勇太
トルファルディン:山川大樹/武久竜也
ブリゲッラ:眞木喜規/古屋彰久
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