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オペラで愛まSHOW!■番外編その12■香盛(こうもり)修平のたわけた一日~藤原歌劇団《カルメン》2017年2月4日公演 観劇して感激レポート

連載の他に「オペラ観劇して感激した!」といった話を不定期につぶやきます。題して「香盛(こうもり)修平のたわけた一日」

藤原歌劇団 《カルメン》2017年2月4日公演
観劇して感激レポート

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衝撃的な舞台だった。

タバコ工場の前は単なる土埃のする、のどかな街の風景ではなかった。
建物の壁にも、広場にも血が塗り込められている。牛追いによる牛が流した血や、殺戮による人間の血が長い年月に渡って染み込んでしまったものだろう。
人々が暮らす街は背の高い鉄柵の向こう側にあり、兵隊たちのいる場所とは明確に区切られている。
鉄柵越しに見える街のさらに背景には赤い月が浮かんでいる。
月は自ら光を放つことはない。赤い色は人々の殺戮により流された血の色を投影している。
岩田達宗さんの演出は一幕から観客に挑戦するかのように、暴力的でキレやすい人々を提示する。
私も完全に罠にはまってしまった。自分自身も何かに圧迫され、キレてしまいそうな気持になった。
タバコ工場の女たちの喧嘩シーンも相当な激しさであった。
キレる人々、鉄柵による閉塞感、赤い月の圧迫感。
カルメンも存在感たっぷりだった。堂々とした体格、ダイナミックな動きでのハバネラは、定番アリアとして安心して楽しめると思っていた観客を圧倒した。
歌い終わってから一瞬の間が空いて、やがて大きな拍手が鳴り響いた。
圧倒的な存在感のカルメンの前ではホセもスニガも小さな存在にしか見えない。

二幕に入るとさらに、観客への挑戦的が続く。酒場は欲望と絶望が渦巻く退廃的な空間だ。
女を抱き、酒を浴び、欲望が満たされなければ奇声をあげ、暴力を働く。この異常さは酒の力だけではない。麻薬によるものか、明日訪れるかもしれない死への恐怖心からくるのか。
追い立てるように盛り上げる演出で、フラメンコを引き立たせた迫力の一場だった。
エスカミーリョは、白のスーツ姿で金をばらまく。
客が追い出され。レメンダード、ダンカイロ、フラスキータ、メルセデスとカルメンの五重唱へと一気に進む。ソリストはそれぞれ立派な歌唱で、大好きな五重唱を大いに楽しませてもらった。
遠くからホセの歌声が近づいてくると、カルメンの色気が増してくる。男を迎える本能をカルメンは隠さない。
ホセとカルメンが愛しあう短い時間。しかしそれも帰営ラッパが遮る。
その後のあまりにも有名なアリア「花の歌」。素晴らしい歌唱だった。元々テノール藤田卓也さんの声に惚れ込み関西からやって来た私はこの歌を聴けただけでも幸せだった。単なる女々しい男を歌うだけではない、スピントな輝かしい声をある抑制しながらも、時に心の叫びがほとばしるような歌唱に胸をうたれた。
兵隊の身分を棄てジブシーの身となったホセと、ジブシー達の迫力ある歌唱は、藤田さんの声もフルスロットとなり、一幕からレベルの高さを示していた合唱と共になって歌唱芸術オペラの魅力を存分に楽しむことができた。

三幕になると月の色はホセの心と同期していく。岩田さんの演出はテキストに忠実に、ホセの気持ちと共に月の大きさ、赤さをコントロールする。
唯一赤い月が姿を消すのがカルタの歌。闇が深くなりカルメンが運命のカードを引くとき、月は消えカルメンの影が投影される。全ては四幕からの逆算での演出だと気づかずに観客は引き込まれていく。

四幕の圧巻はホセがカルメンを刺殺すクライマックスシーン。かねてから最後に一撃必殺でカルメンを刺し殺すことに違和感を感じていたが、今回は刺されてもまだ赤い月に向かって進もうとするカルメンにホセがとどめをさす演出。カルメンとホセの熱唱、熱演もあり、かつて見たことのないほどの緊張感溢れるフィナーレだった。

今回の演出には賛否両論あるかと思う。この四幕のイメージからの逆算で演出プランが決まったのではないかと勝手な想像をしている。
岩田さんという演出家があえて暴力的なシーンを多く取り入れたのには理由があるはずだ。決してそういった嗜好の持ち主ではないと過去の演出を見て思っている。プログラムの演出ノートを読むとこの題材に対する「愛」があふれている。その中でどうしても表現したかった思いが今回の演出を産み出したのだろう。一見の価値あり。
私自身もメリメの小説を読み直しもう一度「カルメン」という題材を見つめなおしてみようかと思っている。定番作品が繰り返し上演し続けられる理由は、こういった挑戦にあるのかも知れない。

つい演出に話が偏ってしまった。「カルメン」でオペラと出会い、エスカミーリョの歌う「闘牛士の歌」を歌いたいと声楽を始めたために「カルメン」となるとつい熱くなってしまう。

話しを観劇の主目的に戻さなければ。

今回の目的は藤田さんの声に惚れ込んでの「おっかけ」。
関西ではみつなかオペラ、伊丹市民オペラなどで活躍。圧倒的な歌唱、端正さと情熱を併せ持ったテノールとして実績は十分。幸せなことに昨年オペラ徳島「リゴレット」で共演(おこがましいですが…)でき、舞台裏での飾らない姿も知ってますますファンになった。
輝かしい高音はもちろん魅力だが、今回のドン・ホセでの感情と声をシンクロさせた熱演を目にし、また新たな世界を切り拓いてくれそうな予感がする。藤田ホセへの観客の拍手が、藤原歌劇団のプリモテノールとしての評価と期待を示していた。ブラボー!

山田和樹さん指揮によるオーケストラと充実の合唱団は大いに今回の舞台を盛り上げた。4幕前のアラゴネーズは指揮者とオーケストラの実力の見せどころ。単なる転換のための間奏ではない魅力豊かな音楽で惹きつけられた。
個人的に違和感が若干あったのが衣裳と合唱の所作。アマチュアながら少し舞台に関わっているものとして、客席から演技者を見ていろいろな気づきがあった。

今年も好き放題の素人目線で語ります。お許しください。


《カルメン》
Carmen
全4幕 字幕付き原語上演(シューダン旧版によるギロー版)

ジョルジュ・ビゼー作曲
リュドヴィク・アレヴィ/アンリ・メイヤック台本

2017年2月4日(土)14:00
東京文化会館大ホール

指揮:山田和樹
演出:岩田達宗

出演:
カルメン:ゴーシャ・コヴァリンスカ
ドン・ホセ:藤田卓也
エスカミーリョ:王立夫
ミカエラ:伊藤晴
スニガ:田島達也
モラレス:月野進
フラスキータ:尾形志織
メルセデス:増田弓
ダンカイロ:坂本伸司
レメンダード:琉子健太郎

合唱:藤原歌劇団合唱部
児童合唱:東京少年少女合唱隊
舞踊:平富恵スペイン舞踊団
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

合唱指揮:須藤桂司
美術:増田寿子
衣裳:半田悦子
照明:大島祐夫
舞台監督:菅原多敢弘
振付:平富恵

児童合唱指揮:長谷川久恵

字幕:増田恵子(原訳:和田ひでき)

総監督:折江忠道
制作:公益財団法人日本オペラ振興会

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