オペラ・エクスプレス

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白鷺城の天守にうごめく魔性のものたち———泉鏡花の幽玄な世界《天守物語》公演レポート

日本オペラ振興会の《天守物語》を観てきました。泉鏡花の妖艶な原作に水野修考が作曲したオペラで、1977年の初演から上演が繰り返されています。台本は金窪周作。NHKの委嘱によるテレビ・オペラとして誕生し、ザルツブルク・テレビオペラ・コンクールに出品されました。1979年に舞台版が初演されています。
© Naoko Nagasawa (OPERAexpress)天守物語_2886
水野修考はジャズの即興演奏にも造詣が深い現代作曲家だそうです。このオペラはトーン・クラスター(密集的な音の塊を使用する現代音楽の手法)や日本の伝統的な音楽などを取り入れて書かれています。狭い音域内で言葉を優先させた歌唱が、和太鼓類を含む様々な打楽器が活躍するオーケストラと交互して物語を描き出していきます。

ストーリーは泉鏡花の「天守物語」を忠実になぞったもの。今回の演出は荒井間佐登。池田ともゆきの美術、桜井久美の衣裳はため息が出るほど美しく、岡田勇輔の照明も幻想的な雰囲気を添えていました。

白鷺城の天守閣に住む妖怪変化の富姫には角野圭奈子、澄んだ声で所作も美しかったです。亀姫の沢崎恵美は可憐。富姫が一目惚れする図書之助は中鉢聡。中鉢はテノールの中でもかなり深みのある音色で、もともとハイ・バリトンのために書かれたこの役に合っていたと思います。朱の盤坊は泉良平。身体が大きく、舌長姥のきのしたひろこと二人で剽軽なムードを醸し出します。薄の上田由紀子も﨟長けた奥女中の感じがよく出ていました。武田播磨守の井上白葉も良かったです。

富姫の妖術も獅子頭の目が傷つけられると消えてしまいます。しかしそこに近江之氶桃六役の大賀寛が現れて獅子の目に鑿を入れると、獅子の目が再び開き、富姫と図書之助の二人は追っての手を逃れて、虹の橋を渡って至福のうちにオペラが終わります。大賀は台詞のみですが凛とした声でさすが。このデウス・エクス・マキナ的な終わり方には幸福感がありました。
© Naoko Nagasawa (OPERAexpress)天守物語_9924
山下一史指揮のフィルハーモニア東京もバランスの良い演奏でした。ピットの中の合唱も、第一幕の冒頭で可愛らしい「通りゃんせ」を歌う児童合唱もとても良かったです。

カーテンコールには作曲の水野、台本の金窪も舞台に上がり観客の暖かい拍手に応えていました。
(所見:3月5日)

文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photograph : Naoko Nagasawa

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日本オペラ協会公演
日本オペラ・シリーズ No.76
《天守物語》
オペラ全2幕
作曲:水野修孝
原作:泉鏡花
台本:金窪周作
補作:まえだ純

2016年3月5日(土)6日(日)14:00
新国立劇場中劇場

総監督:大賀 寛
指揮:山下 一史
演出:荒井 間佐登

キャスト:(5日、6日の順)
富姫:角野 圭奈子/佐藤 路子
図書之助:中鉢 聡/迎 肇聡
亀姫:沢崎 恵美/伊藤 晴
朱の盤坊:泉 良平/豊島 雄一
舌長姥:きのした ひろこ/二渡 加津子
薄:上田 由紀子(両日)
侍女 女郎花:田中 美佳/松山 美帆
侍女 萩:神田 さやか/中川 悠子
侍女 葛:西野 郁子/太田 祐子
侍女 撫子:小林 悦子/山邊 聖美
侍女 桔梗:鈴木 美也子/丸山 さち
山隅九平:江原 実(両日)
小田原修理:塚田 堂琉(両日)
姫路城主(武田播磨守):井上 白葉(両日)
桃六:大賀 寛/中村 靖

合唱:日本オペラ協会合唱団
児童合唱:多摩ファミリーシンガーズ
管弦楽:フィルハーモニア東京
邦楽器:高橋明邦

美術:池田ともゆき
衣裳:桜井久美
照明:岡田勇輔
振付:飛鳥左近

合唱指揮:須藤桂司
児童合唱指導:高山佳子

公演監督:荒井間佐登

制作:公益財団法人日本オペラ振興会
主催:公益財団法人日本オペラ振興会/公益社団法人日本演奏連盟

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