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スペインの知匠が導くラテン・プロ―――新日本フィル・4月ルビー

今回の新日本フィルのルビー・シリーズは、スペインおよびスペイン語圏にまつわる3曲を取り上げる。ドイツ・オーストリア音楽が「王道」と捉えられがちな日本のクラシック音楽界において、こういったスペイン物(英国物にも同じことが言えるが)はもっと市民権を得ても良いのではないかと思う。

スペインの知匠が導くラテン・プロ―新日本フィル・4月ルビー

一曲目「グラン・カナリア島の鐘」は、今回のマエストロ・アルフテルの自作。グラン・カナリア・フィルの芸術監督・首席指揮者(2014-16年)を務めていた時の作品で、カナリア諸島に含まれるグラン・カナリア島の議会の100周年を祝うために書かれたという。舞台後方に並ぶ多数の打楽器が表現する「鐘」の音色を基調としながら、FisとGの単音が中心となる音楽―敢えて展開は排されている。まるで島を鳥瞰して描かれた風景画のように美しい曲で、マエストロの音楽が持つ色彩感がそのままに現れているようだ。

続いてはロドリーゴの「アランフェス協奏曲」。スペイン系のプログラムで協奏曲と来れば、ファリャ「スペインの庭の夜」かこの作品といったところだ。若い世代の最前線を走るギタリストと、練達のマエストロで聴けるのはとても嬉しいことだ。鈴木大介さんのギターは軽やかで繊細、極力音を抑えたオーケストラと静かな対話を繰り広げてゆく。第2楽章ではイングリッシュ・ホルンの音色も胸を打つ。アンコールでは一本のギターが静まり返った空間にトレモロの美しさをいっぱいに響かせ、大ホールが親密そのものの空間と化した。贅沢なひとときであった。

スペインの知匠が導くラテン・プロ―新日本フィル・4月ルビー

後半のヒナステラ「エスタンシア」は4曲を抜粋した組曲版ではなく、まだまだ本邦では上演が貴重な全曲版が取り上げられた。スペイン本国ではなく、大西洋を隔てたアルゼンチンの作曲家ヒナステラの作品である「エスタンシア」は、アルゼンチンの風土に根ざした音楽といってよい。バレエ中で小麦農場での労働と牧場での牛追いが相次いで描かれるが、ここには彼らの農耕民族としての特性がリズムにも現れているのではなかろうか。(荒々しい動物達との係わり、という点では、幾分ヨーロッパの騎馬民族的な要素もあろうか?)いずれにしても、ヨーロッパから少し遅れてやってきた国民楽派の音楽として「エスタンシア」を聴くこともできよう。ロデオやマランボなど、血湧き肉躍る楽曲も実演では華々しく響いたのだが、弦や木管がねっとりと歌う夜の音楽の妖艶さに自分は特に惹かれた。語りとバリトン独唱を担った井上雅人さんは下手(しもて)で物語を牽引し、陽気というよりは切なく渋い歌唱で魅了した。バリトンにしては高音域の要求だが、見事に歌いこなしておられた。
演奏会の最後には、本プロよりも更に弾(はじ)けた終曲の「マランボ」。予想通り―といってしまっては身も蓋もないが、打楽器奏者が楽しく踊りながらのプレイに思わず笑みがこぼれた。

知的で堅実なマエストロ・アルフテルの指揮に支えられ、新日本フィルは3種のラテン音楽を情感豊かに演奏していた。ここに今一歩のリズムの軽さ・溌剌さが加われば申し分ないが―これは日本のオーケストラ全体にいえる課題かもしれない。十分に見事な演奏だったと思う。

文・平岡 拓也 Reported by Takuya Hiraoka
写真提供・新日本フィルハーモニー交響楽団 Photos by New Japan Philharmonic


新日本フィルハーモニー交響楽団
ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉 #6

2017年4月15日(土)
すみだトリフォニーホール 大ホール

アルフテル:グラン・カナリア島の鐘
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
~ソリスト・アンコール~
タレガ:アルハンブラの思い出

ヒナステラ:バレエ音楽「エスタンシア」
~アンコール~
ヒナステラ:バレエ音楽「エスタンシア」より マランボ

ギター:鈴木大介
バリトン・語り:井上雅人
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:豊嶋泰嗣
指揮:ペドロ・アルフテル

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