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Le Voci 《愛の妙薬》―――オペラの最も大切な要素〈歌〉に対する優れた感覚と、楽譜に忠実で情熱的な音楽作り

かつしかシンフォニーヒルズでLe Vociさん公演のドニゼッティ《愛の妙薬》を観てきました!
主宰は指揮者の安藤敬。演出は奥村啓吾。2014年にやはりドニゼッティの《ルチア・ディ・ランメルモール》に接して以来、Le Vociさんの公演が大好きになり出来る限り通っているのですが、今回もまたとても良い舞台でした。

Le Voci公式サイト《愛の妙薬》の公演情報のページ
オペラで最も大切な要素である〈歌〉に対する優れた感覚と、楽譜に忠実でしかも情熱的な音楽作りがマエストロ・安藤の特徴だと思います。それは、どの言語のどの時代のオペラを演奏するにも重要な要素なのですが、特に、一般的にベル・カントと呼ばれる19世紀前半のイタリア・オペラの演奏は、歌を紡いでいくことが不可欠なだけに、彼のセンスの良さが一層際立ちます。
ゆったりした部分でも、フィナーレ等の早めのテンポの時でも、歌手達を盛り立てる事によって、オーケストラはよりいっそう輝くのです。どの歌手もすみずみまで手を抜かない丁重な歌唱なのも、おそらくマエストロの指導が大きかったのではないでしょうか。

同じベル・カントといってもドニゼッティはベッリーニと比べるとウィーン楽派やフランス音楽等からの影響も受けています。安藤氏指揮のテアトロ・フィガロ管弦楽団は木管などのソロもしっかり歌いますし、トゥッティの時は弦の厚みがあり、美しいサウンドを聴かせていました。ドゥルカマーラ登場場面のコルネット(横原康二)、上手かったです。またネモリーノのアリアの前のファゴット・ソロもよく歌っていました。

演出の奥村氏は自然ではっきり伝わる演技、そしてソリストと合唱のフォーメーションと動きが優れている演出にいつも感心します。今回はそれに加え、鈴木俊朗による美術装置の美しさ、そして主人公の性格や心情の変化を的確に表現した稲葉直人の照明も大変見応えがありました。

主人公の中で、もっとも鮮やかな印象を残したのはアディーナの中畑有美子です。まだ若いソプラノだと思いますが、容姿も美しく、歌も立派でした。持ち声も良く、高音が伸びやかなのに低音もしっかり出ます。若さを活かした高飛車なのに憎めないキャラクター作りも良かったです。

ネモリーノ役はLe Voci公演ではお馴染みの川野浩史。前回私が聴いたのは《蝶々夫人》のピンカートン役で、そちらも良かったですが、ネモリーノ役は彼の明るめのリリックな声にぴったりでした。しかも演技が大変うまく、説得力があります。アリア「人知れぬ涙」では、メッサ・ディ・ヴォーチェという声の音量を徐々に変化させて曲を盛り上げるテクニックを効果的に使い、ネモリーノの真摯な想いを伝える事に成功していました。

ドゥルカマーラは清水良一。イタリア語が達者で演技も自然。オペラの冒頭から自然光を表していた照明が、ドゥルカマーラが登場する場面になると、あたり一面イエローのライトがあたり一気に雰囲気が変わります。怪しさと面白さを存分に振りまいていました。

ベルコーレの香月健はこの役に相応しい美声のバリトン。軍服姿の下に見える赤いサテンのベルトが洒落者らしくてお似合いでした。アンサンブルの盛り上げ方も上手。
合唱団は毎回公募だそうですが、素晴らしかったです。一人一人がしっかり登場人物になっているし、声も演技もやる気が感じられるのが嬉しいのです。ソロ歌手達と合唱の掛け合いのバランスも良く、男声陣も声が出ているし、安江秋が歌ったジャンネッタと女の子達がネモリーノに遺産がころがりこんだ噂話をする場面もバッチリでした。

助演の皆さんも演技がうまかったです。ベルコーレの部下二人。そしてドゥルカマーラの助手二人。良い役者さん達は舞台を引き締めます。

《愛の妙薬》は人情喜劇の傑作ですが、コミカルな場面とペーソス溢れる場面、そして真剣な恋愛の話が複雑に入り交じり、シーンごとに細かく変化していきます。この公演は音楽、演技、両方において雰囲気が良く出ていたので、お芝居に入り込み、笑ったりジーンときたり物語に没頭する事が出来ました。

最後に、舞台中央上部にかかげられた字幕(畠山茂)ですが、思い切って現代的なくだけた言葉遣いでした。よく読むと原語を忠実に伝えていますし、面白いカタカナ用語等の使用はかなり効果的だったと思います。

(文・井内美香)

(写真左より)安藤敬/中畑有美子

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