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びわ湖ホールから 広がる新しい音楽祭「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」とは?―――沼尻竜典インタビュー

びわ湖ホールから 広がる新しい音楽祭「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」とは?―――沼尻竜典インタビュー

今年(2018年)からスタートする近江の春 びわ湖クラシック音楽祭
この音楽祭は、同ホールの芸術監督をつとめる沼尻竜典のプロデュースによるもので、びわ湖ホールを拠点として、滋賀県各地でも多数の関連コンサートが開かれる。
第一回目の音楽祭のテーマは、「私は夢に生きたい」。(グノー作曲:オペラ《ロメオとジュリエット》より)。テーマは毎年、有名オペラアリアのタイトルから選ばれるという。

びわ湖ホールプロデュースオペラ《ワルキューレ》の公演を直前に控えた2月末、沼尻自身がオペラ・エクスプレスからの質問に答え、音楽祭の特徴や公演の魅力について語ってくれた。

全てがびわ湖ならではのオリジナル・コンテンツ

まず、東京から来る人におすすめの公演はどれかと尋ねてみたところ

「東京でやったものをびわ湖に持って来るのではなく、全部がオリジナル・コンテンツです。」

と胸をはる。その例として、5月5日に小ホールで行われる8人の歌手による40分ずつのリサイタル「歌手たちの競演」に触れ、

「例えば沖縄県出身の砂川涼子さん(ソプラノ)が「沖縄のこころ」と題したリサイタルを行います。砂川さんの歌は東京でも聴けますが、彼女の歌う沖縄民謡は、今回のびわ湖でしか聴けない。
そして折江忠道さん(バリトン)の「歌手生活41年 折江忠道七変化」。こちらでは、藤原歌劇団の総監督である(こわいおじさんかと思っていた)折江さんが、最後はミュージカルを歌っておどけちゃう。
他には、大阪クラシックの企画者である、お祭り男の大植英次さん(指揮)も参加してくださいます。」

と語る。

デビューから25年以上の円熟のアーティストたちを聴く、充実したプログラム

5月4日に小ホールで行われる「円熟を聴く」では、やはり40分の公演が8つ予定されており、こちらは器楽のプログラムとなっている。

「日本では、長く研鑽を積んで自分の音楽を深めてきた日本人アーティスト達が、外国人や若手に押され気味の傾向にあるし、教授活動も忙しくなる。ですから音楽祭を機会に、日本のベテランアーティスト達に沢山の名手がいることを再確認しようという趣旨で、「円熟を聴く」と題した8つのリサイタルを開催します。無伴奏もあれば、上村昇さん(チェロ)の共演者が迫昭嘉さん(ピアノ)という贅沢な回もあり、多彩なプログラムとなっています。『デビューから25年以上』を基準にご出演をお願いしました。」

戸田弥生(ヴァイオリン)のリサイタルでは、沼尻自身がピアノ伴奏を務める。

びわ湖ホール初となる野外オペラ「かがり火オペラ」

今回の音楽祭では、びわ湖ホール初となる野外オペラも予定されている(5月4日・5日)。演目はパーセル作曲《ディドとエネアス》だ。「かがり火オペラ」と題したこの公演の詳細について尋ねると、

「『湖畔広場』と呼んでいる、ホールと湖の間のスペースに、300席くらいの座席を設けます。キャストはびわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーが中心で、同じ曲目の定期公演を3月24日に演奏会形式で行ったばかり。万全の態勢で臨めます。」

多彩なプログラムで広がりを

クラシック音楽以外にも興味深いプログラムが予定されている。例えば、5月4日に行われるダルマ・ブダヤによるジャワ・ガムランの公演について。

「今年はドビュッシー没後100年ですが、ジャワのガムランはドビュッシーがパリ万博で聴いて作風に影響を受けたものです。もしこれを聴いてなければ、彼はその後、違った音楽を書いていたかもしれない。」

音楽祭ではいくつかの公演でドビュッシーの楽曲がとりあげられることになっており、ガムランとともに楽しむことができるようになっている。また5日に行われる冨田人形の公演について。

「『冨田人形』は人形浄瑠璃で、県選択無形民俗文化財になっていますが、大津市民でさえあまりなじみが無いと思いますので、是非ご覧になっていただければ。」

こうしたプログラムの広がりも、この音楽祭の大きな魅力だろう。

「びわ湖ホール」という開かれた場で、地域とのつながりを深める

地域の演奏家を楽しむステージも用意されている。

「無料で開放するロビーコンサートには、地元の演奏家の方々が出演します。さらに屋外では、高校の吹奏楽部などにも演奏してもらいます。びわ湖ホールは非常に開かれたホールです。無料だからなんとなく来たという方が、1000円だからついでに有料公演も聴いてみよう・・・という流れになればありがたいですね。もちろん、無料公演だけでも一日遊べますので、それだけ楽しんで帰ってくださっても構わないんです。」

運営にはボランティアスタッフを募集するという。(※募集は締切済)

「地元のお祭りですから、音楽祭を盛り上げようという熱意のある方たちが集まって、大津祭を手伝うように協力していただければいいなと思います」。

演奏・運営の両面で、地域とのつながりを深めることが目指されているようだ。

音大の文化祭の面白さをびわ湖に持って来る

比較的短い時間の多彩なプログラムが、時に同時並行で進められるという点で、昨年まで開催されていたラ・フォル・ジュルネとの類似性を感じてしまう。そのことについて質問してみると、「ラ・フォル・ジュルネの後継企画という位置づけではない」という力強い答えが返って来た。

「同じくゴールデンウィークの開催ですが、これは会場が数年先まで押さえてあるためで、中身は全くの別物です。ラ・フォル・ジュルネのように1日にいくつもの演奏会をはしごできたり、屋台が出たりというイベントは、もともとは音楽大学の文化祭のスタイル。50年も60年も前からあるフォーマットです。それを公共ホールで開催して成功を収めた点で、ラ・フォル・ジュルネは画期的だったわけですが。
私は桐朋学園の『桐朋祭』実行委員を6年間やりましたので、『近江の春』はその時に培ったノウハウを元に企画を進めました。」

そうした思い入れは、音楽祭のプログラムにも具体的に反映されている。

当時の桐朋際のプログラムから。藤原真理さんの他にも、人気アーティストの名前が連なる。

「1984年の桐朋祭の時に、ギャラなしで出演してくれたのが藤原真理さん(チェロ)なんです。その藤原さんが今回も出演してくれる。これは、かつての桐朋祭の思い出そのもので、今回は藤原さんに音楽祭のトップバッターをお願いしています。私のノスタルジーが反映されているんです。」

人数競争にはさようなら!演奏家の気持ちを最大限尊重する音楽祭に

更に、音楽祭の目指すところについても聞いてみた。

「私はプレイング・プロデューサーなので、演奏家の気持ちを最大限尊重する音楽祭にしたいと思いました。まず、きちんと会場練習の時間を取る。生煮えの演奏をするのが、演奏家にとっては一番辛いことですからね。時間割を見るとスペースが結構ありますが、これは会場練習の時間を取ってあるからです。演奏のクオリティを考えた配慮です。」

一方で、単に来場者数を成功のバロメーターとすることには異論を唱える。

「主催者発表に過ぎない来場者数の増減で、一喜一憂するのは馬鹿げています。それだけが成功の尺度ではありません。きちんとした企画を提供できたか、新しいクラシックファンを獲得できたか、コアなファンの方にも内容に納得して頂けたか。そういうことが大切ではないでしょうか。意味の無い人数競争にはさようならです。」

チケットの販売は既に開始されており、残席わずかの公演も出始めているという。
―ゆく春を近江の人と惜しみける―と松尾芭蕉も歌った地に、新たな音楽祭が定着していくことを、ぜひ期待したいものである。

取材・文:オペラ・エクスプレス編集部


近江の春 びわ湖クラシック音楽祭
2018年5月3日(木)~5日(土)
びわ湖ホール

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