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上岡敏之を音楽監督に迎え、進化を続ける新日本フィルの新シーズン。「映画で言えばハリウッドではなくヨーロッパのそれ」

今シーズンから上岡敏之を音楽監督に迎えた新日本フィルハーモニー交響楽団最初のシーズンは現在も進行中だが、彼が監督に就任したことで演奏会に登場する回数も増えて、新日本フィルハーモニー交響楽団のサウンドは明らかに変化した。では二年目のシーズンではどこに向かって、どこまで進んでくれるのだろうか?注目される新シーズンへの期待そのままに多くの報道陣を集めて、9月に開幕する新日本フィルハーモニー交響楽団の新シーズンプログラムの発表記者会見が4月11日(火)にすみだトリフォニーホールの舞台上で行われた。この日は墨田区文化振興財団からも二人が登壇し、日本でのホールとオーケストラのフランチャイズ提携の先駆けとなった新日本フィルハーモニー交響楽団とすみだトリフォニーホールの結びつきを強くアピールした。

左より:山田徹/崔文洙/上岡敏之/宮内義彦

左より:山田徹/崔文洙/上岡敏之/宮内義彦

冒頭に挨拶した宮内義彦理事長をはじめとして、登壇した面々からは同じ方向を向いた、強い思いが伝わってきた。それをまとめれば「上岡敏之を音楽監督に迎えて新日本フィルは変わりつつある」「ホール開館20周年の節目を迎えたすみだトリフォニーホールと新日本フィルの特別な結びつきを、これまで以上に活かしていきたい」ということになるだろう。
この共通する思いの根源には昨シーズンまで音楽監督不在だったため、新日本フィルはオーケストラという集団に必要な核を欠いた、厳しい時期を過ごしたという共通の認識がある。昨年の会見で音楽監督を迎えられる喜びを語っていた面々が、今はこの先にある道をしっかりと見据えているのだ。たとえば横山専務理事が運営側の課題として知名度の向上を迷いなく示したように、弱点をも隠さず語れるのは、進むべき道が明確だからだろう。その”道”はもちろん、上岡敏之音楽監督就任以来のサウンドの変化が示してくれている。上岡と新日本フィルの音楽をより多くの人々と共有することによってすべてが始まる、彼らの言葉はそう訴えていた。

上岡敏之

上岡敏之

就任からわずか半年程度でこれだけの変化をオーケストラにもたらした上岡敏之は、自らの演奏について「楽譜に虚心に向き合って作曲家の意図したものを音にするという、決して楽ではない取組を集中して行っている」と、言葉にするととても基本的なことを大切にしている、と語る。しかし音楽をする上で大切な前提をオーケストラと共有してきたことで、新日本フィルハーモニー交響楽団が求めたオーケストラの”芯”は作られた、そんな自負も感じられる。
そんな上岡と新日本フィル、注目の新シーズンのプログラムだが、今シーズンから宝石の名を冠された三つの定期公演(すみだトリフォニーホールでのルビー、トパーズ、サントリーホールでのジェイド)に加え、横浜みなとみらいホールでの演奏会に「サファイア」の名を与え、四つのシリーズで構成されることになる。細目は新日本フィルハーモニー交響楽団の公式サイトや、充実したチラシでご確認いただきたい。

上岡は自らの楽団のプログラムについて「新シーズンは、映画で言えばハリウッドではなくヨーロッパのそれ」である、と語る。一見してインパクトを残すような派手さはないかもしれないが、心に残るものになるだろう、という言葉を裏打ちするように「客演に招く指揮者たちも独奏者の皆さんも、音楽をただの仕事、ビジネスとして演奏する人ではなく、表現者として音楽をする人たち、新日本フィルと一緒に音楽をしてくれる人たちを招きます」と付け加えた。曲目を見ても通り一遍な作品は少なく、それはもしかするととっつきにくく感じられることかもしれない。しかし上岡の言葉を思い出そう、「楽譜に虚心に向き合って、作曲家の意図したものを音にする」、ごまかしの効かない取組をまた一年続けるという、新日本フィルの決意はここにも現れているのだ。

シーズンプログラムにあわせて、今シーズン募集してきたルビー第8回「リクエストコンサート」(7/21、22)の曲目もこの日発表されている。リクエストの票数からまず決定されたのがメインとなるベルリオーズの幻想交響曲、それに合わせてパガニーニのヴァイオリン協奏曲を選ぶことで、コンサート全体のテーマが「ヴィルトゥオーゾ」になるのだ、という。なお来シーズンには、トパーズでリクエストコンサートを実施するので、上岡と新日本フィルの演奏で聴いてみたい作品がある方はぜひ応募されてみては如何だろうか。
(4月21日には、この日未定だったパガニーニの協奏曲のソリストに戸田弥生が選ばれたことも発表された。実力派の登場で「ヴィルトゥオーゾ」コンサートはより期待できるものとなったと言える)

音楽監督補佐二名

左より:山田徹/崔文洙

山田徹(パーカッション)と崔文洙(ソロ・コンサートマスター)が、音楽監督補佐に就任したこともこの日発表された。上岡によれば「歌劇場では日常的に楽員と会うけれど、オーケストラとは長く顔を合わせないこともある。その間にコミュニケーションに齟齬が出ないように」補佐する役割だという。
崔文洙は、演奏者の視点から上岡音楽監督と過ごす今シーズンをこう振り返った。「上岡監督就任からのオーケストラの変化は自分たちも感じていますが、それを聴衆が受け取ってくれていればいいと思います。”かつてこのように演奏されていたから”と先例を踏襲するのではなく、作品が持っている可能性を楽譜から読み取って演奏していきたい」と、彼も上岡敏之と同じ方向をまっすぐに見据えている。二年目のシーズンも、上岡と新日本フィルの関係はより深まり、その音楽も進化を続けることだろう。

さてこの日の会見では、今年開館20周年を迎えたすみだトリフォニーホールと新日本フィルハーモニー交響楽団の関係についてももう一つの焦点として多くの言及、紹介が行われた。新日本フィルと墨田区との特別な関係の始まりは、現在も続く「国技館5000人の第九コンサート」の第二回というから、もう30年以上の縁となる。この日配布された資料には、オーケストラとホールのフランチャイズ提携の草分けとなった1988年当時の覚書が再録され、原点に立ち戻ってこの関係を育てていく、そんな強い意志が感じられた。
学校訪問やホール主催公演への出演など、多くのイヴェントで強く結びついてきた新日本フィルと墨田区は、今年を新たな節目と捉えてさらなる展開を見据えている。上岡敏之も「私たちはもっとそれを活かしていかなければいけない。たとえばリハーサルの空席時の音とお客様が入った状態の音との違いにもっと慣れていかなければ」と、自分たちの音を作る”家”への強い思いを語っている。

一連の記念事業の開幕を飾った3月の「すみだ平和祈念コンサート2017」で、初めて「レクイエム」以外の作品としてマーラーの交響曲第六番を取り上げて注目を集めたのは記憶に新しいところだが、2018年の同コンサートでは上岡敏之と新日本フィルに加え、下野竜也と広島交響楽団による演奏会が開催される他、他ジャンルの関連企画も予定しているという。
すみだトリフォニーホールルビー、トパーズの定期演奏会にくわえ、<クリスチャン・ヤルヴィ・プロジェクト2017><新日本フィル生オケ・シネマ><スーパー・ソリスト meets 新日本フィル>などのコンサートも続々開催される。すみだトリフォニーホールの20周年の、そして新日本フィルハーモニー交響楽団創設45年目の記念すべき2017/2018シーズンはこれまで以上に注目をあつめることだろう。”上岡敏之時代”を迎えた新日本フィルハーモニー交響楽団の変貌の軌跡を、ぜひ彼らの”ホーム”で体験してみては如何だろうか。

取材・文:千葉さとし reported by Satoshi Chiba


新日本フィルハーモニー交響楽団2017-2018シーズンプログラム詳細
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