オペラ・エクスプレス

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女性二人の創造的なチームワーク。指揮のシモーネ・ヤング、演出のカロリーネ・グルーバーらが記者会見———東京二期会『ナクソス島のアリアドネ』

東京二期会『ナクソス島のアリアドネ』記者会見より

(左より)中山欽吾/シモーネ・ヤング/カロリーネ・グルーバー/清野友香莉/近藤圭

10月27日、東京二期会『ナクソス島のアリアドネ』の指揮者、演出家による記者会見が行われた。この作品を日本初演(1971年7月)した東京二期会が、第二版初演から100年の記念すべき年に送る舞台は11月23日に開幕を控えている。


中山欽吾(東京二期会理事長)

中山欽吾(東京二期会理事長)

会見は、中山欽吾・東京二期会理事長からの熱のこもった挨拶で始まった。日本人歌手が集まって作られた東京二期会が上演するオペラについて「今後も海外の歌劇場との提携によって上質の舞台をお届けしたいと考えている」という。今回の舞台は、9月の『トリスタンとイゾルデ』に続くライプツィヒ歌劇場との提携公演として上演されるが、そうした国際的提携には両者にとってメリットがある、と語る。歌劇場には過去の舞台のストックが活用でき、二期会は制作費のシェアで協力することで上質な舞台を提供できる、と互いにメリットを得られるというのだ。「より広く、水準の高い舞台をお届けするよう務めたい」という、挨拶というより東京二期会の宣言とも感じられる熱いコメントに続いて、この日の主役、次なる舞台を作り上げるキーパーソン二人が登場した。指揮のシモーネ・ヤング、そして演出のカロリーネ・グルーバーだ。


シモーネ・ヤング(指揮)

シモーネ・ヤング(指揮)

シモーネ・ヤングは、過去にNHK交響楽団への客演の際に聴かれた方も多いだろう。今回の来日は、ハンブルク国立歌劇場の音楽総監督兼総支配人として『ニーベルングの指環』全曲のレコーディングも残した実力をオペラの舞台で示す初めての機会となる。
「13年前のNHK交響楽団(註:前回はNHK音楽祭への出演)以来の来日を、オペラとコンサートの両方に出演できることをとても嬉しく思います。『ナクソス島のアリアドネ』は1989年にノルウェイではじめて手がけて、それ以来何度も演奏してきました作品です。歌手、アンサンブルの親密な音楽づくりが求められる、小さいけれど美しい宝石のようなオペラですから、今回日本で指揮できるのはとても喜ばしいことですね。この作品では楽しさ、面白さといった芸術の明るい面をお見せしたいと思います、ふだん私が手がける作品はまじめであったり深刻であるようなことが多いのですけれど(笑)。25日に来日してすぐに稽古入りしていておりまして、ひと通りの全曲に手をつけてある状態まで進んでいます、若くて熱心な歌手たちと楽譜の中に入り込んでいく作業を楽しんでいます」と、すでにリハーサルを始めていることを笑顔で明かした。
演出のグルーバーとの仕事については「大事な友人カロリーネとは、最初はウィーンでの『ヴィッリ』(プッチーニ)で一緒に働きました。その後ハンブルクでH.K.グルーバーの『リア』、コルンゴルトの『死の都』で一緒に仕事をしてきましたから、こうして日本でも共演できるのは嬉しいですね。これからウィーンでプロコフィエフの『賭博者』でも一緒に仕事する予定です。」と語る。

また、今回の来日ではオペラの上演までに東京、大阪でオーケストラの指揮も披露する。前回はオペラの抜粋演奏だったが今回はシンフォニーの領分で、彼女のキャリアの中でも重要な作品でその実力を披露する。
「東京と大阪でオーケストラのコンサートにも出演します。東京交響楽団とはドヴォルザークの協奏曲をアリサ・ワイラースタインを迎えて演奏する他、ブラームスの交響曲第四番を演奏します。大阪フィルハーモニー交響楽団とはすべてブラームスの作品ですから、東西で(かつてオペラ、オーケストラを率いた)ハンブルクゆかりの作曲家の作品を演奏することになります。ハンブルクでは当地ゆかりの数多くのブラームス、ブルックナーによる演奏会演奏会を行っていましたから、その作品を演奏できるのは嬉しいことですね」と、コンサートに向けての抱負も語った。


カロリーネ・グルーバー(演出)

カロリーネ・グルーバー(演出)

続いてコメントした演出のカロリーネ・グルーバーは、東京二期会とは三度目の仕事となる。特にも、前回の『ドン・ジョヴァンニ』(2011)は、東京二期会のオリジナル新制作として話題となった舞台だ。
「東京での仕事はもう11年になります、初めは『フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ』(2005)、そして『ドン・ジョヴァンニ』、そして新国立劇場研修所での『魔笛』(短縮版/2013)と、もう東京は私の二つ目の家ですね(笑)。シモーネとはこれまでも一緒に仕事をしてきましたが、ここ東京でも一緒に仕事ができてうれしいですね、彼女は創造的なチームワークができるパートナーです。初めて仕事をしたときには”女性二人のチームでで上手くいくのか?”と言われたものですが、その懸念は幸い上演で覆せました」と彼女は悪戯っぽく笑う。

「『ナクソス島のアリアドネ』におけるホフマンスタールの台本は重層的、多層的に書かれていますから、いくらでも深読みできてしまいます。そこで今回の舞台では、二つのアイディアを”導きの糸”として演出しています。」と、この演出のコンセプトを語る。
「ひとつ目の糸は”芸術家が抱える問題について”です。プロローグで描かれるとおり、芸術家はスポンサーとの妥協なしには仕事できません。この作品の通りであれば100年前からそう、現在でもそういったことはあります。
幕が上がると、ウィーンで最も裕福な富豪の招きなのに集められた芸術家たちは殺風景な地下室に通され、みすぼらしいトイレしかそこにはありません。その部屋に示されるとおり、彼ら彼女らはスポンサーによって粗雑な扱いを受けるのです。お話が進む中で明確になりますが、彼らが提供する芸術より食事や気晴らしの花火のスケジュールが大事、とされてしまうのですからその酷い状況はお察しいただけるでしょう。先ほどシモーネが言ったとおり、ブッフォとオペラ・セリア、性格の違う二つのグループがひとつところに放り込まれてしまうことにより笑いも生まれますが、基本的には芸術家たちは酷く扱われています。」
「テセウスに見捨てられて死だけを願うアリアドネが、バッカスに出会うことで変化する、ここに現れる変容(メタモルフォーゼ)が二つ目の”糸”です。アリアドネだけではなく、オペラ本編に登場する人々すべてが愛に出会うことで変化する終わり方になります、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」のように。
一人の男性に操を捧げるアリアドネと、他の男性もいるじゃないかと歌うツェルビネッタは愛についての好対照の一対と考えています。その二つの視点を示した上で、人は考えや視点を変えることは可能なのか?と問う舞台になりますね、私自身にとっても。」と熱く語り、それでもまだ話し足りない様子も窺えたが、この日は語られなかった部分は舞台で示されることだろう。


清野友香莉(ツェルビネッタ役)

清野友香莉(ツェルビネッタ役)

続いて11月24日(木)、27日(日)に出演する若き歌手二人が登場、公演にむけての抱負を語る。
ソプラノの清野友香莉は難役ツェルビネッタで東京二期会の公演へのデビューを飾ることになる。
「この作品のオーディションはもう随分前のことになりますが、まさかこの役で東京二期会のデビューになるとは思ってもいなくて、決まったと知らされたときは飛び上がって大喜びしました。新国立劇場研修所の『魔笛』でご一緒したグルーバーさんとまた仕事ができることも、素晴らしい指揮者のもとで歌えることも、大学でも研修所でも先輩だった近藤さんと共演できるのも楽しみで、ほんとうに光栄に思っています」と、どこか新人らしい硬さも感じさせながらも笑顔で語った。


近藤圭(ハルレキン役)

近藤圭(ハルレキン役)

続いて登場した近藤圭はハルレキン役だ。
「2011年の『ドン・ジョヴァンニ』でカロリーネさんとは仕事させてもらい、素晴らしい演出にすぐ惚れ込んでしまいました。自分自身として、正直に演じたいと考えているのだけれど、今回の演出では自然と役の考え、心理に入っていける状況にしてくれる演出です。始まった稽古の中で、グルーバーさんからもその言葉をいただいて我が意を得た思いです。」とふたたび共感できる演出家と共演できる喜びをか隠さない。また「昨年まではハンブルクに留学していたので、『リア』も『死の都』も見ていますし、オーケストラのコンサートで多くシモーネさんの指揮は聴いています。そんな指揮者との共演は大きな喜びです。」と語る近藤にとって、今回の「ナクソス島のアリアドネ」は特別な舞台となることだろう。

取材・文:千葉さとし(ライター) reported by Satoshi Chiba / photo: Naoko Nagasawa


東京二期会オペラ劇場 NISSAY OPERA 2016 提携
《ナクソス島のアリアドネ》

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