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都響の音楽監督・大野和士らが台東区の小学校を訪れ、二時間の「特別音楽授業」を行う———アウトリーチ・プログラム「都響マエストロ・ビジット」

都響の音楽監督・大野和士らが台東区の小学校を訪れ、二時間の「特別音楽授業」を行う———アウトリーチ・プログラム「都響マエストロ・ビジット」

11月22日(火)、東京都交響楽団の指揮者が都内の小中学校などを訪問して行うアウトリーチ・プログラム「都響マエストロ・ビジット」が都立東泉小学校で開催された。2004年に始められ、これまで各地の学校で開催を重ねたイヴェントは今回で18回を数える。このイヴェント初回に登場した、今は亡きジェイムズ・デプリーストに指導を受けた小学生がプロになっていてもおかしくないほどの歴史を重ねて、今では東京都交響楽団の重要な活動のひとつとなっている。
今回は現在の音楽監督、大野和士に加え、大和加奈(ヴァイオリン奏者)、勝山大輔(クラリネット奏者)、高橋敦(首席トランペット奏者)ら都響の団員が参加して台東区立東泉小学校で二時間の「特別音楽授業」を行った。会場は東泉小学校の体育館、授業を受けたのは同小学校の4年生から6年生まで。子どもたちによるオーケストラ活動なども盛んなこの学校ならではの授業が楽しく活発に行われた。

一時間目は、子どもたちに指揮を教える授業だ。マエストロ自ら、即興的にピアノを弾いてのレッスンは、子どもたちも率先して参加する楽しい時間となった。大野からの「実際に指揮棒で指揮してみよう!」という呼びかけに、子どもたちが喜んで参加する形で授業は進む。大野和士は子どもにもわかるよう、しかし手加減なく伝える姿勢、そして子どもたちが物怖じせずに参加する姿勢には惜しみない拍手が送られた。
大野の指導は、単純に腕を振ることから始めて「二拍子で強弱、速度を動かす」「三拍子で表情をつけて指揮する」「拍子の中の強弱を指揮で示す」「四拍子で呼吸をあわせさせる」「四拍子で左手を使って強弱をつける」と進められ、わずか45分の間に「両手を別々に使って指揮をする」ところまで教えてしまった。子どもたちのオーケストラ活動をしているほど東泉小学校は音楽には熱心に取り組んでいるけれど、これほどの短時間でここまで教えてしまえるものだろうか?子どもたちの好奇心を巧みに引き出した大野の手腕には感心させられた。知らないうちに指揮者の基本を学んだ子どもたちはの中から、いつか未来のマエストロが生まれたときには、その子は「大野和士に師事」と書いてもいいだろう、そう思えるほど濃密な一時間目の授業は終わった。

(c)Rikimaru Hotta

わずか五分の休憩を挟んで(大人になると忘れてしまうことだが、小学校の授業の合間にはこんな短い休憩しかないのだ)、二時間目は東泉小学校の児童たちによるオーケストラへの指導だ。都響の楽員も参加して演奏した曲はリムスキー=コルサコフの歌劇「雪娘」から「軽業師の踊り」。これから演奏会で披露する予定の曲を、まず先生の指揮で演奏する。都響のメンバーを交えた小学生たちのオーケストラは演奏会に向けての練習も進められているから、通して演奏するだけならもう不安はない出来栄えだ。
しかし続いて行われた大野和士によるリハーサルで、演奏はまた大きく変わる。ここでも大野は彼ら彼女らを子供扱いしない、本気で彼ら彼女らの演奏を直し始めるのだ。作品について、その音楽が示す場面や情景を説明してイメージを喚起したり、音楽的な精度を求めたりするさまはプロの音楽家を前にした時と同じ熱さを持つものだ。さすがの大野でも45分で全曲に手をつけることまではできなかったけれど、最後に通して演奏してみるとどこをとっても指導前よりいきいきとした演奏になっているのだから、音楽というのは不思議なものだし、子どもたちの吸収力というのは大人が思い込んでいる以上に大きいのだ。
(c)Rikimaru Hotta

二時間の授業が終わり、最後に東京都交響楽団からのプレゼントの贈呈や記念撮影などを行って、この日の「授業」は終了した。この日の授業から一人でも多くの音楽ファンが生まれることを願おう。

さて、東京都交響楽団の演奏活動はヤクブ・フルシャ(首席客演指揮者)の指揮による第九で締めくくられ、2017年は3日に開催される東京文化会館での《響の森》ニューイヤーコンサート(指揮は垣内悠希)で始まり、翌週には定期演奏会も開催される。大野和士の次の登場は2017年3月だが、それまでの間にもオペラ公演に国内ツアーにと、東京都交響楽団の多忙な演奏活動は続いていく。その一方で未来の音楽ファンを、そして音楽家を生み出す活動にも都響は熱心に粘り強く取り組んでいる。現在のオーケストラに求められる要求は高くその活動範囲は広がり続ける中、「過去から現在までの作品を再現する」博物館ではなく現在を、未来を作り出す特別な存在としてのオーケストラ像を。両輪の活動を通じて東京都交響楽団は作り続けていくだろう、これまでも、これからも。

取材・文:千葉さとし reported by Satoshi Chiba


東京都交響楽団

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